第十七章 世代交代
藤田と末永が二人だけで接触し、何を話すのか?
薫を国会議員に仕立てるための作戦会議か?
二人はお互いに顔を見合わせながら、料理が来るのを待った。
一通り、料理が並んだところで、藤田が酒を勧めた。
「私は、今はちょっと控えておりますので。」
そう言って酒を断った。
「そうですか、それでは遠慮なくいただきます。」
そう言って藤田は手酌で飲み始めた。
「で、ご用件とは?」
藤田が切り出した。
「GGSですが、なかなか思うように進んでおりません。欧米には手ごわい抵抗勢力があり難儀しております。」
「食品産業や飼料産業ですね。国も後押ししているから厄介ですよ。それを厚生労働省にどうにかしてほしいと言われても海外までは手が出せませんからね。」
「それはもちろん承知しております。今日はそう言う依頼ではなく、藤田様個人に対して・・・」「私にですか?」
藤田は予想外の展開に驚いて持っていた猪口を置いた。
「何を企んでいます?」
「企みだなんて。実は財団の理事長を次の参議院選挙に立候補させたいと考えております。」
「えっ。薫さんをですか?」
「財団から政界に入り、政治力を使わないと打破できないと考えております。」
「まあ、それは一つの手段としてはありますね。でも、勝算は?」
「選挙はやってみないとわかりません。財団の知名度でどれだけ票が入るかは未知数です。お願いしたいのは、与党民国党の幹事長である菅沼氏に名簿一位を依頼していただきたいのです。あなたなら菅沼氏に個人的にも話ができますでしょうから。」
「確かに、話はできるが、・・・こんなこと簡単に受けてくれるわけがない。」
「表向きはノーベル賞受賞財団の理事長であることやGGSの成果で押せばいいと思います。」
「それだけでは無理だ。」
「もちろんそうでしょう。そのためのこちらは私からのプレゼントです。」
そう言って、末永は封筒を手渡した。
藤田は封筒内の資料を取り出して数枚めくってみた。驚愕の資料だった。
「末永さん、これは・・・・
我々もうすうす掴んではいましたが、決定的なものは得られていなかった。どうしてこれを?」
「私にもまだいろいろ人脈がありますので、データは在る所からは出てくるものです。
これを使えば幹事長は断れないのではと思いますが?あとはあなた方のほうからおいしい餌を与えれば完璧でしょう。」
「私にこれを使えというのか?公僕だぞ。」
「そんなことおっしゃっていいのかしら?理事長、いや薫のために事務次官の椅子を蹴ったのでしょう?」
「なぜ、それを・・・」
「それだけじゃない。共生バイオの時も裏でかなりやっていましたね。WADAのときもNASAの時も我々の知らない資料がいくつか渡っていました。あなたが手をまわしていたのでしょう。」
「まいったな、お見通しだ。さすがだな。」
「では、受けてくださるかしら?」
「しょうがないな。まだ時間はある。機会を見て接触する。」
「ありがとうございます。それでは、これは私から藤田様へのプレゼントです。」
取り出したのは、末永がずっと使っていたシステム手帳であった。
「どうしてこれを私に?」
「ここには私がずっと使ってきた人脈があります。残念ながら亡くなられた方もいますが現存の方には連絡してあります。この人脈をどうぞお使いください。」
「わかりました。ありがたく使わせていただきます。それでこれから末永さんはどうなさるのですか?」
「実は、先日癌にかかっていることがわかりまして、すでに手遅れの状態で、とても選挙までは持たないと言われています。まもなく財団を去ります。そしてだれも知らないところに行くつもりでおります。」
「えっ。そんな。それを薫は知っているのですか?」
「知らせてはおりません。これからは私に代わってあの子を支えてあげてください。私の後継者はあなたしかいないです。お願いします。」
「わかりました。私の命に代えてでも守り通します。」
「あの子は純真無垢な子です。しかしまだ望みを達成できておりません。まだまだ支援が必要です。」
最後に末永は言った。
「今日のことはどうかどなたにも内密にお願いします。」
「はい、それはもちろんのことです。」
こうして末永から藤田への引継ぎが終わった。
藤田は、大変なことになったと思ったが、なぜか同時に闘志も沸いてきた。
「薫が国会議員か、悪くないな。」
二人は料亭の玄関で別れた。
「それではよろしくお願いします。」
「末永さんもお大事にしてください。」
藤田はこの後に末永に会うことはなかった。
末永のすべてを引き継いだ藤田はこれからどのように薫を支えていくか。
余命いくばくもない末永はどうなるのか?




