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処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

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11話【空中戦】

剛鬼と金時が激突するその裏で――


もう一つの戦いが、空を舞台に始まっていた。




――麓――



 

シュッ――!

 

赤い閃光が、空気を裂いた。

 

横転した重機の影。


銃身を支えに膝をつき、季武はスコープを覗く。

 

「……何でだよ」

 

笑みが、消えていた。

 

崖上。


霞む視界の中に浮かぶ紅一点――雫。

 

何度も狙いを定めている。


赤く光る鏃。


自動追尾の矢。

 

風を読み、角度を変え、軌道を補正する。


逃げ場はないはず。



 

だが――

 

カン。

 

雫の目前で、必ず落ちる。

 

見えない“何か”に弾かれるように。

 

「……自動追尾が、当たらない?」

 

眉が歪む。

 

スコープ越し。


雫の隣に立つ、青年。

 

朔夜。

 

『あいつか……? 神通力……』

 

端末を展開――

 

その瞬間。



 

シュッ。

 

シュッ。

 

空気が、裂けた。

 

「……!」


反応する季武。

 

横に転がる。

 

端末が真っ二つに割れる。


頬が裂け、血が飛ぶ。

 

軍服が、切り刻まれていた。



 

「女にばかり、現を抜かすな」

 

影が、落ちる。

 

ゆっくりと顔を上げる。

 

空――


風を裂き、そこに“留まる”存在。

 

天狗の怪人――烏丸。

 

翼を広げ、静止している。


風に乗るでもなく、“支配している”ように。

 

羽団扇が、わずかに揺れた。

 

気配が、遅れて届く。

 

「……いつからだよ」

 

季武が頬の血を拭う。

 

「僕は、女が大好きなんだもん」

 

にやりと笑う。



 

「鎌鼬」

 

シュシュッ――!!

 

不可視の刃が、幾重にも走る。


バサッ――!

 

季武は土を掴み、空へ放る。

 

砂粒が裂ける。

 

一瞬。

 

“見える”。

 

刃の軌道が。

 

身体を捻る。


最小限の動き。


軽い身のこなし。

 

すべてを躱す。

 

背後の重機に、無数の斬痕が刻まれた。



 

「……ただの女好きではないな」

 

烏丸が呟く。



 

「僕はね……」

 

季武が立ち上がる。

 

「光統院でも、小柄なんだよ」


カチンッ。


翼が展開される。

 

ギュイィィィン――

 

背中が唸る。

 

小型ジェットパック。

 

甲高い音が空気を震わせる。




「……っ」

 

烏丸の顔が歪む。

 

音が、脳を直接かき回す。



 

「コンプレックスだったけどさ」

 

カシュ。

 

今度は、左の籠手。


操縦桿が展開される。

 

赤い噴射。

 

砂塵が吹き上がる。

 

身体が、浮く。

 

10メートル。


20メートル。

 

そして――

 

同高度。

 

烏丸と、同じ“空”へ。

 

「お陰で、これが使えるんだ」



 

「……何だと」

 

驚愕する烏丸。


自分の領域に、人間が干渉してきた。



 

「こっちは手動だけどね~」

 

カシュ。

 

右の籠手が展開。

 

機関銃の銃身。


黒く輝く。



 

パパパパパッ!!

 

弾幕が、空を裂く。

 

烏丸が旋回。

 

羽団扇が振られる。

 

シュシュッ!!

 

刃が飛ぶ。

 

だが――

 

季武は、煙を吐いた。

 

ジェットの噴煙。

 

その中を、刃が通過する。

 

“軌道が見える”。

 

宙返り。

 

躱す。

 

煙を抜け、さらに上昇。

 

小さくなる烏丸。



 

『……鎌鼬』

 

思考が加速する。

 

『見えないが直線』


『威力は中の下』


『射程……50メートル前後』


『発動には羽団扇の動作が必要』



 

――結論。

 

『見切れる!』



 

パパパパパッ!!

 

弾幕。

 

烏丸が上昇し、距離を詰める。

 

だが――

 

届かない。

 

季武は、逃げる。

 

近づけば、離れる。

 

離れれば、撃つ。

 

常に保たれる距離。

 

60メートル。

 

羽団扇は、振れない。

 

空を裂く二つの影。

 

交差しない戦い。


旋回。


宙返り。

 

削る。

 

削られる。



 

徐々に――

 

烏丸の動きが、鈍る。


弾幕を浴びる。

 

羽が裂ける。

 

血が滲む。



 

「スタミナ切れかな~?」

 

季武が目を細めた。



 

その時。

 

「行くな――!!」

 

剛鬼の悲痛な叫び。

 

反射的に視線が逸れる。


地上で巌と熊吉が割かれた。


ほんの一瞬。


だが、確実に。


時が止まった。


 




 

その、一瞬を見逃さない。

 

ギュイィィィィィ――ン!!

 

エンジン出力最大。

 

空気が爆ぜる。

 

音が、遅れて追いかける。



 

ズドンッ!!

 

季武が背に突き刺さる。

 

推進力ごと、叩き込む。



 

「がはっ……!」

 

烏丸の身体が折れる。

 

空中で、体勢が崩れる。

 

逃げ場はない。

 

銃口が、押し当てられる。

 

呼吸が触れる距離。



 

「チェックメイト」


耳元で囁く。

 

笑う。



 

パパパッ!!

 

ゼロ距離射撃。

 

「――ッ!!」

 

弾丸が貫く。

 

腹から、血が弾ける。

 

内部から、熱が破裂する。

 

そのまま――

 

吹き飛ぶ。



 

ドドンッ!!

 

崖へ激突。

 

岩が砕け、亀裂が走る。

 

粉塵が空を覆う。

 

静寂。

 

空を支配していた影が――

 

崩れ落ちた。


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