第二十八章 躍進
半ばごり押しで進めようとする薫に勝ち目はあるのか?
省内政策会議で新井局長から年金申請プッシュアップ化について説明があった。
薫は聞きながら、並んでいる出席者の顔を見た。なるほど、藤田さんのリストにあった『断固反対するであろう』面々は、そろって渋い顔をしている。
新井の説明が終わった。薫は拍手しながら、
「新井局長、ありがとうございます。」
そして、会議テーブルの方に向き直して、
「私はまずモデルケースとしてこれを推進していくことにします。余剰人員については私が責任をもって対処いたします。その時は皆さんの協力をお願いします。」
なかなか反応はない。仏頂面のままだ。
「今回リストを出していただけたのは年金局だけでしたが、局によってはプッシュアップがなじまないところもあります。そうね、医政局や医薬局、労働基準局なんかもそうかな。」
薫は、藤田のリストにあった、味方になってくれそうな局長に対し、理解を示した。
「まだできそうな案件のある局もあるようですが・・・」と言いながら、仏頂面をしている局長のほうを見た。局長たちは慌てて視線を外した。
「今はあれこれできないので、一つあればよいですが、結果が出たらお願いしますよ。」
と言って局長たちを牽制した。局長たちは沈黙を続けた。
こうしてプッシュアップ支援はなんとかスタート台に着いた。
その日の午後の秘書との打ち合わせで草間が、
「良かったですね。反対意見も出ずに通りました。」
そういうのに対し、薫は、
「いやいや、何も言わなかっただけで腹の中は反対でしょう。これからの事を虎視眈々と見てくるんだから。」
珍しく怒りをあらわにして言った。
「だから、続いて透明化の件も進めちゃいましょう。」
「急ぎすぎではないですか?」
野村が心配そうな顔で言った。
「今回のプッシュアップ支援の件は、我々としては効果が大きいですが、国民からしたらどうですか?年金請求は一生に一回だけです。成果としてみてくれません。プッシュアップ支援は国民負担の軽減にはならないです。もちろん支援が届かなかった人の救済効果はあります。イメージは良いでしょう。しかし、体感的な効果はどうでしょうか、おそらく感じない人のほうが多いのではないですか。」
薫の思いに、草間が答えた。
「おっしゃる通りですね。国民からは直接効果が見えないです。」
「だからこそ、わかりやすい透明化は必要です。そこで提案ですが、議事録の公開なら予算なしでできると思いますが、いかがでしょうか?」
薫は続けた。
「前の打ち合わせで、個人情報や機密情報が問題になるという指摘がありましたが、そこは黒塗りにするしかないです。しかし、なぜ黒塗りかという理由だけ記載すればいいでしょう。発言者も特定できないように名前は伏せましょう。私の名前は載せても構いません。他省庁が同席する会議は対象から外します。こういったルールを作ってやればできると思います。」
「では、そのルールの素案を作りましょうか。」
波多野はニコニコしながら言ってきた。
「では、波多野さんにお願いしましょうか。」
「え、私がですか?」
「やりたそうだったからお願いしますね。」
反対派を押し切って進めたプッシュアップ支援。勢いに乗って透明化まで進めようとする薫に勝算はあるのか?




