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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第1章【偽りの日常】

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6話【光統院】

ブィン。ブィン。


ブィン。ブィン。


近くの光の鉄塔が――唸り始めた。


低く、重い振動。


まるで巨大な肺が、ゆっくりと息を吸い込むように。


空気を。


光を。


何かを――内側へ溜め込んでいく。


そして。


“吐き出す”準備をしている。




……嫌な予感がした。


だが、朔夜は気にも留めない。


今は――走ることだけが全てだった。


風を裂く。


地面を蹴る。


白い光の中を、一直線に突き抜ける。


『――いけるっ!』


さらに踏み込む。


世界が流れる。


歪む視界の中で――


子供の姿だけが、鮮明に残る。


涙でぐしゃぐしゃの顔。


今にも手放しそうなぬいぐるみ。


震える指先。




「こっちだ! 早くっ!」


叫びながら、手を伸ばす。


小さな手が、必死に伸び返される。


触れる。


届く。


――そのはずだった。




ズズンッ!


膨れた黒が、空気を裂いた。


伸びる魍魎の腕。


歪み、尖り、形を定めない異形。


一直線に、子供の後頭部へ――


『触れたら……終わる』


理屈ではない。


本能が、断言する。


朔夜の指先が届く。


だが――ほんの一瞬だけ。


魍魎の方が、速い。




――その瞬間。


シュイィィン――


甲高い電子音。


鉄塔が、閃いた。


次の瞬間。


轟音。


大気が、震える。


白い閃光が、槍となって放たれた。


一直線に――魍魎の腕を貫く。


焼ける。


溶ける。


削り取られる。


悲鳴すら、許されない。


照射された部分は霧散し――


地面に落ちることすらなく、光の中で消滅した。




「グギョ――!」


……あまりにも、一方的だった。


魍魎が怯む。


空気が歪む。


怒りにも似た気配が、膨れ上がる。




『……今だっ!』


朔夜は、子供の腕を掴む。


強引に引き寄せる。


軽い身体が、胸にぶつかる。


子供は声を出さない。


ただ、必死に朔夜の作業着を握りしめている。


「もう大丈夫だ――行けっ!」


押し出す。


小さな背中が、よろけながら走り出す。


振り返らない。




――守れた。


そう思った瞬間。


違和感。


魍魎が――こちらを見ていない。


視線すら、向けない。


まるで。


最初から、存在していなかったかのように。


ヌチャ。


ヌチャ。


すり抜ける。


真横を――


ぬるり、と。


触れそうな距離で。


粘つく闇の気配が、頬を撫でた。


ヘドロのような悪臭が、肺に流れ込む。


吐き気が込み上げる。


だが。


それでも。


魍魎は、朔夜を“認識していない”。


ただ。


逃げた子供だけを――追っていく。




『無視……された?』


思考が、追いつかない。


怒りでもない。


恐怖でもない。


理解できない、という感覚。


胸の奥が、ざわめく。




――その瞬間。


パシャンッ!


世界が、白に塗り潰された。


音が消える。


空気が止まる。


影が――消える。


完全に。


存在そのものが否定されたかのように。




『しまった――!』


本能が、警鐘を鳴らす。


朔夜は、視線だけを動かした。


そこに立っていたのは――


光の紋章を胸に刻んだ、白い制服の男たち。


無表情。


感情の揺らぎは、一切ない。


人を見る目ではない。


価値の有無だけを測る――


冷たい測定器のような眼差し。


動きは規則正しい。


無駄がない。


迷いがない。


生きている、というより――


“機能している”。


一人が、わずかに視線を動かす。


朔夜へ。


ピタリ、と止まる。


……測られる。


選別される。


そんな感覚。




『……光統院……』


心が冷たくなる。


【怪人を見つけたら――】


胸の奥が、強く締め付けられる。


脳裏に浮かぶ、あのポスター。


怒りか。


恐怖か。


それとも――


そのどれでもない何か。


静かに。


だが確実に。


内側で――軋み始めていた。


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