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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第7章【光の逆襲】

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4話【鬼の怪人】

――隠れ里――




報告を聞く朽木たち。


「自爆は不可抗力だよ」


紡は、気を落とす朔夜を慰める。


「境界を檻に使うなんて成長したわね」


雫が朔夜を褒める。


「……ありがとう」


少し元気を取り戻した朔夜。


「一人と言うことは、偵察か…… 隠れ里を探しに来たのか……?」


思考を巡らす朽木。


長い白髭を撫でる。




「また……戦闘ですか?」


「諦めの悪い人間め!」


事態を聞き付け、里の皆が集まってきた。


不安が辺りを包む。




「剛鬼さん…… 私と取り引きしてくれないか?」


低く重い、朧の声。


誰も、すぐには意味を理解できなかった。


「取り引き!?」


怪訝な表情の剛鬼。


「いきなり何を言ってるんですか? ちゃんと説明してください!」


朔夜が朧を咎める。




「私は……もう怪人を傷付けたくない。 だが、あの子供たちを見捨てることもできないんだ……」


苦しい胸の内を吐露する朧。


それでも、意を決する。




ドサッ。


朧が、地面へ額を擦りつけた。


土下座。


その場の空気が凍りつく。




「鬼の怪人の血肉で……救える命がある……」


掠れた声。


忍び装束の肩が、小さく震えている。




「……また始めるつもりか……? 昔と同じことを……」


朧を戒める朽木。




「難病を抱える子供が大勢いるんだ……頼む」


額を押し付けたまま、懇願する朧。


「その代わり……手に入れた秘薬を渡す。

負傷した怪人も治療する」


「それに……近い内に、光統院が本腰を入れて攻めてくる。その時は、私が手助けしよう」


恥を捨て、続ける朧。


「科学が進歩すれば、怪人が犠牲にならない方法が見つかる! いや、必ず見つける! だから……今は……頼む」




「ふざけるな!! 恩人だと思って、黙って聞いてたが…… 俺に身体を売れと言うのか!?」


剛鬼の怒声が反響する。


空気が震えた。


「そんなこと……頼めるわけないですよ! 命を救うために、別の命を差し出せなんて……」


朔夜も憤慨する。


「皆!落ち着いて! 朧さんにも事情がある筈よ」


雫が、命の恩人の朧を庇う。


「狂ったことを言っているのは……十分承知している…… 指一本。いや、肉の一削ぎでもいいんだ!」


引けない朧。


真摯に懇願する。




剛鬼の額に血管が浮き上がる。


握った指が、ミシリと軋む。


「兄者を奪っておいて……!」


一歩、踏み出す。


「まだ、そんなことが言えるか!!」


洞窟内を圧迫する怒り。




怪人たちも、険しい目で朧を睨む。


誰一人許してはいなかった。




その時――


「わ……私じゃ駄目……?」


小さな声。




皆の視線が向く。


前頭に小さな一本角。


幼い鬼の怪人――美鬼。


震える手を、ぎゅっと握っていた。


怖いはずなのに。


それでも前へ出る。




「お父ちゃんみたいに……お里を守れるなら……」


深く考えてなど、いない。


ただ――


皆を守りたかった。


里を守りたかった。


それだけだった。




「駄目よ!」


紡が、咄嗟に美鬼の腕を掴む。


「そんなこと、言っちゃ駄目……!」


抱き寄せるように引き戻す。




「美鬼!!」


剛鬼が怒鳴る。


「何を言っているのか、分かっているのか!!」


ビクリと肩を震わせる美鬼。


だが、それでも俯いたまま言う。


「だって……お里を守るのが、鬼の怪人の役目だって…… お父ちゃん……」


声が震える。


涙が溢れる。


美鬼は自分が何を差し出そうとしているのか――


本当には理解していなかった。




重い沈黙。




「こんな子供まで追い詰めるなんて……」


「俺たちは、人間の道具じゃない!」


囲む怪人たちの表情が、さらに険しくなる。


朧を非難する。




「駄目だ!君は関係ない!そもそも子供に頼む話じゃないんだ」


朧は、美鬼の申し出を受け入れない。




「それに……君は、神通力が使えるのか?」


朧が、美鬼に顔を向ける。


美鬼は小さく首を横に振る。


朧は一瞬だけ目を伏せる。


そして――


静かに事実だけを告げた。


「研究で分かったことは、怪人の血肉は……神通力によって怪異側に変質する。鬼の怪人でも……神通力を使える個体だけが、増強剤として利用できる…… その増強剤から新薬が生成できるんだ」




空気が止まる。


「つまり……」


剛鬼の声が、低く沈む。


「神通力を使えない怪人の子供を……殺して……それを調べたってことだろうが!!」




怪人たちの視線が突き刺さる。




朧は否定しなかった。


否定できなかった。




「……っ」


紡が美鬼を抱き寄せる。


華も不安そうに朽木の袖を掴んだ。




「あの子たちは……本当に歩けるようになったんだ」


「何年も車椅子だった子供が……自分の足で……」


声が震える朧。




「これで……諦めろ」


剛鬼が低く吐き捨てる。


怒りを押し殺した声。


腰巾着へ手を入れる。


取り出したのは――


勇鬼の血肉から生成した、六本の増強剤。


ガシャッ。


朧の目の前に静かに置く。


「それで、もう来るな」




朧は黙ったままそれを受け取る。


「……悪かった」


秘薬を差し出す。


「私が手に入れる事のできる、最後の三本だ……」




受け取る剛鬼。


「これを結月に使え」


紡に秘薬を一本渡す。


そして、残り二本を朽木に。




その時――


ピコン。


端末の通知音が鳴る。


朧の表情が強張る。


画面に表示された文字。




【対怪人部隊進軍開始】




その瞬間。


朧の顔から血の気が引いた。


「まずい…… もう、頼光が来る」


掠れた声で立ち上がる朧。




空気が凍り付く。


怪人たちの表情が変わった。


知っている。


頼光――怪人を捕まえる"銀髪の悪魔"。


その名だけで十分だった。


剛鬼が静かに立ち上がる。




「お父ちゃん……」


美鬼の震える声。




剛鬼は振り返らない。


ただ、低く言った。


「鬼の怪人はな」


洞窟内が静まる。


「里を守るために居る」


その言葉に、美鬼が目を見開く。


「だがな」


剛鬼が続ける。


「子供が死ぬために居るんじゃない!」


拳を握る。


「守るのは俺たち大人の役目だ!」


金棒を肩に担ぐ。


「お前は子供らしく自由に生きろ…… それが……父ちゃんの願いだ」




涙を流す美鬼。


紡が、美鬼の肩を抱く。




剛鬼は、天岩戸を見る。


その先に迫る敵を。


「来るなら来い」


誇り高き、鬼の怪人の声だった。


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