第二十一章 天国と地獄
薫は初登院で議員として一歩を踏み出します。しかし現実は厳しいものです。
招集日は朝からテレビカメラの密着だった。
登院すると、今日は中央玄関から入ることができる。登院ボタンを押すと、さらにマスコミが群がって写真を撮られた。いくつかインタビューも受けた。議員バッジをつけてもらえ、記念撮影をして民国党の控室に移動した。
菅沼幹事長がすかさずやって来た。
「どうだい国会議事堂は?立派なものだろう。これからは党のために働いてくれ。」
――えっ?党のため?日本のためではないのかな?
薫は菅沼の言葉にちょっと違和感を覚えた。
そのあとは薫の姿を見つけるとたくさんの議員が集まってきた。
「1000万票の三村さんですよね。よろしく、同じく民国党の和田です。2回生です。」
「斎藤です。私は、三村さんのおかげで当選できました。名簿下位だったからあきらめていたけど、うれしいです。ありがとうございました。」
「そう、それは良かったです。」
その後、議員総会が開催され、自己紹介をした。薫が立つと満場の拍手だった。
議員会館に行くと、菅沼さんが派遣してくれた秘書の長峰さんがいた。
簡単な今後のスケジュールのレクチャーを受け、昼ご飯を食べた。
午後に本会議場に行った。自分の名札を探した。民国党の前のほうにあった。
席に座ると、一人の男がやって来た。
「1000万票ですか。素晴らしいです。中民党(中道民主党)の井上です。今回改選でなくてよかったですよ。」
そう言って握手を求めてきた。
ほかにも数人の他党の人たちがあいさつに来た。
本会議が始まると議長、副議長の選出、議席の指定、会期日程、各委員会のメンバー、すでに決まっていることを承認するだけだった。
薫は希望通り厚生労働委員会に入ることができた。
そのあと開会式になり天皇陛下をお迎えに行き、開会のお言葉をいただいた。ミユキ先生の代行で叙勲を受けた時以来の陛下だった。
翌日からは厚生労働委員会が始まる。膨大な資料を見ておく必要があった。
委員会に出ても発言の機会はない。採決に参加するだけだった。
ようやく、委員会で質問をする機会を得た。事前に打ち合わせをするから、閉会後に控室で待つように言われた。薫は質問したいことを原稿にまとめて持参した。しかし、党から渡された原稿を読むだけだと言われた。私の意見ではない。
本会議の投票も党議拘束があり、裏切りは許されなかった。意に添わぬ投票もせざるを得ない。
議員というのは党に従って投票ボタンを押すだけの存在だった。
薫は藤田の言葉を思い出した。自分の勉強不足もあるので、有志の勉強会を開催することにした。日頃よく挨拶を交わす議員に声をかけてみた。薫主宰ということであればと党外を含め10人ほどが集まったが、党からは何も言われなかった。
そこで薫は裏も表もいろいろ知ることができた。薫もまたじぶんがやりたいと公約に挙げたプッシュアップ支援についていろいろ意見を聞いた。
「そのアイデアは素晴らしいよ。でもそのレベルになると議員では、それも一回生では難しい。まず党が取り上げてくれないような案件だ。」
ベテラン議員の大熊が言った。
ほかのメンバーも否定的な意見が多かった。確かにそうだ。党議に縛られている自分では難しいのは分かる。薫は現実とはこんなものかと思い、地道にやっていくしかないかと考えた。
やがて臨時国会が終わり、通常国会が開催された。何も変わることがなく毎日法案が処理されていくだけだった。
しかし、終盤に、「児童手当支給基準の見直し案」の採決があった。党議でもちろん賛成しなくてはならない。しかし、支援が大幅に減る内容であり、薫は納得がいかなかった。
菅沼幹事長のところに行って、賛成しかねると伝えた。しかし、菅沼は、
「それは許されない。棄権も許されない。それが党議だ。何事もバランスで成り立っている。理想が通るところではない。」
と言った。
薫は絶望感にさいなまれ、藤田に電話をした。
薫の志とは異なる世界だった。銀はただの駒でしかない現実にどう立ち向かうのか?
藤田は、よい策を講じることはできるのか?




