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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第1章【偽りの日常】

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7話【処刑の光】

写真機の閃光が、収まる。


存在を白日のもとに晒す光。


“記録するための光”が――消えた。


音が戻る。


空気が動く。


止まっていた世界が、息を吹き返す。


解き放たれる身体。




――その瞬間。


ダッ!


朔夜は、考えるより早く地面を蹴っていた。


衝動が、身体を引きずる。


だが――押さえ込む。


今は、怒りじゃない。


『子供を助けないと――』


それだけを、繰り返す。


他は、どうでもいい。


必死に、怒りを抑え込む。


ただ、あの子だけは。




ヌチャ。


ヌチャ。


魍魎が前を行く。


緩慢だが、迷いはない。


ただ一点。


獲物だけを追う軌道。


感情を持たない、捕食者。




『今度こそ――』


跳ぶ。


低く。


鋭く。


肉食獣が、獲物に飛びかかるように。


ガシッ――!


両肩を、掴んだ。


ぬめり。


冷たい。


生を感じない温度。


触れた瞬間、皮膚の奥を、何かが這う。


拒絶感。


本能が、悲鳴を上げる。


だが――それでも。


“そこにあるはずのない質量”だけは、確かにあった。




『逃がさない!』


力を込める。


勢いのまま、叩きつける。


バダンッ!


地面に倒れ込む。


衝撃。


土埃が舞う。


視界が白く濁る。


肺に砂が入り、咳が漏れる。


それでも、押さえ込む。


力を緩めない。


全体重を乗せる。


――捕まえた。


確信した。


その、はずだった。




『……え?』


感触が、消える。


一瞬の空白。


遅れて――理解が追いつく。


……何も、ない。


ゆっくりと身体を起こす。


恐る恐る、視線を落とす。


そこにあるのは――


自分の影と、湿った土だけ。


『……何処だ……?』


思考が滑る。


現実が、噛み合わない。




ザッ!


ザッ!


砂を踏みしめる音。


四つん這いのまま、顔を上げる。


「そこを動くなっ!」


頭上から叩きつけられる声。


――光統院。


気づけば、周囲は囲まれていた。


並ぶ銃口。


黒光りする銃身。


無機質な照準が、正確に朔夜を捉えている。


逃げ場はない。




『いつの間に……』


額から、汗が落ちる。


圧が重い。


空気そのものが、押し潰してくる。


それでも――視線だけを先へ送る。


――子供。


隊員に抱き上げられている。


小さな身体は震えたまま。


ぬいぐるみを、強く握りしめている。


泣き止まない声。




「……良かった」


零れる。


状況など関係ない。


心だけが、先にほどけた。




「その姿勢を維持しろ」


低く、抑えられた声。


「決して――他の影に触れるな」




『……影?』


その言葉だけが、異様に重く響く。


まるで。


それ自体が――禁忌であるかのように。


疑問が浮かぶ。


だが、動けない。


逆らえば、撃たれる。


理屈ではない。


身体が理解していた。


動きを止める。


時間が、引き延ばされる。


ドクン。


ドクン。


呼吸音だけが、やけに大きい。


心臓が、内側から叩く。




ブィン。ブィン。


ブィン。ブィン。


鉄塔が、稼働する。


低く唸る音が、空間を満たす。


誰も――何も言わない。


ただ、待つ。


準備が完了する、その瞬間を。




「チャージ完了!」


その一言で――空気が凍りつく。


誰も動かない。


「照射」


シュイィィン――


鉄塔が唸る。


大気が震える。


頂部に、光が集まる。


白が、一点へ収束していく。


魍魎を消した光。


あの、絶対的な光。


それが今――


まっすぐ、こちらを向いていた。


理解した瞬間。


全身の血が、冷え切る。


――自分が、選ばれた。


目を閉じる。


涙が滲む。


歯を、噛み締める。


指が地面に食い込む。


抗えない。


逃げられない。


絶対の断罪。




『助けたかっただけなのに……』


それだけだった。


最初から、最後まで。


――ただ、それだけだったのに。


……でも。


胸の奥で、何かがまだ――脈打っている。


消えていない。


消えようとしない。


ドクン。


ドクン。


それは――拒絶だった。


白を、拒む鼓動。


次の瞬間。


白い光が、世界を塗り潰した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


「続きが気になる」「面白かった」と感じていただけましたら、感想・レビュー・評価・ブックマークで応援していただけると、とても励みになります。


これからも『白夜の都』をよろしくお願いいたします!

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