第三十三章 総裁選挙
藤田は薫を総裁にするために動きます。
総裁選には造反した宮島が出る意思を固めた。議席を減らしたといっても大きな派閥である。派閥以外にも彼を慕うものは多い。半数近くの票は間違いなく確保できる。
宮島は前会の総裁選を取りやめざるを得なかった資料がまた出てくるのではないかと心配したが、薫側から接触はなく、選挙戦は開始された。
しかし、藤田は戦況分析をしてさらにその上を考えていた。党員票は開けてみるまでは分からないが、民意を大きく反映することは予想される。議員票は確実なのは会派分のみである。民意でどこまで浮動票を引っ張り込めるかがカギだ。流れはある。もう一押ししておいたほうがよさそうだ。
「あそこの票をもらうしかないな。」
藤田は依然末永から託された情報網のうち数件とコンタクトを取り、情報交換をしていた。その中の「K」と名乗る人物に打診した。
「民国党細田のスキャンダルに関する証拠が欲しい。」
すぐに回答はあった。
「用意できる。何を提供してもらえるのか?」
取引は情報であり金ではないのがルールだった。
「心筋梗塞処置薬の認証に関する裏取引の情報でどうか?」
藤田は役人時代に掴んでいたデータを提示した。
「取引完了だ。」
藤田の手に裏金帳簿の一部、闇口座、音声データが送られてきた。おそらく贈賄側の離反者が提供したのだろう。
藤田は、細田個人のメールアドレスに「F」と名乗って帳簿の一部を添付して、接触要求を送った。
メールを受けた細田の秘書は驚いて細田のところにやって来た。
「どうします先生?」
「行くしかないだろう。」
「どんな奴かわからないです。危険ですよ。」
「そんなことは分かっている。しかしこれは本物だ。この写真だけで政治生命が飛ぶんだぞ。」
細田はかなり焦っていた。
「どこで落ち合うことになっている?」
「銀座三丁目の裏路地に白いワゴンを止めてあるとのことです。」
「銀座か・・・微妙な場所だな。」
「万が一の時は公安を?」
「いや、それはできん・・・」
細田は指定の時間に銀座に一人で向かった。そこには指定通りに運転席を隠した白いワゴンが止まっていた。
遠くから見ていた秘書がワゴンのナンバーを闇ルートで照会したが、該当なしだった。
「天ぷらか・・・」
細田は近づくとスライドドアが開いた。
「細田先生、ご足労をおかけしました。「F」です。」
サングラスの男はそう言った。
「申し訳ないですが、イヤホンとスマホはテーブルに出してください。」
「あの資料はどうやって手に入れた?」
細田はいきなり聞いてきた。
「そんなことは言えませんよ。ほかにもこんなものがありますよ。」
藤田は前を見たままタブレットを細田に見せた。細田の顔が青ざめる。
「何が欲しい。金か?いくらだ?」
「金ではないです。総裁選ですね。」
「誰かの回し者か?三村か?宮島か?」
「いえいえ、そうですね、民意の代表者とでも言っておきましょうか。民意はご存じですよね。」
「あの、三村薫を総理大臣にしようというやつか?」
「そうそう、それですよ。先生が協力していただければ嬉しいのですが。」
「三村の差し金か?」
「いえいえ、さっき言った通り民意の代表者ですよ。」
「当選すれば、資料は破棄してくれるのだな。」
「それはもちろんです。私も先生にはまだ辞めていただきたくないですから。」
藤田は思ってもいないことを言った。細田は考えている。
「わかった。宮島に椅子をくれてやるよりはいい。派閥に指示を出す。それでいいな。」
「はい、ありがとうございます。」
細田は車を出た。すぐにワゴンは走り去った。
細田の元に秘書が駆け寄る。
「要求はなんでした?」
「三村への投票依頼だ。民意の代表者とか言っていた。車の正体はわかったか?」
「天ぷらナンバーでした。」
「かなり用意周到だな。プロか?しかしどこかで見たような気がするが、気のせいか。」
その日のうちに、細田から派閥内に指示が出た。
選挙結果は、党員票は圧倒的に三村薫であったが、議員票は、小さな派閥が保身のためか宮島を推したため、ギリギリで宮島を抑えた。
宮島は敗北を認めた。一瞬の間が過ぎて満場の拍手が響いた。三村総理大臣の誕生である。
藤田の闇取引の凄味が出てきました。
薫は総裁に選ばれ、総理大臣として歩き始めます。




