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第16話 偽聖女の謝罪

「すべては、この小娘が勝手にやったことだ!」


孤児院の修繕費を横領し、光の粉へと変えた演出司祭は、自らの罪を逃れるために、隣で震えている少女へと無慈悲に指を突きつけた。

広場に集められた群衆の冷たい視線が、かつて彼らが熱狂した『偽りの聖女』へと一斉に突き刺さる。




演出司祭の悪事が白日の下に晒された、数日後の辺境広場。

そこには、レイゼル辺境伯家の名の下に、真実を知るために集められた領民たちと、証人として引き出されたセラフィーナ・ローゼの姿があった。


「私は知らなかったのだ! この娘が『もっと美しく見せたい、もっと光を』と我儘を言うから、仕方なく予算を回してやったにすぎない。悪いのは、この見栄っ張りな偽聖女だ!」


演出司祭は、自身の保身のために見え透いた嘘を並べ立てた。

すべてを彼女一人に押し付け、自分だけは被害者のような顔をして逃げ切ろうとしているのだ。


広場の空気が、熱狂から一転して冷酷な怒りへと変わっていく。

「騙したのか!」「孤児院の屋根を奪っておいて!」と、領民たちから激しい罵声が飛ぶ。


セラフィーナは、純白のドレスの裾を強く握りしめ、ガタガタと震えていた。

彼女は反論することもできず、ただ青ざめた顔でうつむいている。

大人たちに利用されるだけ利用され、いざとなればこうしてすべての責任を負わされて捨てられる。

あの時、私が彼女の祈りの残響から聞き取った『恐怖』が、まさに今、現実のものとなって彼女を押し潰そうとしていた。


「違います!」


私はたまらず、彼女を責め立てる群衆と演出司祭の前に歩み出た。


「彼女は、主犯ではありません。確かに彼女の奇跡は演出されたものでした。でも、彼女は望んで皆さんを騙そうとしたわけではないのです」


突然声を上げた私に、広場が静まり返る。

私は振り返り、うつむいて震えるセラフィーナの目を真っ直ぐに見つめた。


「セラフィーナ様。あなたは、本当のことを言えば、捨てられるのが怖かったのですよね?」


「……っ」


「嘘をつかないと、祈るための舞台にも立たせてもらえなかった。だから、震える手を隠して、彼らの指示に従うしかなかった。違いますか?」


私の言葉に、セラフィーナの瞳から張り詰めていた大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。

彼女は、もう強がることも、高慢な態度で取り繕うこともしなかった。


「……その通りよ」


彼女は震える声で、絞り出すように告白を始めた。


「私は……魔力も少なく、本当の治癒なんてできなくて。でも、どうしても聖女になりたくて。だから、司祭様たちの言う通りに、光の粉を使って、みんなを騙した。……あなたのように、泥にまみれても祈る力のある人を、ずっと嫉妬して、見下して……ごめんなさい」


それは、飾られた次期聖女としてではなく、一人の弱く怯えた少女としての、初めての嘘偽りのない言葉だった。


「孤児院の屋根のことも……本当に、ごめんなさい。私が、弱かったから……っ」


彼女は両手で顔を覆い、子供のように声を上げて泣き崩れた。

その涙と明確な謝罪の言葉に、広場を包んでいた冷酷な怒りの空気は、少しずつ戸惑いと同情の色へと変わっていく。




「私は、あなたのしたことを、すぐには許せません」


私は、泣き崩れる彼女の前に静かに膝をついた。


「あなたが演出に加担したことで、孤児院の子供たちが寒い夜を過ごしたという事実は、決してなくならないからです」


彼女を可哀想だと思って庇ったのは事実だ。

でも、だからといって彼女が犯した罪や、奪われた屋根が「なかったこと」になるわけではない。

許すことと、返さなくていいことは、まったく違うのだから。


「でも、味方にできる人を、いつまでも敵のままにはしておきたくありません」


私の言葉に、セラフィーナが涙で濡れた顔を上げる。


「あなたが本当に罪を償いたいと思うのなら、私と一緒に来てください。あなたが騙してしまった人たちの痛みを、今度はその目で見て、記録する仕事を手伝ってほしいのです」


「私に……償いの仕事が、できるの……?」


「はい。証言の記録整理と、被害者の方々の対応です。最初は怒られるかもしれません。でも、逃げずに彼らの言葉を聞くことが、あなたの最初のお仕事です」


セラフィーナは、信じられないものを見るような目で私を見つめた後、力強く、何度も頷いた。


「やるわ。……やらせて。もう、逃げないから」


彼女が自らの意志で立ち上がったその時。

背後から、静かで重みのある足音が近づいてきた。


「見事な采配ですね。……では、彼女には証言記録係の見習いから始めてもらいましょう」


カイ様だった。

彼は、泣き腫らしたセラフィーナを一瞥した後、冷徹な視線を演出司祭たちへと向けた。


「証拠の隠滅や責任転嫁は無駄です。あなた方の不正の証拠は、すでにすべて王国監査院へ送致する手配を整えました。そして、彼女の身柄は、監査に協力する重要な証人として、レイゼル辺境伯家が保護します」


カイ様は、私が『助けたい』と願ったセラフィーナを、ただ感情で庇うのではなく、『証人保護』という揺るぎない制度と仕組みで守る道を用意してくれたのだ。

彼のその有能で不器用な支えに、私は心からの感謝を込めて微笑み返した。




だが、辺境でのこの小さな救済劇は、王都の闇を完全に払拭するには至らなかった。


数日後。

中央教会から、辺境伯領へ一通の公式な通達が届いた。

そこには、演出司祭たちの処分を認める言葉とともに、セラフィーナの裏切りと不正への関与について、まったく信じられない決定が記されていたのだ。


『次期聖女候補セラフィーナ・ローゼの関与は一切認められず。本件はすべて、一部の腐敗した司祭による単独の犯行として処理する』


それは、中央教会が彼女の存在とこの事件そのものを、都合よく『なかったこと』にしようとする、黒幕からの明確な意志表示だった。

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