第十六章 新理事長
新理事長になった薫はいかに財団を切り盛りいていくか?
そこに末永が助言をする。何を話すのか?
薫が理事長になり、財団は新体制となった。副理事長には江崎主任が昇格、事務局長は長年薫を手伝ってきた、髙梨が理事に承認し、就任した。
辞めたはずの末永は、相変わらず顔を出している。役職がない分いろいろ助言をしてくれる。とてもありがたかった。
ミユキの残した膨大な原稿は、薫が出版の段取りをし、関係各所に配布した。特に大学や研究所からは、若手教育に使えると評判は良かった。
ノーベル賞の結果、GGSは再び注目されたが、欧米の普及を進ませることはできなかった。
歯がゆい思いをしている薫に対し、末永は何か考えているようで、いろいろと調べ物をしていたが、薫には何も知らされなかった。
しばらくして、末永は、薫を食事に誘った。
「理事長職ご苦労様です。」
「いえいえ、まだ私はミユキ先生のようにはできなくて。」
「そんなことはないですよ。財団内はうまくまとまっています。」
「でも、なかなか普及率は上がらないし、抵抗勢力には歯が立たないし、全く力不足です。」
「あの抵抗勢力はもう財団レベルでは対応できないようですね。」
「でも、諦められない。」
「今の抵抗勢力と張り合うには政治の力が必要です。」
「政治の力?厚生労働省に依頼するの?それなら今までもやってきたけど・・・」
「もっと直接的に動かないとだめですね。」
「直接?」
「そう、理事長に政界進出していただきたい。」
末永は、いきなり本題を言った。薫は予想外の言葉に驚いた。
「そんな・・・私なんかができるわけがない・・・」
薫はフォークに刺した肉をそのまま持った形で体が止まってしまった。
「誰かに頼むのでは推進力が弱まります。財団から政界に進出しなくては突破できません。」
「いきなり立候補して、当選できるような簡単なことではないですよ。」
「もちろん、そうです。次の3年後の参議院選挙を狙います。与党の民国党(民主国民党)から出る必要があります。これからその準備をしていきます。いいですね。」
「私じゃなくて、末永さんが立候補すればいいじゃないですか。」
「私は・・・・・。もうそれには年を取りすぎました。」
「そんなことないですよ。」
「いいですか、話を進めますのでよろしくお願いします。」
「そんなぁ。」
薫は突然の展開に驚いてしまったが、末永に押される形で承諾することになった。
「末永さんが言うなら、やってみるしかないか。まあ、当選なんか出来っこないだろうし。いったん受けておくしかないですね。」
薫はまだ楽天的に考えていた。
末永はそれを聞いて、やれやれという態度で返したが、薫には効かなかったようだ。
――ご自分のカリスマ性はまだ知らないようですね。知名度だけでも当選はできそうですよ。それでは外堀から埋めていくしかないわね。
そう思いながら笑っていた。
翌日、末永は藤田にアポイントメントを取り厚生労働省に行った。
「ご無沙汰しております。ゆうぐれなあす財団の末永です。」
「財団が何のご用事で?」
「実は、GGSの普及がなかなか進まないために、少し相談したくて伺いました。」
「私にできることでしたら、なんでも。」
お互いに笑顔で腹の探り合いになっていた。
「単刀直入に言います。機密事項のある話がありますので、どこか二人だけで話せるところでお願いしたいです。」
「財団に伺うのではまずいのですか?」
「はい、財団内でもちょっと話せない事項です。」
「わかりました。こちらで手配して連絡いたします。」
「よろしくお願いします。」
翌日、藤田は赤坂の料亭を指定してきた。
「さすがに高級官僚さんだとこういうお店を知っているのですね。」
「いやいや、ここはかなりリーズナブルな店で、私ぐらいでも使えます。もっと高級な店もありますが、政治家専用ですね。でもここもきちんと機密は守れる店ですのでご安心ください。」
そう言って、二人は奥まった個室に案内された。
いきなり、末永はとんでもないことを薫に指示しました。
そして、藤田と初めて接触します。末永の魂胆は何でしょうか?




