第二十七章 救いの神
回答を期待していなかった薫に救いの神が現れました。
その正体は?
回答期限が来たが、「対象なし」の回答の山だった。しかしその中に年金局だけ回答があった「年金支給開始手続き」
薫はさっそく新井年金局長を呼んだ。
「私もまだ100%納得ではないですよ。」
いきなり手厳しい回答だった。
「しかし年金機構の事務費が年金自体を喰ってしまっているので、低減効果が見込めるならと思い、リストに挙げました。ただし、現場の反対圧力はもっと強いですよ。」
「それは分かっています。」
薫はしばらく考えてから、
「これを実現するために必要なシステム改修範囲と費用を、そして低減が見込める事務費用を見積もってください。」
「わかりました。」
数日後、新井局長から改修見積もりと、効果予測の資料が届いた。
薫は、政策秘書三人と資料を吟味した。
「ストーリーとしては筋が通っていますね。費用対効果も十分あります。」
草間は感心したように言った。
「しかし、低減された分の職員をどうします?辞めてもらうわけにもいきませんよ。」
波多野が資料をめくりながらつぶやいた。
「新井さんはそこを心配していました。人員問題をセットにしないと、納得されないでしょうね。」
薫は新井と対面した時を思い出していった。すると野村はすかさず、
「対策は配置転換しかないでしょうが、年金機構は特殊法人で公務員ではないですから扱いが厄介です。」
薫は少し考えてから、
「非正規職員は順次契約打ち切りはやむなしでしょうね。ニーズがあれば地方厚生局で働いてもらうとかもできます。あとは退職者の補充を減らしていくぐらいかな。正規職員は慎重な検討が必要ですね。」
「それでも納得がいかない人はいるでしょう。」
野村が食い下がるので、薫が補足した。
「すぐに辞めさせるというわけではないです。ある程度効果が定着してからでないと人員削減はできないです。その間に希望調査を行ったりするか、省内で人員が足りないところに出向の形をとってもよいでしょう。職員にも生活がありますからあまり非情にもなれません。」
「いたしかた無いでしょうね。」
草間がそう言って、話が途切れた。
「今日話をした内容で、新井局長から省内に説明してもらいましょう。」
薫が締めて打ち合わせは終わった。
―――妙に話が簡単に進むな。てっきり回答はないと思っていたが・・・年金局長に聞いてみるか・・
草間は、動きの速さに違和感を抱いた。
その日の午後、草間は庁舎で新井局長を見かけた。
「新井局長、少しよろしいですか?」
「草間さん、なんでしょうか?」
「プッシュアップ支援のリストアップの件ですが、年金局はどうして名乗りを上げたのですか?」
「それは、効果が上がると判断したからで・・・」
「本当にそれだけですか?誰かに指示されたとか・・・」
新井は少したじろいだ。それは薫が記者会見した日の夜だった。新井の電話が鳴った。
「新井君?藤田だけど。」
「藤田さん。お元気でした?」
「ああ、少しのんびりさせてもらっているよ。」
「突然電話とは、何かありましたか?」
「ああ、ちょっと頼み事があってね。今日大臣が記者会見しただろう。プッシュアップ支援のモデルケースを君のところでできないかな?例えば年金機構とか。」
「それは無理ですよ。」
「やれば成果はあがるぞ。事務費は大幅に下がる。」
「確かにそうですが、私が省内で矢面に立ってしまいます。おそらくあの雰囲気ではリストを出す局はないですよ。」
「ああ、そうだろうな。でも、うまくいけば、あの大臣なら事務次官への道も開くぞ。」
「しかし・・・」
「正論で行けばいい。あとはすべて大臣が引き受けてくれる。ネタがないと動けないだけだ。頼む。」
「わかりました。少し考えさせてください。」
「良い答えを待っているよ。おやすみ。」
平静を装い新井は答えた。
「いえ、何もないですよ。」
草間はそれを見逃さなかった。
―――誰かが糸を引いてそうだが、しっぽは出さないか・・・
そう感じたがこれ以上の追及はやめた。
藤田が先回りして動いています。そこに感づいた草間も鋭いです。
今後は、新井がキーマンになっていくのか。




