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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第6.5章【断章2】

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2話【百鬼夜行・中】

松明に照らされた討伐隊。


その中に見知った顔――

白い袴姿の晴明がいた。


五十年前と変わらぬ容姿だが、顔は以前より凛としている。


怪異たちがざわめく。


感情を失ったはずの焔も――

わずかに目を見開いた。


一瞬だけ――焔の瞳が揺れた。




「怪人が……"本当に"裏切りやがったな――!」


雷獣が吠えた。


バリバリ――!


絞り出すような電気。


毛が逆立ち光る。


地を裂くように駆ける。




雷が走り、一瞬で晴明の頭上に現れた雷獣。


大口を開け牙を剥き出した。


晴明の頭に噛みつく寸前――


ズバッ――!


雷獣の首が宙を舞った。


ドサッ。


砂に沈む首と胴体。


バリ……


体毛から電気が静かに消える。


雷鳴は――もう、響かなかった。




視線を外せない焔。


かつては、己と肩を並べていた雷獣が――動かなくなった。


あまりに呆気ない最期。


少し虚しく思えた。


それ以上の感情は湧かない。




晴明の前に立つ一人の若武者。


「鬼切丸……見事な切れ味だ。やはり、人間の技術は素晴らしい」


鬼切丸に付いた雷獣の血を振り払う。


その目に迷いはない。


「討伐隊隊長――赫斎。参る!」


背後の騎馬隊が槍を構え突進。


砂丘を駆け上がる。




前に出る大太法師と酒呑童子。


バザ――!


身体を巨大化した大太法師が、両手で砂を掴み、騎馬隊目掛けて投げつける。


大量の砂が空を飛ぶ。


視界を奪われる騎馬隊。


砂が散弾のように叩きつける。


動きが乱れる。




砂に紛れ酒呑童子が騎馬隊に飛び込む。


バキッ!ボキッ!

ブシャ――!


殴る。折る。喰い千切る。


髪を乱し一心不乱に襲いかかる。


砂が赤く染まる。


だが――


ズド!ズド!


背と脇腹に槍が突き立つ。


一瞬、動きが止まる酒呑童子。


その隙を――


ズバッ――!


背後から副隊長の横薙ぎの一閃。


酒呑童子の首が宙を舞った。




「隊長!童子切も見事な出来です!」


抵抗もなく通る刃に、感嘆する副隊長が叫ぶ。


その瞬間――


ガブッ!!


酒呑童子の首が、副隊長の兜に喰らいついた。


ぎょろり、と目が動く。


執念。


最期の足掻き。


グシャッ。


兜を割り頭蓋骨を砕く。


下顎を残して頭が捥げた。


血が噴き上がる。


「あが……」


崩れ落ちる副隊長の身体。


童子切が砂に刺さる。




「副隊長――!」


赫斎が鬼切丸を構え駆け寄る。


酒呑童子の髪が鎧兜に絡みつく。


髪に苦戦しながらも、酒呑童子の眉間に刃を突き立てた赫斎。


充血した目を剥き、動かなくなった酒呑童子。


口の中から副隊長の潰れた顔が覗く。




「酒呑童子――!」


大太法師の大声が空気を振るわす。


騎馬を踏み潰す。


人間を握り潰す。




ズドン!


大筒が火を吹く。


瘴気を含んだ鉄球が直撃する。


一発。


二発。


だが、倒れない。


大太法師が鉄球を投げ返す。


バゴン!


破壊される投光器。


吹き飛ぶ人間。


五発。


十発。


十五発――

ついに、膝をつく大太法師。


「焔……皆……すまぬ」


「森を……自然を……守れなかった」


ドオォン――!


巨体が崩れ落ちる。


周りの騎馬隊が下敷きになる。


砂が一気に舞い上がり、視界を覆う。




「どうする――焔!」


牛鬼の声は震えていた。


尖った脚をバタつかせる。


焔や牛鬼にも雨のように降り注ぐ砂。




「……」


焔は答えない。


いや――

最初から聞いていなかった。


「ところで」


落ち着いた焔の声。


砂の中から降ってくるように。


「雷獣の"本当に裏切った"とは……どういう意味だ?」






「こんな時に何を――! わしは知らん!」


牛鬼の明らかな動揺。


「貴様らも……」


焔の視線が、牛鬼に、ゆっくりと向く。


「私を裏切っていたのか? それとも――騙していたのか?」




「違う!」


牛鬼の叫びは遅かった。


ザッ――


降り注ぐ砂の中から赫斎が現れる。


二振りの刀。鬼切丸と童子切を構える。


ズバッ!ズバッ!


牛鬼の身体が、四つに分かれた。


「あ……」


口を開きかけて――

何も言えないまま断たれた。


内蔵が撒き散る。


血が砂へ吸い込まれる。




更に踏み込む赫斎。


刃が、焔へ向く。


突き出す。


鬼切丸の切先が――焔の胸に触れる。


その瞬間。


空間が静止したように、雑音が消える。




「灼熱」


焔の感情のない声。


長く赤い髪が放射状に広がる。


一気に放たれる熱波。


焔の身体が真紅に輝く。


まるで――太陽。


近づくもの全てを融かす。


世界が焼ける。


熱が空気を枯らす。


砂が赤く染まる。




驚く赫斎。


鬼切丸が――切先から熔ける。


焔を貫く前に熔ける。




赫斎が咄嗟に飛び退こうとした。


だが、遅い。


赫斎の腕に、焔の髪が幾重にも絡まる。


熱を帯びた赤い髪が籠手を焼き割る。


そのまま、赫斎の腕に食い込む。




ボッ――!


赫斎の左腕が燃え上がる。


赫斎の鎧兜が熱を帯びる。


全身の皮膚が焼ける。


右目が焔の閃光で潰れる。


視界が真っ白になる。


「ぐわぁ――!!」


赫斎の苦悶の叫び。




「人間も。怪人も。怪異も」


赫斎を引き寄せ耳元で囁く焔。


高熱の吐息が耳を焼く。


グジュ――


焼けた鎧兜が皮膚にへばりつく。


焔の瞳の奥に、次々と浮かぶ影。


村人。


帝。


晴明。


雷獣。


牛鬼。


「……私を裏切った」


信じたものすべてが、同じ形で崩れた焔。




赫斎に聞く間などない。


絶え間なく襲う激痛。


焼ける肉体。


意識がねじ切れそうだ。


「ぐあぁぁ――!」


赫斎の掴んだ腕を振り回す焔。


ブチッ!


腕が――焼き千切れた。


投げ飛ばされる赫斎。


晴明の足元に落ちた。






ザッ……ザッ……


焔が歩く。


晴明に近づく。


熱が、焔の周囲を歪ませる。


「業火」


倒れた者たちが次々と発火する。


怪異も人間も焼き尽くす。




「……見事だな」


晴明の声。


袖で光を遮りながら、目を細め、焔の足元だけを見る。


「怪異の長に相応しい力だ」


だが、その瞳は――

焔も人間も何も映していなかった。


見てしまえば――戻れなくなるからだ。




「……何とか……しろ……」


地に伏した、焼け爛れた赫斎が、晴明の裾を掴む。


熱気で喉が焼かれ、まともに声が出ていない。


全身から焼けた肉の臭いがする。




「……邪魔だ」


晴明は、赫斎の手を蹴り払った。


情を挟めば、全てが崩れると知っていたからだ。


『目的は――ただ一つのみ。それ以外は――全て捨てる覚悟。自分の身さえも……捧げる』


晴明は心に誓っていた。


赫斎の爛れた皮膚と血が飛び散る。


意識が途切れた。




焔が、さらに近づく。


赤い髪が放射状に揺れる。


砂丘から昇る太陽の化身のように。


すべてを焼き尽くす存在として。


もはや――止められる者は、どこにもいなかった。


そして――止めようとする者も、もう残っていなかった。


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