表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第7章【光の逆襲】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/68

1話【つくられた英雄】

過去は語られた。


だが、現在の光は待ってはくれない。




――補給所――




人工光に守られた補給所に朝が訪れる。


闇は退き、魍魎は消える。


光がすべてを支配する時間。


だが、その光の下にあるのは――

破壊だった。


砕けた柱。


割れたガラス。


抉れた壁。


昨日の戦闘の痕跡が生々しく残っている。


隊員たちが無言で片付けを続けている。


誰も感情を口にしない。


個ではなく組織として動く。




――光統院・科学部隊・特別調整室――




光に包まれた部屋。


一切の影を許さない白。


無菌の光が、床も壁も、人も――均一に塗り潰している。


それが、この部屋の“正しさ”だった。


消毒液と機械油の匂い。


生と死の境界すら曖昧にするような空間だった。




「各部の機能に異常ありませんでした」


白衣の科学部隊副隊長が、

カルテを見ながら、淡々と告げる。


三名の隊員が、

赫斎の機械の身体に、人工皮膚を貼り付けている。


その手つきには一切の迷いも躊躇もない。


ただ“部品”を整備するように淡々と作業する。




「うむ」


短く応じる赫斎。


定期検査を終え、ゆっくりと上体を起こす。


金属音。


関節が静かに噛み合う。


制服を身に纏うと、胸元の紋章が白光を反射した。


キュイン。

キュイン。


かつて失った左腕を動かす。


精密に、正確に。


誤差はない。


次に、右目の焦点を合わせる。


光に焼かれ、再構成された視界。


直接、脳に届く機械音声。


【色彩検知――問題なし】


【距離計測――問題なし】


【温度感知――問題なし】


【闇探知――問題なし】


脳に埋め込まれた“電脳”が答える。




「先程、帝が総代にお会いしたいと、御連絡ありました」


秘書が報告する。


「天照会議をキャンセルして、今から行く」


即答。


感情の介在しない判断。


何を言われるかは察しがつく。


戦闘の報告は上がっている。


「かしこまりました」


秘書は深く頭を下げる。




電脳にアクセス。


【綱――対怪人部隊・頼光四天王筆頭。現在、資源部隊護衛任務中】


【頼光――対怪人部隊隊長。現在、本部にて天照会議待ち】


【対魍魎部隊――白夜境界線にて、魍魎警備中】




「頼光に対怪人部隊出動を指示。対魍魎部隊の一班を頼光指揮とし、天照計画に同行させよ」


赫斎が指示を出す。


「かしこまりました」


再び頭を下げる秘書。




廊下に並ぶ隊員たちは、赫斎が通るたびに頭敬礼をする。


彼が何を失ったかではなく、何を討ったかだけを信じて。




――帝の城――




贅沢を凝縮した謁見室。


宝飾品、絵画、彫像。


全てが過剰に並び、空間そのものが重く沈んでいる。


白く眩い。


だが、そこにあるのは、

安らぎではなく――圧だった。




「天照鉱石はどうなっておる」


天照鉱石――白夜を維持、拡大するために必要な、希少鉱物。


そして今、天岩戸の地下に眠るもの。


年老いた三十六代帝。


声も枯れている。


だが、その奥にある執着だけは濁っていなかった。


齢八十九。


それでもなお、権力の中心に座る存在。




その隣。


玉藻前。


正室として寄り添う女。


変わらぬ美貌。


時間の影を一切感じさせない顔。


微笑みは柔らかい。


だが――その青い瞳は深すぎた。


瞬きの瞬間だけ。


ほんの一瞬だけ――

狐の目が、そこにあった気がした。




赫斎は、わずかに視線を止める。


――知っている。


そう感じた。


だが。


電脳へアクセス。


記憶照合。




【該当データ――存在しません】




違和感は、そこで消えた。


疑問を持つ必要はない。


そう“処理”された。




「一昨日、採掘を開始したところです」


戦闘があったことは伏せた。


帝を煩わせるだけだ。


「実用化には八年……いや、六年はかかるかと」


静かに報告する赫斎。


「二年で実用化せよ。時間は待ってはくれん」


帝の皺だらけの指が、玉座の肘掛けを苛立たしげに叩く。


空気が凍る。


「どれだけ死のうと構わぬ。資金も好きなだけ使え。最後の英雄、生ける伝説と、称賛されるお主ならできるだろ」


見下すような目で皮肉る帝。


「だが、出来ぬなら――総代を替える」


一拍。


「この意味が分かるな、赫斎」


静かな圧。


逃げ場のない命令。


「……全力を尽くします」


赫斎は頭を下げる。


ほんの一瞬だけ。


ほんの僅かに――

胸の奥で、何かが軋んだ。




【反逆心検出――抑制処理完了】




それは、すぐに消えた。


何かが引っかかった赫斎。


……だが、それも“不要なノイズ”として消去された。




重苦しい空間で、

玉藻前だけが楽しそうに微笑んでいた。




――補給所・応接室――




修復に目処が立った昼過ぎ。


綱と貞光が休息をとっていた。


低い机には和菓子と抹茶が置かれていた。




「季武と金時はどうだ」


電子刀の手入れをしながら綱が問う。


鋭い目で刃を確認する。


「季武は顎が砕けてる。金時は内臓破裂。どっちも復帰に時間がかかるぞ」


巨体をソファーに沈め、寝そべったまま答える貞光。


命の重さを感じさせない口調。


和菓子を摘まむと口に投げ入れた。




「明後日、私と貞光で廃鉱山の制圧を行う」


電子刀を鞘に納める綱。


「了解。久し振りに暴れられるな」


指を舐めながら、貞光が上体を起こす。




――その時。


ノックもなく扉が開いた。


空気が変わる。




「私も参加させてください」


頼光だった。


二人は即座に立ち上がる。


直立不動の姿勢をとる。


それは敬意ではなく、反射だった。




「上から、天照鉱石を急かされましてね」


銀髪の頭を指で掻く頼光。


「友釣り……泳がせて正解でした。怪人が沢山釣れましたからね」


わずかに口角が上がる。


「実に楽しめそうです」


笑っている。


だが――目は笑っていない。


貞光が息を飲む。




「では、これより指揮は頼光様に」


綱が頭を下げる。


「ええ。明朝より参りましょう。既に密偵を廃鉱山に向かわせています」


当然のように答えると、踵を返す頼光。


白い隊服の端が揺れる。


「研究材料として――壊さず捕らえて、実験したいものです」


目に狂気が宿る。


軽い足取りで部屋を出る頼光。


「虫の羽を捥ぐように」


笑い声が廊下に響く。


その背は、まるで遊びに向かう子供のようだった。




「前回は、資源部隊の護衛ついでだから、撤退を余儀なくされた。だが、今度は違ぞ。怪人ども」


頼光が去り、ソファーに寄り掛かりながら、貞光が意気込む。




最強の綱。


最恐の頼光。


そして――対怪人部隊。


怪人討伐を専門とする戦闘部隊。


その全てが、今。


天岩戸へ向けて動き出す。


排除の光が――再び牙を剥く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ