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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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13話【弔戦】

膠着状態。


朔夜と季武。


二人だけの空間。


周りの音が消える。


淀んだ空気。


湿った布が身体に貼り付くような圧迫感。


呼吸が浅くなる。


一歩動けば――終わる。


互いに理解していた。


動けば、負ける。


動かねば、削られる。


互いに目線は外さずに、

思考だけが、限界まで加速していく。




その時――


「――竜巻」


上空から、静かな声が落ちた。


はっと、二人が同時に見上げる。


完全に不意を突かれた。


逆光。


傾き始めた太陽。


その中心に、影があった。


黒い羽を広げた烏天狗。


後光を背負う存在。


烏丸。


ゆっくりと、羽団扇が振り上がる。


シュル……


空気が、逆らった。


砂粒が、浮く。


風が、巻き戻る。




流れる空気を感じ、季武の視線が落ちる。


足元。


わずかな揺らぎ。


つむじ風。


「なっ……!」


初見。


理解不能。


思考が現実に追い付かない。


対応が遅れる。




ビュルルル――!!


一瞬で膨れ上がる風。


渦。


柱。


上昇気流。


「くっ!」


季武は咄嗟に屈み、重機の窪みに指をかける。


茶髪が暴れ舞う。


はためく白い制服。




ゴォォォォ――!!


竜巻は止まらない。


土砂。


鉄片。


砕けた機材。


あらゆるものを呑み込み、さらに太くなる。




朔夜も反射的に地面へ伏せる。


はためく作業着。


吸い寄せられるのを堪える。


渦に飲み込まれないように、這いながら距離を取る。




バチバチバチッ!!


腕で頭を庇う季武。


飛来物が、散弾のように叩き付けられる。


衝撃。


痛み。


呼吸が乱れる。


それでも――季武の手は離れない。




ブオォォッ――!!


竜巻が生き物のように暴れ狂う。


巻き上げる。


ついに、

季武の重さが、意味を失くした。


「くっ……!」


身体が浮く。


逆さまになる視界。


必死に重機を掴む。


だが――


ゴゴゴゴ……!


風が、ねじれる。


回転が加速する。


ついに。


重機ごと、持ち上がった。




「嘘だろ……!」


季武の想定を、はるかに超えた現象。


鉄の塊が、宙を舞う。




バキンッ!


鉄片がゴーグルを弾き飛ばす。


割れた破片が目に入る。


視界を失ったまま――


回転。


旋回。


一気に上昇。


天地が狂う。


そして――放り出された。




上昇から下降に切り替わる頂点。


そこに、翼を広げた烏丸。


フッ。


幻であったかのように、竜巻が消える。


静寂。


一瞬、季武の身体が宙に止まる。


内蔵が抜けるような感覚。


視界は奪われたまま、

平衡感覚も崩壊している。




烏丸が、静かに呟いた。


「巌……熊吉……力を貸してくれ」


かっと目を見開く。


一気に脚が、振り抜かれた。




バキッ!!


乾いた音。


顔面にめり込む蹴り。


前歯が折れる。


血が弾ける。


季武の意識が途切れた。


いや、既に無かったのかもしれない。


クロスボウが手から離れる。


季武の身体が、弾き飛ばされる。




ズドン!!


朔夜の右。


重機が落ちた。


地面が震える。


土煙が舞い上がる。




烏丸は宙に立ったまま。


腹の風穴が開き、血が滴る。


「安らかに……」


同士に向けた言葉が途切れる。


その声は、静かだった。


満身創痍のなか。


朦朧とする意識のなかで、弔いが終わる。




フッ――


烏丸の力が抜ける。


そのまま墜ちる。




「烏丸さん!」


朔夜が走る。


降り注ぐ落下物を避けながら走る。


跳躍。


ガシッ!!


空中で掴む。


体重が腕にのしかかる。




ズザァァ――!!


地面を滑りながら着地する。


砂が舞う。


烏丸は、完全に気を失っていた。




――麓――




ビュ――


空気を裂く音。


貞光が、空を見上げる。


飛来する影。


ガシッ。


片手で季武を掴む。


「マジかっ……」


思わず漏れる、貞光の驚き。




太陽が傾く。


空が、赤く染まり始める。


脳裏に浮かぶもの。


闇。


魍魎。


夜。




「……撤退だ――!」


低く。


だが、確実に響く声。


即断。


貞光は、季武を掴み、金時を肩に担ぐ。




資源部隊が動く。


使える車両へ負傷者を運ぶ。


泥だらけの隊員。


ドゴドゴドゴ――


車列が引き返す。


光統院が去っていく。


残されたのは――

崩れた重機と、傷だらけの大地。




――崖中腹――




怪人達が、静かに集まる。


歓声はない。


ただ、沈黙。




片方の角が折れた剛鬼。


腫れ上がる鼻も気にせずに、

ただ、巌と熊吉の身体を集めていた。


「すまない……」


震える声。


強くなったはずの身体。


だが――守れなかった。


手が震える。


後悔で、涙が止まらない。




銀八が、額の乾いた血を払う。


片手に剛鬼の折られた角。


「手厚く弔ってやろう」


肩に手を置く。


その重みが、現実を伝える。




そこへ――


疲弊した顔の朔夜が戻る。


烏丸を背負い。


雫を補助する。




「又兵衛は?」


剛鬼の問い。


「仲間が救助した。里で手当てを受けているから、後で見舞おう」


銀八が答える。


「……良かった」


剛鬼が、息を吐く。




だが――

銀八は、遠くを見ていた。


「奴らは……また来るぞ」


誰も否定しない。




視線の先。


崩壊した崖。


埋まった重機。


抉られた荒野。


すべてが、赤く染まる。


茜空。


まるで――血のように。




「戻ろう」


誰かが言った。


感傷に浸る時間はない。


怪人達は、静かに踵を返す。


風が吹き下ろす。


無情に、戦場を撫でていった。


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