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第2章【崩れる日常】1話【空いた席】

――部屋




サ……――


アイマスクをずらし、遮光カーテンを開ける。


壁に貼られた星の絵に、光が注がれる。


部屋に流れ込んできたのは、朝でも夜でもない白い光。


眩しさに、紡は思わず目を細めた。


白夜は今日も変わらない。


ここでは、時計を確認しないと昼夜が分からない。




「今日から夜勤か……ダルっ」


独り言は、やけに軽かった。


軽く言わないと、胸の奥に溜まった重さに押し潰されそうだった。


「お弁当置いとくね~」


一階から養母の雫の声が聞こえた。


作業着の袖を通しながら、彼のことを考える。


『あの時、私も一緒に飛び降りれてたら……』


できないことへの悔しさが滲む。




一階に降りて、お弁当を受け取る。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい」


雫は、火傷の痕が残る手を軽く振りながら、

切れ長の目で微笑む。




紡は外に出ると眩しさのあまり、彼のように帽子を深く被った。


あれから、1週間。


結局、朔夜とは一度も会えていない。


子供を助けに行った、あの日から――。



 

――あの時




紡も後を追いかけて工場を飛び出した。


だが外へ出た時には、すでに光統院の規制線が張られていた。


白い防護壁。


無表情の隊員。


銃口のように冷たい視線が進入を許さない。


「通行禁止だ」


たったそれだけで、足が止まった。




鉄塔からは、二度。


世界を塗り潰すような白光が放たれた。


空気が震え、鼓膜の奥が軋む。




暫くして――。


光統院が子供を抱きかかえて現れた。


「ありがとうございます!」


群衆を押し分け、母親らしき女性が駆け寄る。


子供は泣きながら抱きつき、周囲は拍手に包まれた。


歓声。


称賛。


安堵。


誰もが、救われた物語の終わりを信じていた。




「……はい。神通力は未確認です」


「……了解しました」


通信機器で話をしていた隊員が歩いて来る。


「あの……若い男の人が、助けに行ったの知りませんか?」


紡は近づく隊員に尋ねた。


しかし、返って来たのは、


「さあ」


それだけだった。


目を合わせない。


一秒も視線を留めない。


何人かの隊員にも聞いたが、答えは決まって同じだった。


まるで、統制されているかのように。



 

――工場




ニュースでは、魍魎討伐と子供救出の英雄譚が繰り返し流れていた。


主役は、既に決まっているかのように光統院。


映像は編集され、綺麗に整えられている。


そこに、朔夜の姿は一切ない。




あの日以来――。


彼の作業台は、主を失った席になっていた。


工具は整然と並んだまま。


まるで、そこだけ時が止まっているようだ。




紡は足を止め、少しだけその席を見つめる。


胸が痛む。


何も言わずに、自分の作業台へ向かおうとした。


その時。


ドンッ!


何かにぶつかった。


「ごめんなさい!」


反射的に頭を下げる。


視線を上げると、モップを持った清掃員が立っていた。


帽子で顔が半分隠れている。




だが――。


立ち方。


肩の角度。


視線を合わせない癖。


一瞬で、身体が理解した。


『……!』


心臓が強く跳ねた。


喉の奥が熱くなる。


視界が滲む。


名前が勝手に口から零れた。


「さ……朔夜!」

 

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