第二章 転職
薫は転職を目指してゆうぐれなあす財団に向かいます。
ここから前作につながる話になります。
翌日、薫はゆうぐれなあす財団の事務所を訪れた。
出迎えたのはミユキ自身だった。
「よくいらしてくださいました。まだ設立しただけでこんな会議室しかなくて申し訳ないです。」
「いえ、中園博士から直接うかがえるとは思ってもみなかったです。大変光栄です。」
ミユキは薫にGGS(Great Green System)のしくみと財団の目的を説明し、労働条件や労働環境も提示した。
「財団と言ってもまだ実体がなくて、今は事務部門を構築しなくては何も進まない状態なんです。のぞみプロジェクトから事務員を借りて何とかやっている状態で、私とあちらにいる末永の二名が専属でいるだけですよ。もしこの財団に来ていただけるなら、非常にありがたいことです。」
「はい、喜んでこちらで働きたいと思います。」
薫は即答した。
「そんな、今ここで決めなくても、ゆっくり考えてからいらしても構わないですよ。」
ミユキのほうが戸惑ってしまった。
「もう、決めていたんです。今日は最終確認に来ただけで、財団の設立目的、特に無償提供による飢餓対策は素晴らしいです。その一役を担えるなら私はこの財団で働きたいです。」
ミユキは立ち上がって、薫の手を取りながら、末永を呼んだ。
「末永さん、こちらに来られますか?新しく働いてくれる方が見えました。」
その声に反応して末永がやってきた。
「こちらは副理事で、私の秘書の肩書にはなっていますが、今は事務を取りまとめてもらっている末永さんです。
末永さん。求人で来ていただけた三村さんです。厚生労働省で働いている方です。」
「末永です、厚生労働省の方に来ていただければ百人力です。とてもありがたいです。」
「当面は末永さんの指示に従って動いてもらうことになりますが、いつからこちらに来てもらえますか?」
「そうですね。実はまだ職場には何も話をしていないので、引継ぎやら残務整理をしなくてはならないです。一か月の猶予をいただけますか?」
「はい、それくらいなら、大丈夫でしょう。末永さん、よろしいですよね。」
「もちろんです。逆に一か月で大丈夫なの?」
「なんとかしてきます。」
薫ははっきりと答えた。
帰り道に、薫は藤田に電話した。
「今日、決めてきちゃった。一か月後に退職するよ。」
藤田はその決断の速さに驚いたが、
「じゃあ、送別会を急がなきゃね。」
と平静を装って答えた。
一方、ゆうぐれなあす財団では、ミユキと末永が話をしていた。
「良い方が来てくれそうですね。」
「若いですが、実績もありそうだし、期待できますね。」
末永も同調したが、
「ミユキさん、ちょっと書類を拝見できます?」
といって、薫の持ってきた応募資料を受け取った。
「ちょっとお借りします。」
そう言って、末永は書類を持って部屋を出た。
「三村薫、父親は三村伸郎・・・」
そう言いながら、手帳のページをめくっていった。
「やっぱり、三村史郎の姪か。なぜ、そのことを言わなかったのか。まさか、共生バイオの差し金?」
「まだ、理事長には知らせないほうが良いか。」
翌日、末永は薫に直接電話をした。
「昨日お目にかかった、ゆうぐれなあすの末永ですが、少し伺いたいことがあります。」
「はい、なんでしょうか?」
「あなたは、三村史郎さんの姪御さんですよね。」
「はい、そうです。」
「昨日の面接時にそのことを言わなかったのはなぜかしら?」
「私は自分の実力で財団に入ることを認めていただきたかったです。」
「あなたの叔父の三村史郎さんが、我々の研究の基礎を作ったことはご存じだったのですか?」
「知りませんでした、記者会見資料の名前を見て先日父に聞いて知りました。」
「唐突ですが、共生バイオという会社はご存じですか?」
「はい、製薬会社の一つだということで名前は知っていますが、直接仕事でかかわったことはないです。共生バイオが何か?」
「いえ、関係がなければ問題ありません。失礼なことを伺いましたことをご容赦ください。またこの件は中園理事長には内密にお願いします。」
「はい、私も叔父の件は話すつもりはございません。」
「では失礼します。来月お待ちしております。」
そう言って末永は電話を切った。
「共生バイオは関係ないか。心配しすぎたかな。悪い癖だ。でも、三村家の血は争えないということかな。」
薫は翌日上司に退職の意向を伝えた。当然慰留にかかるが、薫は覆らない。
引き継ぎ業務をするために後継者を指名してくれた。
一か月やみくもに働き、やりかけの仕事は目途をつけて、滞りがないように完璧に後継者にすべて引き継ぎを完了した。
財団への入所を翌日に控えて、薫と藤田は、いつもの焼鳥屋で二人だけの送別会を行っていた。
「藤田さん、これからも助けてくださいね。薬事申請が当面の仕事らしいの。医薬局のエリートは期待できるわ。」
「おいおい、俺はエリートではないよ。まぁ、手続きがわからなければいつでも聞いてくれ。ズルはできないが、通しやすくするためのノウハウはある。」
「頼もしいわ。」
「がんばれよ。俺はいつでも応援している。」
「はーい。」
薫は少し酔っている。今後の仕事に不安があるのは隠せなかった。
藤田はそれに気づいていたが、何も言わずに傍らで笑っているだけだった。
薫の前途は明るいのかな?疑いを持つ末永の目は鋭い。
次回以降の薫の活躍に期待してください。




