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処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

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14話【各々の覚悟】

――荒野――


ギュイン――


ホバーブーツが砂塵を巻き上げる。


地面すれすれを滑るように、朧は疾走していた。


風が頬を裂く。


視界が流れる。


補給所は、もう近い。




それでも――胸の奥は、静まらない。


紡から聞いた話が、頭の中で何度も反芻される。


雫と再会できた奇跡。


そして――結月。


未来を視る怪人。


かつて、自分の人生を狂わせた存在。


偶然か。


必然か。


それとも――罰か。


答えは出ない。


それでも。




「……神よ」


風に溶けるほどの、か細い声。


もし、この巡り合わせに意味があるのなら。


それが与えられたものなら。


受け入れよう。


逃げない。


「これを届けることが……私の贖罪だ」


脇差しを握る手に、僅かに力がこもる。


――ほんのわずかに、震えた。


それでも、離さない。




――補給所――




「……うっ……!」


一鉄が血を吐いた。


鉄の味が、舌に広がる。


腹を押さえ、膝が崩れる。


呼吸が、浅い。


遅れて痛みが、全身を貫いた。




拳は――


一度も届かなかった。


かすりもしなかった。


相手は人間。


それでも。


まるで別の生き物だった。


気付けば懐に入られ――


一撃。


それだけで、すべてが終わっていた。


地面に叩きつけられた時には、もう立てなかった。


視界が白く弾ける。


耳鳴りが残る。


ゴンッ。


拳を床に叩きつける。


悔しさを、ぶつけるように。


覚悟はあった。


死ぬ覚悟も。


だが――


“届かない”覚悟は、していなかった。




それでも。


一鉄は顔を上げる。


睨む。


綱を。


せめて――


心だけは、折らせない。




その隣。


直元は、立ち尽くしていた。


呼吸が、うまくできない。


喉が締まる。


全身が、冷たい。


目の前で、一鉄が倒された。


その間、自分は――


ただ、立っていただけだった。


一歩も、動けなかった。


知っている。


綱の強さを。


光統院にいれば、嫌でも叩き込まれる。


“絶対に勝てない相手”。


身体が、拒絶する。


――動くな。


――関わるな。


本能が、命令する。


『……何も、できなかった』


拳を握る。


震えが止まらない。


それでも。


逃げない。


逃げられない。


その場に、立ち続ける。


それだけが、今の限界だった。




「経緯を報告しろ」


声が、落ちる。


重い。


白い空間が、さらに冷える。


綱の視線が、直元を射抜く。


逃げ場はない。


「え……」


声が、出ない。


舌が動かない。


思考が、止まる。




カツ。


一歩。


綱が近づく。


「お前も光統院だろ」


目の前で、止まる。


距離が、近すぎる。


息が詰まる。


――逃げられない。




パンッ!


乾いた音。


視界が横に流れた。


頬が、熱い。


遅れて痛みが走る。


涙が滲む。


それでも――声は出さない。


「……申し訳ありません」


震える声。


それでも、絞り出す。




「そいつは何も知らねぇ……!」


一鉄が叫ぶ。


血を吐きながら。


「俺が脅して言うこと聞かせてただけだ……!」


直元の目が揺れる。


一鉄を見る。


「お前は用済みなんだよ!」


睨み返す一鉄。


その目は、死んでいない。


――折れていない。




『……一鉄さん』


胸が、締め付けられる。


何もできなかった自分。


それでも。


拳を、さらに強く握る。




「貴様に訊いていない」


綱が一鉄を見下ろす。


感情のない声。


次の瞬間。


ゴキッ!


踵が肩にめり込んだ。


「あがっ……!」


骨が軋む。


身体が跳ねる。


呼吸が、潰れる。




ピピッ。


ピピッ。


通信音。


空気が、一瞬で変わる。


綱が振り返る。


歩く。


端末を取る。


「一鉄さん?」


紡の声。


若く、震えた声。


――沈黙。


綱が一鉄を見る。


「……やはり、こやつが一鉄か」


静かに。


確認するように。


重い間。


「……誰?」


警戒の声。


「……綱」


その一言で――


空気が凍りついた。


ガガ……


通信が、切れる。




――トラック荷台――




ギシ……


ベッドが、軋む。


結月がゆっくりと身体を起こした。


まだ残る痺れ。


だが――動ける。


それよりも。


胸の奥が、ざわつく。


嫌な予感。


ガチャ。


静かに扉を開ける。


外へ。


シートを潜る。


スモッグで霞む光。


柔らかな太陽の熱。


頬に触れる。


それだけで分かる。


――外だ。


自然の光。


「……」


一歩、踏み出す。


その瞬間。




ズキンッ!!


激痛。


頭を貫く。


膝が崩れる。


『自然が……』


流れ込む。


抉られる大地。


砕かれる岩。


削られる命。


重機の振動。


音。


痛み。


すべてが、直接。


脳へ。




歯を食いしばる。


声を、押し殺す。


涙が滲む。


それでも――


「……行かないと」


小さく。


だが、確かに。


「……今度こそ」


一鉄達。


守るべき存在がある。


仲間がいる。


――もう、1人じゃない。




ふぅ――


深く息を吐く。


壁に手を当てる。


冷たいコンクリート。


確かな現実。


空気の流れ。


匂い。


触れるすべてで、世界を捉える。


一歩。


また一歩。


結月は、歩き出す。


迷いは――もう、なかった。


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