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処刑の光でも死ななかった僕は、“境界”になった  作者: もろ犬
第5章【天岩戸】

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9話【血の開戦】

「はぁ……はぁ……」


荒い呼吸。


喉が焼ける。


肺が熱を持つ。


「……凄い威力ね」


雫が、かすれた声で呟いた。


村雨丸を握っていた手が、わずかに震えている。


指先に力が入らない。


柄から、じんわりと生命を吸い取られたような感覚。


視線を落とす。


皺だらけになった手。


そして――頬に走る細かなひび割れ。


まるで、乾いた大地のように。




「大丈夫ですか?」


朔夜が駆け寄る。


その目が、一瞬だけ曇る。


「……少し、使いすぎたわ」


雫は短く答えた。


リュックから取り出したペットボトル。


口に含む。


乾いた喉を潤す。


そして。


残った水を、そのまま手と頬へ――


バシャッ。


水が染み込む。


ジワ……


皺が戻る。


ひび割れが、ゆっくりと閉じていく。


水が、彼女を“元の形”へ戻す。




「一気に追い払うぞ!」


烏丸の声が鋭く裂けた。


羽団扇が崖下を指す。


「おおっ!!」


怪人達が一斉に動く。


崖を滑り降りる影。




飛び出す猫の怪人――又兵衛。


地を這うように低く。


吹き下ろす風のように速く。


二又の尾がしなる。


獲物へ向かう獣の軌道。




シュッ――


空気が、裂けた。


赤い光。


鋭い鏃。


軌道は一直線。


獲物を逃さぬように、目のような赤が点滅する。




ザッ!!


又兵衛は跳んだ。


完璧な回避。


――そう見えた。


一瞬だけ。


安堵が走る。


だが。




グン。


鏃が“上”を向いた。


軌道が変わる。


空中で、追う。




ドスッ。


又兵衛の腹に、深く突き刺さった。


「……っ」


声も出ない。


身体が宙で止まり――


次の瞬間。




ゴロゴロゴロ……!


崖を転げ落ちる。


土と石が跳ねる。


尾が力なく揺れる。


そして――沈黙。


赤が、岩肌を染めた。




――麓――




混乱する資源部隊。


怒号。


悲鳴。


崩れた陣形。


だが。


その中心にいる者達は違う。




「当たり~」


楽しげな声。


季武がスコープ越しに崖を覗く。


口角が上がる。


まるで遊びのように。


クロスボウへ新たな矢を装填。


ガチン。


乾いた音。




「怪人だ! わしにも残してくれよ季武」


金時が鉞を担ぎ、笑う。


次の瞬間。


ダダダダダ――!!


巨体とは思えぬ速度。


地を蹴り、崖を駆け上がる。




それを見送りながら。


「ちっ……しゃーないなぁ」


やる気のない顔。


貞光が、面倒くさそうに立ち上がった。




――中腹――




「よいしょ。よいしょ」


金時が、巨体を揺らしながら登る。


踏むたび。


岩が砕ける。


地面が沈む。




ズダンッ!!


影が落ちる。


空が、一瞬だけ塞がれた。


「金剛力」


降ってきたのは――鬼。


剛鬼。


膨張する筋肉。


膨れ上がる血管。


赤く染まる皮膚。


振り上げる金棒。


全身の力を乗せて――叩き落とす。




ガキンッ!!


火花。


衝撃。


空気が弾ける。


金時の鉞が、受け止めていた。


ボゴンッ!!


岩肌が砕ける。


砂が吹き上がる。


金時の足が、衝撃で地面へ沈み込む。




着地した剛鬼。


即座に横薙ぎ。


ガキンッ!!


金棒と鉞。


ぶつかる。


弾く。


叩く。


押し合う。


ガキンッ!!


重い音。


何度も。


何度も。


火花。


汗。


呼吸。


怒号。




だが。


埋まった足。


わずかな“遅れ”。


押され始める、金時。


バゴンッ!!


金棒が――叩き込まれた。


「ぐぁっ――!」


脇腹。


波打つ肉。


骨が軋む。


血が噴き出す。


巨体が吹き飛ぶ。


ドガンッ!!


大岩へ叩きつけられる。


割れる岩。


煙。


静止。




「はっ……はっ……」


剛鬼が息を荒げる。


その場から動けない。


金棒を支えに、身体を保つ。




やがて。


煙が、晴れる。


「怒ったぞ」


そこにいた――金時。


立っている。


口から血を垂らしながら。


ゆっくりと。


腰巾着から取り出す。


小さな金属ケース。


カチン。


開く。


中には――注射器。


迷いはない。




ブスッ。


自分の腹へ突き刺す。




ドクン。


心臓が、強く脈打つ。


血管が浮き出る。


皮膚が赤黒く染まる。


筋肉が膨れ上がる。


「鬼の怪人の血肉から作った……」


目が、狂気に染まる。


「増強剤だ!」




その瞬間――


全身に岩を纏う影。


岩の怪人――巌。


鋭い爪を振り上げる。


熊の怪人――熊吉。


同時に飛びかかる。




「行くな――!!」


剛鬼の悲痛な叫び。


直感。


警告。


だが――


遅い。




ズバンッ!!


一閃。


鉞が、横に走る。


時間が、切れる。


二人の身体が。


真っ二つに割れた。


ボトン。


ボトン。


上半身と下半身。


別々に転がる。


血が、噴き出す。




金時は、その血を浴びる。


舌で舐める。


「美味いのぉ」


まるで酒でも飲むように。


歪な笑い。




剛鬼の視界が、赤く染まる。


「鬼の怪人……」


脳裏に浮かぶ。


兄者。


伸ばした手。


届かなかった背中。


泣き声。


消えた影。


二度と、帰らなかった。


金棒が、軋む。


ギリギリ……


歯を食いしばる。


口の端から血が滲む。




「兄者に何をした――!!」


牙を剥く。


視線が、金時に突き刺さる。


怒りが――爆ぜた。



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