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処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

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12話【心理戦】

ビシビシッ――!


崖の岩肌に走った亀裂が、蛇のようにうねりながら、朔夜の足元へと迫る。


「烏丸さん!」


朔夜と雫が同時に駆け寄る。


白目を剥いたまま、動かない烏丸。


腹部から溢れる血が、岩肌を染め上げる。




「……くっ」


朔夜は唇を噛む。


雫は、すぐにリュックへ手を伸ばす。


取り出したのは、朧から託された秘薬。


迷いはない。


傷口へ、叩き込むように塗り込む。




グジュ……


秘薬が、生き物のように蠢いた。


肉の奥へと潜り込み、血を飲み込み、傷口を覆っていく。


まるで“食らう”ように。


その瞬間――




パパパパッ!!


粉塵の向こうから、無慈悲な弾幕が降り注ぐ。


「一線」


シュン――


空間に、薄く線が走る。


カンカンカンカン――!!


弾丸が弾かれる。


火花は散らない。


代わりに、青白い光が瞬く。


境界。


そこに“存在しない壁”が、確かにあった。




――上空――




粉塵へ弾幕を撃ち込みながら、季武が降下する。


慎重に近づく。


やがて煙が薄れ、視界が開けた。


そこに立っていたのは――朔夜。


雫と烏丸を背に。


壁のように、動かない。




パパパパッ!


カカカカン――!


弾が当たるたび、同じ一点が淡く光る。


まるで“拒絶”されているかのように。




「……やっぱり、君の神通力か」


銃口を下げないまま、季武が呟いた。




――バリア。


思考が、加速する。


範囲。


強度。


発動条件。


維持コスト。


――不明。


情報が足りない。




今は...…危険。


不用意に踏み込めば、終わるかも。


『弾数も少ない……燃料も残り僅かか……ジェットパックは燃費が悪いな~』


脳は冷静に計算を続ける。


顔には、一切出さない。




朔夜もまた、同じだった。


『攻撃が……届かない』


烏丸から覇権を奪った季武。


空を飛ぶ敵。


こちらは地上。


届かない。


分が悪い。


だが、防ぎ続けることも――限界がある。


背中の傷が、脈打つ。


じわりと血が滲む。


『……持たない』


それでも、顔には出さない。


歯を食いしばる。




二人の間を、風だけが通り抜けた。


動けば、終わる。




その時――


朔夜の背に滲む血を見て、雫が動いた。


指で円を作る。


標的は、上空の季武。


「霧雨」


ブワッ――!!


濃霧が、爆ぜた。


一瞬で、視界が閉ざされる。


水滴が肌に貼り付き、温度を奪う。


「……っ!」


季武は即座に上昇。


霧の外へ抜けようとする。


その瞬間。


朔夜と雫の視線が、交わった。


言葉はない。


だが――理解している。




タッ――!


朔夜の肩を踏み台に、雫が跳ぶ。


空気を裂き、一直線に――


ガシッ!!


空中で、季武の足首を掴んだ。


「なっ――!?」


ガクンッ!!


機体が傾く。


バランスが崩れる。


即座に銃口が向く。


パパパッ!!


雫は、鞘を振り上げた。


ガッ!!


顔面へ叩き込む。


弾道が逸れる。


頬を掠める弾丸。


足の甲を撃ち抜く一発。


「……くっ!」


それでも、離さない。


高度が、落ちる。


さらに――


ドンッ!!


朔夜が跳び付いた。


首へ腕を絡める。


銃身を掴む。


パパパパッ!!


弾丸が空へ散る。


岩へ散る。


三人が絡み合う。


体勢が、崩れる。


朔夜が操縦桿を、季武の手の上から掴む。


乱暴に捻る。


旋回。


錐揉み。


そして――


ドガンッ!!


墜落。


地面へ叩きつけられた。


ゴロゴロゴロ――!!


転がる。


ぶつかる。


翼が捥げる。


やがて、弾けるように分離する。




雫の手が離れる。


全身が擦り傷だらけ。


撃ち抜かれた足が熱を持つ。


ビリッ。


布を裂き、止血する。




カスッ。


銃声が、止まった。


弾切れ。


そして――


殴り合いが始まる。


ドンッ!!


朔夜と季武がぶつかる。


取っ組み合いながら、崖を転がる。


境界を張る余裕は、ない。


ゴンッ!!


季武の頭突き。


鼻血が弾ける。


ドカンッ!!


横転した重機へ叩きつけられる。


「かはっ……!」


背中が潰れる。


呼吸が止まる。


その隙。


ドッ!!


腹へ蹴り。


距離が開く。


朔夜の動きが、鈍る。




――その瞬間。


季武が、重機を駆け上がった。


「……っ」


朔夜は膝をつき、顔を上げる。


鼻を押さえる。


肩で息をする。




カチャ。


上。


赤い鏃が、こちらを向いていた。


「ロックオン」




静寂。


互いの呼吸だけが響く。




季武は撃てない。


『既に張られていたら終わる』


境界の仕様が、分からない。


見えない。


『クロスボウは単発』


『外せば隙』


『肉弾戦は不利』


思考が止まらない。




一方――朔夜。


『撃ってこない……』


ゆっくりと立ち上がる。


指を構える。


だが――まだ、張れていない。


『前面だけなら……間に合うか?』


だが、矢は曲がる。


どこから来るか分からない。


『全面展開は無理だ』


背中が酷く痛む。


『神通力も……残り僅かか』




「動くな」


季武の声。


朔夜の動きが止まる。


互いに、理解していた。


撃てば、終わる。


動けば、終わる。




風が、止まる。


世界が、息を潜める。


動かない。


動けない。


思考だけが、回り続ける。


汗が頬を伝う。


時間だけが、引き延ばされる。


――均衡。


その一点で、すべてが止まっていた。


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