第十八章 工作
薫を立候補させるには与党民国党に近づく必要がある。藤田は行動に移した。
藤田は入手した資料を精査した。間違いなく本物だった。公務員藤田としては見逃すことができない代物だ。しかし業務に使えない。出所を問われるがそれは言えない。
やはり闇で使う以外に使いようがないか。
藤田は、扱いに悩んだ。
――もったいないが、薫のために使うか。あとは飴の用意だな。
藤田は、自分の管轄内で菅沼が欲している事項をリストアップし、その中から手渡してもあまり影響しないものを選定した。
「これは3年位前からうるさく言われ続けているから、喜ぶだろうな。」
そしてある日の国会閉会後の廊下で菅沼幹事長を見つけた。すかさず近寄り、
「幹事長、少しお話がありますが、よろしいでしょうか?」
と言って、人払いをした。
「個人的にお話したいことがあります。できましたら一度席を設けますのでおひとりでお越しくだされば幸いです。」
「お、私一人でか?」
「はい。少し内密なお話ですので・・・」
「わかった、時間は秘書と打ち合わせてくれ。」
「はい、よろしくおねがいしします。」
一週間後に藤田は赤坂の高級料亭を奮発して、菅沼を待った。約束より5分遅れて菅沼は現れた。
「やあ、藤田君。遅れてすまなかった。」
菅沼は少し上機嫌であいさつした。
「まあまずはご一献。」
と言って、酒を注いだ。
菅沼はそれを飲み干すと、藤田に聞いた。
「いったい何の話で私を呼んだんだ?」
「次の参議院選挙の候補者の件でございます。」
「まだずいぶん先の話だな。公認はまだだぞ。」
「それは存じております。実は立候補を目指しているものがおりまして、先生のお力で何とか実現できないものかと思いまして、ご相談している次第です。」
「どこの誰だ?」
「ゆうぐれなあす財団理事長の三村薫です。」
「女か。ゆうぐれなあす財団?あのノーベル賞を取った財団か?」
「はいそうです。」
「少しは票の足しになるかもしれんな。」
菅沼が食いついてきた。
「できましたら、特定枠で、それも上位をお願いしたいのですが。」
藤田が言うと、菅沼はにらみつけるように言った。
「それはできん。ぽっと出の新人を優遇したら示しがつかん。」
「私としては、かねてより先生から要望がありました。先進医薬品開発特区に対する予算付与の働き掛けもできますが。」
「なに、あれをやってくれるのか。」
「はい、来年度予算要求に盛り込ませます。」
「それなら検討に値するか。」
「お約束はいただけませんか?」
「無理だ無理だ。」
―――くそっ、予算だけつけて候補者に入れられなければ水の泡だ。使いたくはなかったが仕方がない。
藤田はそう考えて、鞄から封筒を出した。
「では先生、これをご覧ください。」
そう言って菅沼に封筒を手渡した。
菅沼が封筒から書類を出すや否や、さっと顔色が土色になった。
「藤田君、なんだこれは。」
「御覧の通りのものです。」
「どこから手に入れた。」
菅沼の書類を持つ手が震えている。
「・・・・・・・・」
「共生メディカルラボからの資金提供がなぜわかる?」
「やはりお心当たりが?」
菅沼はしまったという顔をしたが遅かった。
「この件は誰が知っている。大臣や政務官は?」
菅沼の声が震えてしゃがれてきた。
「私しか知りません。」
「たのむ。破棄してくれ。」
「私の願いを聞いていただければ。」
「貴様、脅す気か?」
「いえ、お願いをしているだけです。」
「わかった。選挙の件は了解する。特別枠一位でいいな。党内の調整はちゃんとやる。」
「ありがとうございます。」
「一度、その三村薫とやらを連れてこい。」
「はい。近々伺わせていただきます。」
「絶対にリークするなよ。」
「はい、それはご安心ください。」
その日の会談は終わった。菅沼はふらふらしながらうつろな目つきで帰っていった。藤田は残った酒を飲みながら、
「また、手を汚しちまったな。」
とつぶやいた。
与党幹事長さえ手玉に取る藤田の手腕は見事です。しかし、その分藤田はどんどん闇に落ちていきます。




