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白夜の都 ~処刑の光でも死ななかった怪人は、世界の境界を書き換える~  作者: もろ
第5章【天岩戸】

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8話【村雨丸】

「どうして、ここが分かったんです?」


雫は、頬の涙を拭いながら問いかけた。


朧は答えず、無言で通信機を差し出す。




それを見た瞬間――

紡の顔色が、さっと変わった。


「一鉄さん達が危ないんです!」


「えっ!?」


朔夜と雫が同時に声を上げる。


「仲間がいるのか?」


朧の問いは静かだった。


「補給所にいます……でも」


紡の声が震える。


喉の奥で言葉が絡まる。


「……綱に、捕まって」


――綱。


その名が、重く落ちる。


朔夜の背中の傷が、鈍く疼いた。


焼けるような記憶が蘇る。




「奴は武人だ」


朧が淡々と言う。


「無駄な殺生はしないだろう……だが」


一瞬の間。


「急ぐぞ」


朧の表情が強張る。


「補給所の詳しい情報を聞かせてくれ」




――




「死ぬなよ」


朽木の身を案ずる声。


その声は重く、だが温かかった。


集まった者達。


烏丸。


剛鬼。


天岩戸の怪人達。


そして――朔夜と雫。




「一鉄さん達をお願いします」


「あぁ」


朧は短く頷くと、背負っていた鞄から一振りの刀と小瓶を取り出した。


青地に白の鞘。


金の鍔。


静かに差し出されるそれを、雫が受け取る。


その瞬間――

微かに、雨の匂いが立ち上った。




「これは……?」


雫が尋ねる。


「君の研究データから開発した。細胞サンプルを融合させた刀だ」


朧が淡々と答える。




雫の瞳が揺れる。


理解が追いつかない。


だが――

柄を握った瞬間、確かに感じる。


水が、流れる感覚。


「村雨丸」


朧から刀の名が伝えられる。




――やっと、渡すことができた。


朧は胸の奥で、長く息を吐いた。


積み重ねてきた贖罪。


その一端が、ようやく形になった気がした。




朧と紡が、天岩戸の外へ出る。


朽木達も続く。


朧は端末を開く。


光の軌跡が浮かび上がる。


資源部隊の位置はすでに把握済み。


最短ルートを算出。


迷いはない。


誰も口を開かない。


風の音だけが、通り抜ける。


怪人達は、ただ黙って朧の背を追う。




「怪人を導く人間が現れようとは……」


朽木が低く呟いた。


歪な関係。


だが――そこには、確かな信頼が芽吹いていた。


やがて、鉱山を抜け、枯れた森林へ辿り着く。


朧は足を止める。


木々の影へと紡と朽木達を誘導する。




「ここで待て、必ず迎えに来る」


通信機を紡へ手渡す。


それだけ言うと、振り返らない。


頭巾を被る。


気配が曖昧になる。


ホバーブーツの出力を最大へ。


ギュイン――ッ!!


砂埃が巻き上がる。


次の瞬間、朧の姿は掻き消えた。




――採掘場――




ガリガリガリ……!


大地を削る重機の音。


振動が足裏から這い上がる。


眼下の光統院。


まるで――蜜に群がる白い蟻。




――崖の上――




烏丸達の顔が歪む。


頭痛。


怒り。


そして――共鳴。


自然を踏み躙る音が、神経ではなく“直接”脳を削る。




多勢に無勢。


それでも――


「やるぞ!」


烏丸の声が、鋭く裂けた。


「おぉ――!」


怪人達が一斉に足を踏み鳴らす。


ダン!


ダン!


ドドンッ!!


剛鬼が金棒で岩肌を叩きつける。


重い音が、山に響く。


さらに――


ドンドン!


ドンドン!


怪人達が跳ぶ。


踏む。


揺らす。


呼吸が、揃う。


怒りが、一つになる。


それは戦いではない。


怒りの――舞い。




ビシッ!

ビシビシッ!


崖に亀裂が走る。


だが――まだ、落ちない。




「今だ!」


烏丸の叫び。


雫が前へ出る。


村雨丸を引き抜いた。


スゥ――


鞘から、冷たい霧が溢れ出す。


白銀の刀身。


空気に触れた瞬間、露が浮かび上がる。


柄を握る手を伝い、身体の水分が吸われる感覚。


喉が、わずかに乾く。


それでも――


雫は刀を空へ掲げた。




「時雨」


ポツ。


雨粒が落ちる。


ポツ。

ポツポツ。


ザァァァァ――ッ!!


一気に降り注ぐ豪雨。


以前より強力な神通力。


村雨丸によって増幅された雨量。




怪人達の身体を、雨が叩く。


熱くなった身体を冷やす。


乾いた大地が、瞬時に濡れる。


水が、亀裂へと流れ込む。


崖が、軋む。


限界まで――溜め込まれた力。


そして――




ドドドドドォォォ――!!


崩落。


岩肌を滑る土石流。


巨大な茶色の波が、重機と車両を飲み込む。




「そこから逃げろ!」


烏丸の声が響く。




眼下の光統院が、慌ただしく蠢く。


混乱。


悲鳴。


轟音。


土煙。


すべてが、呑み込まれていく。


やがて――


雨が、止む。


静寂。


湿気った風だけが残る。




これは――

朧の奇策。


“天宇受売”の舞。


天岩戸の前で、怪人が舞った。

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