8・影の顔
あなたが影に触れようとしているのは、怖いからだった。
怖いからこそ触れて、なんでもないものだと確認したいのである。
けれど望みは叶わない。
あなたの指先から逃れて消えた影は、気がつくとまた生じているのだ。
影は目に映るたびに大きくなっていく気がする。
黒いと言っても一色ではない。さまざまな黒が入り混じり、複雑な陰影を醸し出している。
やがて、影の陰影が顔に見えるようになってきた。
どこかで見た顔だ。
箪笥と壁の隙間から腕を抜き、あなたはぼんやりと考える。
どこで見た顔だったろうか……
ふと顔を上げて座敷牢の窓を見る。
内向きに開けることはできるが、外には鉄格子があって出ることはできない窓だ。
その窓は今閉じられている。寒いからだ。
窓ガラスの向こうの木々が暗闇に閉ざされていく。
もうすぐ夜になるのだ。
天井の照明が勝手に灯る。
座敷牢にはコンセントがなく、暖房器具と言えば湯たんぽくらいだった。
だけど電気自体は通っているらしく、照明は自動であなたの意志とは無関係に灯る。
外が暗く中が明るいとき、窓ガラスは鏡と化す。
ガラスに映った自分の顔を見て、あなたは気づいた。
黒い影の陰影が作り出しているのはあなた自身の顔だと。
「どういう、こと……?」
あなたは――
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