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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第7章【光の逆襲】

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6話【童子切】

ドォォォォォン!!


金棒と童子切が激突する。


衝撃波が岩盤を砕き、砂塵を巻き上げた。


目で追うのも至難の速さ。


周囲の隊員たちが思わず足を止める。


近付けない。


近付けば巻き込まれる。


それほどまでに、剛鬼と頼光の戦いは別格だった。


「ははっ!」


頼光が笑う。


「素晴らしいですね――」




童子切を受け止めながら、剛鬼は顔を顰めた。


重い。


異常なほど重い。


増強剤を使った金時より重い。


人間が振るう刀ではない。


金棒を受け止めて、刃毀れ一つ起こさない。




「鬼の怪人……」


頼光の瞳が爛々と輝く。


銀髪が愉しそうに揺れる。


「やはり研究資料通りです」




ズン!!


剛鬼が金棒を振り抜く。


岩盤ごと吹き飛ばす一撃。




頼光は紙一重で回避した。


季武より軽やかな動き。


轟音。


背後の岩壁が粉砕される。


「重さは十分。だが――惜しい」


頼光が笑う。




地面を踏み抜く。


「黙れ!!」


剛鬼が突進した。


金棒が唸る。




スッ。


頼光は跳んだ。


空振る金棒。


次の瞬間。


シュッ。


空中から白い閃光。


「――っ!」


剛鬼が反射的に屈む。


逆立つ髪が舞い散る。




背筋が凍った。


『見えなかった……』


冷や汗が流れる。


速い。


綱とは別種だ。


技術ではない。


純粋な速度。


「避けますか。鬼の怪人は目も良いんですね」


頼光が感心したように言う。




剛鬼は返事をしない。


金棒を構える。


嫌な刀だ。


本能が理解している。


触れれば終わる。




――南側――




朔夜は宙へ指を走らせる。


一線を描く時と同じ動作を、幾度も繰り返した。




「何のつもりだ」


眉を顰める貞光。


警戒しながら、距離を詰める。


構えは崩さない。




「見えない境界を至る所に張った……通過する瞬間に断ってやる!」


朔夜は、ハッタリをかます。


本当は神通力を無駄にはできない。




「……ブラフだろ」


貞光の足が止まる。


先ほど切断された穂先が、脳裏を過る。




「同時かつ、大量に展開できるもんなのか?」


大槍を振り、境界を確かめようとする。




朔夜は答えない。


右指を揃えたまま、左手で木刀を握る。




ダダダダダ。


援護射撃。


「一線」


銃弾が境界を叩いた。


衝撃。


背中の傷が疼く。


「くっ……!」


朔夜が歯を食いしばる。


境界は攻撃を防げる。


だが衝撃は背中の傷に伝わる。




貞光が冷静に観察していた。


「なるほど」


分析される。


「境界そのものは破壊できない。だが、使用者への負担は存在するのか」




朔夜の表情が強張った。


目の前には貞光が大槍を構える。


右手の離れた場所では、隊員が機関銃を構えている。




隊員が照準を覗いた。


ビュシュ――


突然、巻き付く銀糸。


「うぅ―― うぅ――」


隊員が倒れる。




「あとは、そのでかぶつだけだ!」


銀八の周り。


「うぅ―― うぅ――」


蜘蛛の糸で捕縛された隊員たちが転がる。


「まだ戦える仲間は、連絡を受け西へ向かった」


「早く片付けて、わしらも行こう」




「はい!」


踏み込む朔夜。


木刀を振る。


「ちっ!」


大槍を振る貞光。


カンカン。


「素人が――」


木刀を払い退ける。


押し込む貞光。


ドゴ。


ドゴ。


ズバ。




割れた穂が朔夜の額を掠める。


「つっ!」


血が吹き出す。


顔が赤く染まる。


ぐらつく。




ビュシュ――


貞光の腕に絡み付く銀糸。


「ふん!」


銀糸を掴む。


逆に銀八を岩に投げつける。




ドン!


「ぐはっ」


血を吐く銀八。




ビュシュ――


足。


腰。


首。


それでも、貞光に銀糸を飛ばす。


金時の時と同じように、岩や大地に銀糸を繋ぐ。




「鬱陶しぃ――」


強引に大槍を突き出す貞光。


引き摺られる銀八。




『銀糸が絡まり動きが遅い!』


素早く円を描く朔夜。


「一線」




バキン!


大槍が境界に弾かれる。




「今だ!」


銀糸を引っ張る銀八。


体勢を崩し、仰け反る貞光。




同時に跳躍する朔夜。


バゴン!


すかさず、貞光の上がった顎に木刀を打ち込む。


脳が揺れる貞光。




「がはっ」


受け身も取れず、そのまま地面に後頭部を強打。


白目を剥く貞光。




目覚めた貞光。


身体が銀糸で拘束されている。


ギシギシ。


破ろうとする貞光。




「首の周りに境界を張った……」


「銀糸を破れば首が飛ぶぞ!」


朔夜がハッタリをかます。




立ち去る朔夜と銀八。




「くそが――!」


「俺と戦え! この野郎――!!」


遠ざかる二人の背へ、貞光の怒声が響いた。




――東側――




「そろそろ終わりにしましょう」


童子切を鞘に収める頼光。


そのまま、低く構える。


「童子切の切れ味と、私の居合いに、貴方はついてこれますかね」




剛鬼の瞳が細まる。


危険。


本能が叫ぶ。




ダンッ!


頼光が消えた。


速い。


今までより遥かに。


剛鬼が咄嗟に金棒を振る。


だが、間に合わない。


そして、白い閃光。




ズバン――!!


血飛沫。


一拍遅れて。


ドサッ。


地面へ落ちたもの。


それは。


剛鬼の左腕だった。


「ぐあああああああっ!!」


鬼の怪人の絶叫が山へ響く。




隊員たちが息を呑む。




頼光が微笑む。


「国宝級の切れ味」


「刃毀れ一つ起こさない強靭さ」


「やはり童子切は素晴らしい」




ボタボタと血が落ちる。


切断面が瘴気で黒く変色する。




剛鬼が片膝を突く。


視界が揺れる。


瘴気が血管を伝い、増強剤の力を食い潰していく。


「うっ……」


膨れ上がっていた筋肉が萎み、金剛夜叉明王が解けてしまった。




だが。


倒れない。


鬼の怪人は立つ。


里を守るために。


「……舐めるな」


残った右腕で金棒を握る。




頼光が目を細めた。


「増強剤の効力を失った状態で、まだ立ちますか?」


「良いでしょう」


再び童子切を鞘に収める。


低く構える。




その時。


遠方から声。


「剛鬼さん!!」


朔夜だった。


血まみれのまま駆けてくる。


銀八も後に続く。


「南は終わりました! でも……」


戦況は最悪だった。


綱隊が西から迫る。


頼光隊には押されている。


ギュギュ。


銀八が剛鬼の腕に銀糸を縛りつける。


止血。




「撤退だ!」


剛鬼の声が響く。


「上で立て直す!」


怪人たちが後退を始める。


剛鬼は落ちた腕を見る。


頼光も見る。


その瞬間。


ビュシュ――


銀糸が腕を絡め捕る。


宙を飛ぶ腕。




頼光の眉が僅かに動く。


「ほう」


跳ぶ。


スパッ。


銀糸を容易く切り、腕を回収する。




「兄者の血肉は渡した……」


剛鬼が唸る。


「だが、俺の身体は渡さねぇ」


「必ず奪い返す!」


研究材料にされる。


そんな未来だけは認められなかった。




朔夜が叫ぶ!


「戻りましょう!」





「逃がすな――」


追いかける部隊。


グチャ。


地面に張り巡らされた蜘蛛の巣。


銀糸を踏み動けなくなる。


足止め。




「悪い……もう立てね……」


蜘蛛の糸を張り巡らした銀八。


神通力を使い切る。


「ありがとう銀八さん!」


銀八を背負ったまま殿を務め、銃撃を境界で防ぐ。




そして――


怪人たちは、


迫る光統院を前に、


天岩戸へ向けて撤退を開始した。




「追撃しますか?」


隊員が尋ねる。


「不要です。逃げる場所は分かっていますので」


頼光は、回収した剛鬼の腕を見つめた。


「それに、収穫はありましたから」


「ゆっくり愉しみましょう――虫の羽を捥ぐように」


にやりと笑った。


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