表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/43

13話【弔戦】

膠着状態。


朔夜と季武。


空気が重い。


湿った布が身体に張り付くような圧迫感。


呼吸が浅くなる。


一歩動けば――終わる。


互いに理解していた。


動けば、負ける。


動かねば、削られる。


思考だけが、限界まで加速していく。




その時――


「――竜巻」


上空から、静かな声が落ちた。


はっと、二人が同時に見上げる。


逆光。


傾き始めた太陽。


その中心に、影があった。


羽を広げた天狗。


後光を背負う存在。


烏丸。


ゆっくりと、羽団扇が振り上がる。


シュル……


空気が、逆らった。


砂粒が、浮く。


風が、巻き戻る。




季武の視線が落ちる。


足元。


わずかな揺らぎ。


つむじ風。


「なっ……!」


初見。


理解不能。


対応が、遅れる。




ビュルルル――!!


一瞬で膨れ上がる風。


渦。


柱。


上昇気流。


「くっ!」


季武は咄嗟に屈み、重機を掴む。


だが。




ゴォォォォ――!!


竜巻は止まらない。


土砂。


鉄片。


砕けた機材。


すべてが巻き上がる。




朔夜は反射的に地面へ伏せる。


渦に飲み込まれないように。




バチバチバチッ!!


腕で頭を庇う。


飛来物が、散弾のように叩き付けられる。


衝撃。


痛み。


呼吸が乱れる。


それでも――季武の手は離れない。




ブオォォッ――!!


竜巻が膨れ上がる。


限界を越えた。


「くっ……!」


身体が浮く。


逆さまになる視界。


必死に重機にしがみつく。


だが――


ゴゴゴゴ……!


風が、ねじれる。


回転が加速する。


ついに。


重機ごと、持ち上がった。




「嘘だろ……!」


鉄の塊が、宙を舞う。


回転。


旋回。


一気に上昇。


天地が狂う。


そして――


放り出された。




――頂点。


そこに、烏丸がいた。


竜巻が、消える。


静寂。


上昇から落下に移行する。


大地に引っ張られる季武。


視界は砂塵に閉ざされている。


平衡感覚は崩壊している。




烏丸が、静かに呟いた。


「巌……」


「熊吉……」


風が止まる。


「力を貸してくれ」


一瞬――空が凍る。


その中で。


脚が、振り抜かれた。




バキッ!!


乾いた音。


顔面にめり込む蹴り。


歯が砕ける。


血が弾ける。


意識が、途切れた。


クロスボウが離れる。


身体が、弾き飛ばされる。






ズドン!!


朔夜の前方。


重機が落ちた。


地面が震える。


土煙が舞い上がる。




沈黙。


烏丸は、宙に立ったまま。


血が、滴る。


「……終わった」


その声は、静かだった。


満身創痍のなか。


朦朧とする意識のなかで、弔いが終わる。




フッ――


力が抜ける。


そのまま、墜ちる。




「烏丸さん!」


朔夜が走る。


重機を駆け上がる。


跳躍。


ガシッ!!


空中で掴む。


体重が腕にのしかかる。




ズザァァ――!!


地面を滑りながら着地する。


砂が舞う。


烏丸は、完全に気を失っていた。




――麓――




ビュ――


空気を裂く音。


貞光が、空を見上げる。


落ちてくる影。


「……」


ガシッ。


片手で掴む。




「マジかっ……」


思わず漏れる声。


季武がやられた。


金時も倒れている。


空を見上げる。


太陽が傾く。


空が、赤く染まり始める。


脳裏に浮かぶもの。


闇。


魍魎。


夜。




「……撤退だ――!」


低く。


だが、確実に響く声。


即断。


季武と金時を担ぎ上げる。


資源部隊が動く。


車両へ。


負傷者。


泥だらけの隊員。


ドゴドゴドゴ――


車列が動き出す。


光統院が、引き波のように去っていく。


残されたのは――


崩れた重機と、傷だらけの大地。




――中腹――




怪人達が、静かに集まる。


歓声はない。


ただ、沈黙。




剛鬼が、巌と熊吉の身体を集めていた。


「すまない……」


震える声。


強くなったはずの身体。


だが――守れなかった。


手が震える。


涙が止まらない。




銀八が、静かに額の血を拭う。


「手厚く弔ってやろう」


肩に手を置く。


その重みが、現実を伝える。




そこへ――


朔夜が戻る。


烏丸を背負い。


雫が支える。




「又兵衛は?」


剛鬼の問い。


「仲間が救助した。里で手当てを受けているから、後で見舞おう」


銀八が答える。


「……良かった」


剛鬼が、息を吐く。




だが――


銀八は、遠くを見ていた。


「奴らは……また来るぞ」


誰も否定しない。




視線の先。


崩壊した崖。


埋まった重機。


抉られた荒野。


すべてが、赤く染まる。


茜空。


まるで――血のように。




「戻ろう」


誰かが言った。


感傷に浸る時間はない。


怪人達は、静かに踵を返す。


風が吹き下ろす。


無情に。


戦場を撫でていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ