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座敷牢の花嫁  作者: 豆狸
烏ルート

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16/31

15・脱出の前に

 起こした風で鉄格子を切り裂こうとして、あなたは考えた。

 この部屋に監視カメラはなかった。

 そもそもコンセントがないのだ。電気製品を使えないので、寒い夜は湯たんぽを用意してもらっている。


 だから一郎達があなたの能力を知るはずがないと思っていたのだが、


「この能力があったから、ここに連れてこられたんじゃない?」

「ぴぴ、ぴぴ」


 その通り、とでも言うように雛が頷く。

 あなたはさっきまで食べていたスナック菓子の袋を見た。

 限定エビマヨ味――あなたの大好きな味だった。


 考えてみると、運ばれてくる食事もあなたの好きなものばかりだった気がする。

 記憶がなくても美味しくて、幸せな気持ちになれた。

 一郎達はあなたのことを知っているのだ。


「でもじゃあなんで私のこと教えてくれないの? この能力目当てで監禁してるんだとしたら、記憶を失ってることにつけ込んで嘘を教えて洗脳したら良いのに。……いや、されたくないけどね?」

「ぴぴぴ」


 あなたと雛は見つめ合った。

 舌には限定エビマヨ味が残っている。

 頭の中にぼんやりと記憶のかけらのようなものが浮かんでくる。あなたは、以前にも限定エビマヨ味を食べたことがある。


「自分の部屋でクッションにもたれて、スマホでネット小説を読みながら……油で汚れた指先を拭こうとしたらティッシュの箱が遠くて、私……」


 そう、風を起こす力に目覚めたのはそのときだ。

 あなたは風を起こしてティッシュの箱を引き寄せたのである。

 指を拭いた後のティッシュも風でゴミ箱に入れた。


「そして翌日、学校帰りに一郎達が来て……攫われたんだ!」

「人聞き悪いですねっ!」


 座敷牢のある部屋の扉が開いて、一郎達が現れた。


「目覚めた力に浮かれたあなたが学校の裏山で暴れ回って」

「……祠を壊して邪神を目覚めさせて」

「力の強い退魔師はほかの任務で出払っていて、学生でその任務から免除されていた私達烏天狗六兄弟が退魔師協会に呼ばれて邪神を封じたものの」

「そちは力を使い果たして意識を失ってしまった」

「目覚めたばかりの先祖返りは暴走することがあるのでござるよ」

「意識の戻ったユーが暴走しないように、結界の張られた我が家の座敷牢に閉じ込めたってわけさ。まさか力の使い過ぎで記憶を失っているとは思わなかったよ。でも」


 ジュテーム六郎は、くるりと回ってあなたを指差す。


「邪神の復活で死傷者が出なくて良かったよね♪」


 それは確かに。

 あなたの記憶は途中で消えているので、後始末は彼らがしてくれたのだろう。

 感謝しかないあなたの耳朶を幼い声が打つ。


「監視役の末娘、七人目の雛乃なのピピ」


 気がつくと、雛は可愛らしい幼女に姿を変えていた。


「さっき兄様達が飛び込んできたのは、あなたの記憶が戻りかけたのを感じた雛乃が念話で呼び寄せたからなのピピ。記憶が戻っても暴走しなくて良かったピ!」

「そうだったんだ。あの、どうして『ピ』って……ううん、記憶が戻るまでなにも教えてくれなかったの?」

「記憶のない状態で強大な妖力を制御出来ないあなたに迂闊なことを言うと、言霊の力で現実を捻じ曲げそうだったからです」

「私、そんなに妖力が強いんだ。……ん? 妖力? そう言えば先祖返りって?」

「……君の先祖に烏天狗がいたんだ」

「なるほど」

「記憶が戻ったんなら退魔師の修業を始めようね」

「妖力の制御ができるようにならねばな」

「頑張って祠の修理費を稼ぐでござるよ。今は我が家が立て替えているでござる」


 人生って世知辛い、と思いながら、あなたはもうひとつ質問した。


「花嫁って言われたのは一体?」

「マイブラザー一郎が、ユーにひと目惚れしたからだよ。ふふふ、お付き合いを申し込む前に求婚するなんて、ブラザー一郎ったら情熱的だね♪」

「うるさいですよ、六郎っ!……そういうことですので前向きに考えてください」

「はあ」


 口説き方のおかしい一郎が座敷牢の鍵を開ける。

 あなたは座敷牢を出て、部屋の扉に向かって歩いていく。

 隣にいる雛乃があなたに微笑んだ。語尾に『ピ』をつけている理由を聞きたい気はするものの、あなたも幼女相手に大人げない質問をしない程度の良識は持っている。


 ――邪神の祠は壊したけど、あれは不可抗力だとあなたは思う。

 あなたはJKだ。右手が疼いても仕方がない。

 時代は中二病から高二病へと移り変わっているのである。


 漫画やアニメの異能バトルが大好きなあなたは、2.5次元舞台にもハマっている。

 この六兄弟への感想が演出家云々だったのは、その影響だろう。

 今はネットチャンネルの配信しか観たことはないが、いずれお金を稼げるようになったら舞台でライブ鑑賞したいと考えている。退魔師で稼げるようになったら、祠の修理代を引いた残りで舞台鑑賞に行けると良いなあ、とあなたはのん気に思った。


「記憶が戻って良かったのピピ」

「うん。ずっと一緒にいてくれてありがとう。雛乃ちゃんが一緒にいてくれたから、力が暴走しなかったんじゃないかと思う。心の安定って大事だものね」

「ふふふ、本当に良かったのピピ。このまま記憶が戻らなかったら、強硬手段で家から突き落とそうと思ってたのピ」

「え? 家から突き落と……うぎゃあああぁぁ!」


 あなたが悲鳴を上げたのは、部屋の外に地面がなかったからだ。

 これまでいた部屋は宙に浮かんでいた。

 近くにべつの建物も浮かんでいる。これが烏天狗達の居住区のようだ。


「大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがとう」


 とっさに反応できなかったあなたを助けたのは、背中に烏の翼を出した一郎だった。


「ピピ?」


 雛乃が首を傾げ、一郎を睨みつける。


「兄様、甘やかしては駄目なのピピ。記憶が戻っても暴走してないってことは制御できてるってことなんだから、自分の力で飛ばせるために手を離すピ」


 雛乃はスパルタ教育派のようだ。

 あなたは首を横に振りながら、一郎に抱き着いた。

 風を起こす力があると言っても、いきなりは無理だ。足元に広がる住宅地の屋根を見ながらあなたは、なにも考えずに逃げ出したりしなくて良かったなあ、と思っていた。抱き着かれて頬を染めた一郎が、このまま妖力の制御ができなければ閉じ込めておけるのに、なんて考えていることをあなたは知らない。


【烏天狗エンド】

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