表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第1章【偽りの日常】6話【処刑の光】

写真機の閃光が収まる。


――記録を取るための光が、消えた。


凍りついていた空気が、一気に動き出す。




その瞬間、朔夜は反射的に地面を蹴っていた。


考えるより早く、身体が前へ出る。


今は怒りを噛み殺す。


胸の奥で暴れ回る衝動を、無理やり押し込める。


『子供を助けないと――』


それだけを繰り返し、自分に言い聞かせながら、朔夜は魍魎の背中を追った。


黒い塊は迷いがない。


ただ一点、子供だけを見据えている。


執拗に。


感情を持たない捕食者の動きで。


『今度こそ――』


朔夜は跳んだ。


肉食獣が獲物へ飛びかかるような、低く鋭い跳躍。


ガシッ――!


ついに魍魎の肩を掴む。


確かな感触。


ぬめりとした冷たい質量。


逃がすまいと、指に力を込める。


そのまま勢いで地面へ叩きつけた。


バダンッ!


衝撃で土埃が舞い上がる。


肺に砂が入り、咳き込みそうになるのを必死で堪えた。


視界が一瞬、白く濁る。


覆い被さるように、全体重をかけて押さえ込む。


――捕まえた。


そう、確信した。


だが次の瞬間。




『……え?』


腕の下から、感触が消えていた。


確かに掴んでいた。


確かに、押し倒したはずだった。


だが、そこにいるはずの魍魎はいない。


あるのは――。


自分の影だけ。


冷たく湿った土の感触だけ。


『何処だ……?』


理解が追いつかない。


思考が空回りする。


混乱したまま体を起こそうと、四つん這いになる。


その時。




ザッ!


砂を踏みしめる、鋭い足音。


「そこを動くなっ!」


頭上から、怒声が叩きつけられた。


ゆっくりと顔を上げる朔夜。


視界に入るのは、光統院の制服。


規則正しく並ぶ銃口。


無機質な照準が、正確に額へ集まっていた。


逃げ場は、どこにもない。


そのまま視線を先へ送る。




――子供。


光統院の隊員に抱き上げられ、無事に保護されている。


小さな身体は震え、ぬいぐるみを強く握りしめたまま、まだ泣き止んではいなかった。


「……良かった」


安堵が、思わず口から零れる。


状況など構わず、心だけが先に緩んでしまった。


「その姿勢を維持しろ」


低く、抑えられた声。


「決して、他の影に触れるな」


威圧ではない。


感情もない。


ただの命令。


――まるで、影そのものが罪であるかのように。


『……影?』


疑問が脳裏をよぎる。


だが、逆らえば撃たれる。


理屈ではなく、本能が理解していた。


朔夜は、動きを止める。


時間が、異様に引き伸ばされる。


自分の呼吸音だけが、やけに大きく聞こえた。


心臓の鼓動が、全身を内側から叩く。




……。




「チャージ完了!」


計器を覗き込んでいた隊員が叫ぶ。


その一言で、朔夜の背筋に冷たいものが走った。


「照射!」


冷徹な号令。


次の瞬間――。


シュイィィン――。


光の鉄塔が唸りを上げる。


大気が震え、白い光が一点へと収束していく。


魍魎の腕を穿った、あの光。


それが今、はっきりと自分に向いていた。


理解した瞬間、全身の血が冷え切る。


――自分が、選ばれたのだと。


『……終わった』


目を閉じる。


視界の裏で、涙が滲んだ。


悔しさで歯を噛み締める。


指が、地面を抉るほど食い込む。


『助けたかっただけなのに……』


朔夜を動かした理由は、最初から最後まで、それだけだった。


白い光が、世界を塗り潰した。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

毎週金曜日21時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ