第三十章 国民の反応
議事録の公開が始まりました。結果は・・・
議事録公開が始まった。薫たちの懸念は外れて、機密指定される事項は少なかった。
国民からの反応はすぐにはなかった。しかし、しばらくするとSNSに取り上げられるようになった。
「この05さんは局長クラスかな。」
「今週の会議の07さんと、先週の会議の09さんは同一人物だよね。」
といった詮索はあるものの、懸念した個人攻撃にはならなかった。
やがて、議事録内の政策論争がSNS内でも発生したり、動画投稿サイトで議事録の独自解説動画を流す者も出てきたりした。
薫はそれらを見て、議事録の公開が失敗ではなかったと感じていた。
省内でも、SNSを見ながら、法案の検討段階で市中の反応を参考にして修正する動きも出てきた。市民側にも政治参加の意識が出てきたのか、賛否両論が活発に発信されるようになった。
そこで、薫は公式な投稿サイトを設置することにした。さらに、たくさんの意見が投稿されるようになった。
投稿されるのは意見だけでなく、発言者の人気投票も目立ってきた。
「07さん、15さんの反論に負けるな。」
「私は08さんを応援しています。」
「15さんの意見は厳しすぎる。」
あれほど議事録公開を渋っていたある局長も、「03さんの意見は素晴らしい。頑張ってください。」と書かれた投稿を見て、ニマニマしていた。褒められてうれしくないはずがない。
部下にそれを見られて、
「局長、何か良いことがあったのですか?」
と聞かれ、
「何でもない。仕事、仕事。」
と言ってごまかしたりしていた。
今まで官僚の仕事は、政治家が評価されるだけで陰に隠れていた。それが直接目に触れて評価が帰ってくるので、仕事にやりがいを持つ者も増えていった。
しかしちょっとした弊害も出た。
「おまえ、ちょっと議事録公開での受けを狙ってないか?」
会議の中で、目立ちたいだけの発言も出てきてしまった。
薫は「委縮する」と言われていたことよりは良いかと、多少のことは目をつぶった。
厚生労働省の成功事例を聞き、他の省庁の中堅官僚からも実施したいという声が上がるようになり、議事録公開を追随する省庁も出てきた。
そんな中で、プッシュアップ支援事業のモデルケースである年金申請のプッシュアップの審議議事録も公開された。
既に受給している方からは、
「なんでもっと早くやってくれなかった。」
というお叱りの意見が多く。
「ほかの申請も早くやってほしい。」
という期待の声も届いていた。
懸念していた年金事務所への説明でも、意外と事務処理的な受給開始手続きの窓口業務は担当者も無駄ととらえていたようで、反対の声は少なく、
「年金相談に時間を振り当てられるようになる。」
と言った、前向きの声は多かった。
これには新井局長も驚いて、
「現場の声をじっくり聴いてこなかった我々の責任です。」
と反省しきりだった。
薫も応援されたかのような気になり、うれしくなった。
しかし、現実は厳しい。システム改修に計上した予算は概算要求から消されてしまった。
復活折衝で説得するしかない。初めての復活折衝に薫は緊張でしばらく眠れなかった。
久しぶりに、藤田からタブレットにアドバイスが届いた。
「復活折衝は数字で攻めろ。民意が賛成していることを数字で示せ。財務省側は効果を示せば落とせる。しかし交渉は欲張るな。概算要求の8割が確保できれば手を引け。」
簡単だったが有り難かった。
「藤田さん。ありがとう。」
翌日、薫は波多野に指示した。
「SNSとHPの投稿欄でプッシュアップ事業の賛成投稿数、反対投稿数の推移グラフ化してもらえるかしら。」
波多野は了解して作業に取り掛かった。
それを聞いてきた草間は、
―――急にどうしたのかな、またどなたかから助言でもあったのか?
と感じていた。
薫は、民意の高評価を示した資料を持って復活折衝に臨み、見事に8割超の予算を獲得できた。
薫は財務省の玄関を出るときに小さくガッツポーズをとった。
「やったね!」
薫の後ろで草間は、気づかないふりをしていた。
プッシュアップ支援事業も動き出した。
思いのほかの効果が出て、議事録公開は成功したようです。
プッシュアップ支援も予算がついて、順風満帆になってきました。




