第三十四章 総理の苦悩
総理大臣になるには組閣をしなければなりませんが、新総理として党に試されることになります。
最初の業務は組閣である。特別国会開催まであと三日。前日の午後に党の役員会が開催される。そこで組閣案を提示して承認を受けなければならない。その夜から薫は一人で議員宿舎に籠った。すでにドアの外には警護の警官が立っている。うかつに外出もできないから冷食ですますしかない。
「組閣なんてどうしたらいいの。私にはわからない。明日までに決めろなんて・・・
草間さんに相談できる話でもないし・・・」
スマホからは、ひっきりなしにメール着信音や電話の呼び出音が聞こえてくるが、かまっている暇はなかった。あまりにうるさいので、薫はスマホの電源を落としてしまった。
「藤田さんから参考になるものが来ているかな?」
そう言いながら、スマホを放り投げて代わりにタブレットを起動した。しかし何も入っていなかった。
「藤田さんでも無理なのかな・・・」
そう言いながら、薫は少しずつマス目を埋めかけていた。まず、会派のメンバーでやれそうな人を配置しようと考えた。しかし、明らかに人員不足だ。埋まるはずもなかった。
薫の目に涙が浮かんできた。
「総理大臣ってつらい・・・」
薫は何度もタブレットを起動させてみた。しかし画面は変わらなかった。
そのころ、藤田も焦っていた。
薫が組閣に困ることは分かっていた。選挙前から組閣案を考えていたが、今になって考えると急進的な改革人事では現場がついてこないだろう。どうバランスをとるか。いろいろ組みなおしてシミュレーションしたがどの案も政権崩壊の可能性が高い。
宮島派、細田派は無視すると得策ではない。ならば、いっそのこと現状追認にするか。
藤田は組閣案を描いた。
―――よし、これならいける。反対意見は出ないだろう。
藤田は記載したデータをクラウドに送信した。
夜も更けた頃、薫は再びタブレットを起動した。何回目かで藤田からのデータが入っていた。
「藤田さん遅いんだから・・・」
薫はそう言いながらファイルを開いた。
『組閣は原則現状追認でよい。ただし、若干変更する。
官房長官はみどりの会の迫田議員を選べ、党人事も今のままでいいが、副総裁に宮島、細田は役職から外せ、危険だ。秘書の草間を副幹事長に入れて党を監視させろ。
細田派、宮島派が大臣の省庁はみどりの会から副大臣か政務官をいれろ。
厚労省の後任は任せる。』
なるほど。薫は感心した。
「藤田さんありがとう。でも皆さんの期待も裏切れないから、私の意見も加えさせてもらうね。」
そう言って組閣表を完成させた。すでに役員会当日の朝になっていた。
薫は草間を宿舎まで呼んだ。
「先生、どうされていたんですか?幹事長から連絡が取れないって電話がありましたよ。」
草間は転がっているスマホを見つけて悟った。
「組閣表です。昨日遅くまでかかりましたが、何とかできました。草間さんには党の副幹事長をお願いしたいです。」
「私が副幹事長ですか?そんなこと党が認めますかね。」
と言いながら組閣表を見た。
「これを一晩で・・・」
草間は内容に驚いた。
―――先生の経験ではとても一晩でここまでたどり着くのは、私もこんな案は考えもしなかった。
一見すると旧派閥にすり寄ったように見えるが、見事にくさびが打ってある。
やはり誰かが後ろにいる。そうでなくてはここまで巧妙にできない。総裁選で細田派が我々に味方したのも、世論だけでは説明がつかない。やはり何かがありそうだ。
草間は念のためにと、昨晩徹夜で作成してきた組閣表をポケットの中で握りつぶした。完敗だ。
「承知しました。」
二人は午後の党役員会に向かって、手配された公用車に乗り込んだ。車には警察の先導がついていた。
藤田の後押しもあり、無事に組閣案ができました。党はどう評価するのか?




