第三章 薫の能力
初出勤の薫はいかにして財団に溶け込むのでしょうか?
翌日、薫はゆうぐれなあす財団に出勤した。スタッフに挨拶した後は、財団内の仕組みのレクチャーだった。
二日目から、本格的に仕事にかかった。今の事務の流れを把握し、今後必要な申請関係のリストアップに取り掛かった。すでに、最初に家畜用でリリースすることは分かったが、スケジュールが成り立っていない。家畜用薬剤として申請はできていた。承認はどうなのかわからない、管轄は農水省だから薫には伝手がなかった。海外に至ってはまだ何もできていない。
「藤田さんならわかるかな?」
薫は昼休みの時間を狙って藤田に電話した。
「家畜用の薬品については農水省の管轄だけど、知り合いがいたら紹介してほしいの。」
「おお、消費安全局に大学の同期がいるから紹介しようか。」
「頼みます。」
「あとでデータを送っておくよ。」
「ありがとう。頼りになります。」
薫は、関連する資料に目を通して、翌日電話をした。
「村上さんですか?厚生労働省の藤田さんから紹介を受けた、ゆうぐれなあす財団の三村と申します。」
「ああ、三村さんね。藤田から聞いているよ。どんな要件でした?」
「先月発表された、光合成を動物に適用する技術発表はご存じですか?」
「ああ、しっているよ。すごい技術だと省内でも持ちきりですよ。」
「その件で、家畜用薬剤として承認申請が出されているのですが、承認を早めることができないかご相談したいです。」
「それなら、ちょっと私の範疇ではないので担当の上田から電話させますよ。」
ほどなく上田から電話があった。
「農水省薬事審査の上田です。話は村上からうかがっています。調べましたら、あと一年くらいはかかりそうな感じですね。」
「なんとかそれを早めることはできないでしょうか?」
「我々の研究所も順番待ちの状態ですからね。」
「それではデータの提供をすれば、早まりますか?」
「データにもよりますね、利害関係者のデータですから。検証だけこちらでするなら確かに短縮は可能ですね。」
「データは豊富にあります。一度相談に伺わせてください。」
「はい、話を聞くことだけならいつでも。あとは内容次第ですね。」
「ありがとうございます。上司と相談してからまた別途日程調整させてください。」
電話を切ってすぐに末永のところに向かった。
「末永さん。少しよろしいですか?」
「この家畜用医薬承認の件ですが、今のままだと認可に一年はかかとかで提供が遅れそうです。農水省に確認したら財団からデータ提供できれば短縮できる可能性があるそうです。一度相談に行きたいので同行をお願いしたいです。」
末永は驚いた。入って三日目でここまでできているのか。その仕事の速さだけでなく、ネックだった承認日程について問題点を把握するだけでなく、対策まで考えている。驚くほどの理解度と行動力だと思った。
「勝算はありそうなの?」
「わかりませんが、チャレンジする価値はありそうです。」
「理事長にも同席してもらいましょう。」
「はい。先方に話をしておきます。」
末永は、理事長室に行ってミユキに話をした。
「あの三村って子はすごいわ。」
「あなたがすごいというなら、相当ですね。」
「家畜用医薬承認はどうなるかと思っていましたが、なんと農水省と話の場を作ってくれましたよ。
理事長にも同席してもらいたいから、来週の空いている時間でアポイントを取るように指示します。」
「はい、よろしくお願いします。頼もしい子ですね。」
ミユキは笑いながら回答した。
翌週三人で農水省を訪問した。理事長同席ということで、農水省側も局長まで同席する対応だった。そのためか、かなり財団側のデータを使って承認にてもらえる運びになり、承認までの期間が半減できそうだった。
さらに、未着手だった海外承認についても、国連のJECFA(合同食品添加物専門家会議)に対し申請することを優先し、FDA(米国食品医薬品局)、EFSA(欧州食品安全機関)についてはあと回しでも新興国なら使える可能性が高いということもレクチャーを受け、それぞれの窓口担当者も紹介してもらえた。
「三村さんのおかげで、家畜用の展開は予定より早く進みそうですね。」
ミユキは帰り道に嬉しそうに言った。
「私なんか、まだまだです。もっと頑張ります。」
薫は遠くを見ながら、そう答えた。
半年後には、ミユキと木下、そこに薫が加わって、JECFAとFDAに対し、申請をしに米国に向かった。一方、末永は技術者を同行させEFSAに申請に向かった。
薫はいきなり能力全開ですね。ミユキも末永もびっくりです。
このまま順調に仕事が進んでいくのでしょうか。




