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処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

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10話【継承】

ブンッ――!!


空気を裂き、金棒が唸る。


「兄者を……!」


剛鬼の目は血走っていた。


怒りが、視界を赤く染める。


地面を砕き、一直線に突っ込む。


――正面衝突。




ガキィィィンッ!!




金棒と鉞がぶつかる。


衝撃が、空間ごと震わせた。


地面に亀裂が走る。


砂が跳ね、岩が軋む。


耳鳴りが残る。




「ほぉ……」


金時が、口角を吊り上げる。


獲物を値踏みする、肉食獣の目。


力を測っている。


「ぐぐぐ……!」


押し合う。


筋肉が悲鳴を上げる。


骨が軋む。


だが――


「軽いのぉ」


ニヤリ。




ドゴォン!!


剛鬼の身体が吹き飛んだ。


背中から崖へ叩きつけられる。


岩肌が砕け、粉塵が舞う。


「かはっ……!」


肺の空気が抜ける。


視界が白く弾ける。




ドドドドド――!!


金時が追撃する。


巨体とは思えない速度。


鉞が振り上がる。


「かち割ってやる!」


――振り下ろされる。




その瞬間。


ビュッ。


空気が、鳴った。


ビィィン――


何かが、突っ張る。


鉞が――止まる。




「……何じゃ?」


さらに。


ビュッ。


ビュッ。


ビビィィン――


腕。


脚。


胴。


――動かない。


絡みつく。


粘つく。


見えない何か。


目を凝らす。


キラリ。


光を拾う、細い線。




「……糸?」


ビュッ。


ビュッ。


銀色の糸が、次々に走る。




「起きろ!剛鬼!」


後方。


蜘蛛の怪人――銀八。


岩と、金時。


倒木と、金時。


地面と、金時。


すべてを繋ぐ。


自然の枷。




だが。


ズズ……


岩を引きずる。


倒木を引きずる。


ブチン。


一本、切れた。


「何と……」


銀八が息を呑む。


視界が揺れる。


神通力の酷使。


それでも。


ビュッ!


糸を放つ。


もう一度。


もう一度。


金時を繋ぎ止める。




「……銀八さん」


剛鬼が目を開ける。


「神通力はな……」


銀八の声が、震える。


「怒りからは生まれぬぞ!!」




ブチブチブチ――!!


糸が、引き千切られる。


飛び出す金時。


一気に鉞が振り下ろされる。


剛鬼は、転がるように躱す。




バキンッ!!


角が飛んだ。


地面に落ちる。


鬼の誇り。


――断たれた。


一瞬。


視線が、そちらへ向く。




その隙。


バゴン!!


鉞の側面が、顔面を叩く。


ゴキッ。


鈍い音。


鼻骨が砕ける。


血が噴き出す。


膝が折れた。


「……っ」


地面に、片膝。


視界が揺れる。


音が遠い。


「化け物が……」


血反吐を吐く。


呼吸が苦しい。


朦朧としてきた。




その時。


『剛鬼』


声。


脳へ、直接。


静かに。


確かに。




『剛鬼』


もう一度。


剛鬼は、顔を上げる。


辺りを見渡す。




『剛鬼』


懐かしい声。


視線が、動く。


導かれるように。




金時の腰。


巾着。


「……っ」


意識が、はっきりしてきた。


気付く。




「銀八さん!!」


「奴の腰巾着!!」


ビュッ!


最後の糸。


だが。




反応する金時。


振り向きざまに投石。


ゴッ。


銀八の額を打つ。


血が流れる。


それでも――


糸は、正確に伸びた。


巾着を絡め取る。




ビュン!


剛鬼の手に収まる。


迷いはない。


開ける。


中には。


注射器。




ブスッ。


腹へ突き刺す。


ドクン。


心臓が、跳ねた。


ドクン。


血が、巡る。


ドクン。


世界が、変わる。


――流れ込む。


記憶。




――




白い牢獄。


監視する光。


汚れた拘束具。


赤い血。


首枷に刻まれた名。


――勇鬼。


兄の名。




腕に刺さる管。


吸われる血。


叩きつけられる鞭。


削がれる肉。


それでも。


兄は、叫ばない。


守るため。


里を。


弟を。




――中腹――




「兄者……」


涙が落ちる。


呼吸が乱れる。


視界が滲む。


音が消える。


……静寂。




兄弟の血肉が、混ざる。


『兄者が守った里を』


拳を握る。


『俺が守る』


雑音が、消えた。


怒りが――沈む。


代わりに。


芯が、生まれる。




「……金剛夜叉明王」


言葉が、落ちる。


ザワ……


空気が、沈む。


風が、止まる。


髪が逆立つ。


炎のように揺れる。


憤怒の形相。


だが。


その奥にあるのは――静かな覚悟。


鬼にして、仏に帰依した者。




「おらのだ!!」


金時が慌てて突進。


「返せ!!」


鉞が振り下ろされる。




時間の流れが遅く感じる。


動きが緩やかに見える。


踏み込む剛鬼。


金時に合わせるように。


掻い潜る。




ズゴォン!!


金棒が、腹へ突き刺さる。


「ごぼっ……!」


目が見開かれる。


血が、噴き出す。


巨体が突き飛ばされた。


斜面に激突。


毬のように、大きく二度跳ねる。


砕ける岩肌。


そして、転げ落ちる。


麓まで。




――麓――




ドスッ!!


転がる金時を、片足で止める大男。


バンッ。


横へ蹴り払う。


金時の身体が転がる。


白目を剥いている。


ピクリとも動かない。


膨れ上がっていた筋肉が、萎む。


増強剤の反動。




「やるじゃねぇか」


口角を上げる大男。


貞光。


ようやく――火が入った。


目がぎらつく。




――中腹――




剛鬼は、巾着を覗く。


九本の注射器。


勇鬼の血肉。


静かに、腰へ括る。


「兄者」


息を吐く。


これは――


復讐ではない。


奪われたものを。


繋ぎ直すための。


――継承だ。


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