第三十五章 組閣
党本部に組閣案を持って薫は臨みます。どんな組閣なのか?古株たちの反応はどうなのか?
会議室に着くと、ほかのメンバーはすでにそろっていた。
「総裁、昨日から連絡が取れなくて困りましたよ。今後はお気を付けください。」
菅沼が、入るなり苦情を言った。
「申し訳ありません。組閣に集中しておりましたので電池切れに気づきませんでした。」
そう弁明しながら、薫はいつものように末席に座りかけたが、
「おいおい、どこに座るんだね。総裁はこちらですよ。」
と菅沼は中央の椅子に指をさしていった。一同に笑いが起きた。
薫が着席している間に、草間は自分のタブレットをネットにつないでデータを共有させていた。
「総裁の組閣案を送りました。ご覧ください。」
一同が自分のタブレットをのぞき込む。しばらくしてどよめきが起こった。
「これは・・・」
「これが総裁案ですか・・・」
一同が驚愕の表情でタブレットをのぞき込んでいる。
―――てっきり、大幅な改革案を持ってくると思っていたが、何も変わっていない。予想が外れた。何も文句が言えないではないか。いったい何を企んでいるのか。
菅沼はそう分析した。
―――私の陣営の閣僚はそのままスライドか。話が分かるな。俺はどこだ?副総裁か、ポジションはわきまえているな。
宮島はすでに納得していた。
「ご意見がございましたら承ります。」
薫が促したが、しばらくは誰も反応しなかった。
少し時間が経過してから何人かが質問を始めた。
「官房長官ですが、迫田先生は閣僚経験がございませんが、重責が務まりますでしょうか?」
「迫田先生は、長年無派閥で党を俯瞰してみてきておられます。あらゆるポジションについて深い知見も持っておられ、私の会派でも貴重な存在です。だからこそ今回は、私を支えていただけると思いお願いしました。」
「すこし、趣旨説明をお願いできますか?」
「はい、総理大臣が変わったといって、内閣を入れ替えてしまいますと現場が混乱いたします。現状で問題がないところは引き続きお願いしています。細田先生は、ご時世柄党役員も含めて控えさせていただきましたが、細田派の閣僚には問題はありませんので変更しておりません。総裁選を交えました宮島先生の派閥からもそのまま留任をしております。しかし、私が進めたい政策に関しましては、一部私の会派から選ばせてもらいましたので差し替えております。」
「それが、官房長官や、厚労大臣、経産大臣、少子化特命大臣の人事ですか?」
「そうです。」
そこに菅沼が口をはさんだ。
「新しく大臣にするには、この二人は経験年数が浅くないでしょうか?四期、五期を務めている先生方も多くおられる中でいきなり抜擢されても、バランスというものがあります。」
「菅沼先生がおっしゃられることもごもっともだと思います。」
菅沼は考え直すのかと期待した。
「しかし、私も厚労大臣を一期目でありながら拝命しました。わからないことはありましたがそれなりに成果も出せました。経験年数が少ないことは問題ではなく、国民が誰を望んでいるかだと思います。だからこそ、私の閣僚人事は適材適所と考えております。
そういう意味もありまして、幹事長は引き続き菅沼先生にお願いすることにいたしました。」
「・・・・・」
菅沼は答えに窮してしまった。
「今回私が選びました、和田、簑島、斎藤の三名はやる気も実力もあると信じております。」
「しかし、我々は経験年数で長年決めてきた経緯もある。それをなし崩しにすることは党内の融和が保てなくなりますぞ。」
宮島が主張した。
「党内の力関係でしょうか?それは経験年数や集金力で決まるものなのですか?」
「それは・・・」
宮島は即答ができなかった。
「僭越ながら、先ほどの三名は今回の選挙で前回より得票を大幅に伸ばしております。宮島先生のところの先生方は軒並み得票数を下げておられましたよね。ましてや、差し替えた先生方は、比例復活ではありませんでしたか?」
「確かに、おっしゃられる通りだ・・・」
「私はどれだけ国民から支持を受けているかということが議員の力の指標ではないかと思います。」
薫の発言に反論できる者はいなかった。
「ご了解ということでよろしいですか?」
「異議なし。」
これで、すべてが決まった。
「幹事長、新閣僚や役員には連絡をお願いします。みどりの会のメンバーは私から連絡いたします。」
席を立つときに、薫は宮島に言った。
「外務省と財務省にはみどりの会から副大臣を入れておきました。ご指導、お願いしますね。」
それだけ言って、薫は会議室から出ていった。
残った党の重鎮たちはみな苦虫をかみつぶした顔をしていた。
「してやられたな。」
「現状追認に見えるが、しっかり喰うとこは抑えてやがる。」
宮島が吐き捨てるように言った。
「最初は副総裁で喜んだが、よく考えると口封じか。しかも新人のお守りまで押しつけやがって。」
「我々の負けですね。票数を言われると総裁には何も言えません。」
菅沼はあきらめたように言った。
翌日、特別国会が開催され、首班指名で薫は正式に第111代内閣総理大臣を襲名した。
その夜、閣僚名簿が発表されると藤田はそれを見て、ほくそ笑んでいた。
「薫もなかなかやるじゃないか。しっかり手を加えて、さらに攻めてきたな。」




