記憶の塔 クロノス
第40話 記憶の塔 クロノス
カールは、人目を避け、
遠くに見える、一際高い塔を目指していた。
「あれは何だ?」
「人もおかしいし」
人ごみを、かき分けて、進むカール。
ノエールの中央塔、第96階ークロノスセントラルスクエア
第40話 電子塔
塔の中の会議
ノエールの中央塔、第96階ークロノスセントラルスクエア
会議はすでに始まっていた。だが、そこに人の“会話”は存在しなかった。
円卓に並ぶ十二の椅子。各国の代表たちが座っている。
しかし、誰一人として口を開かない。
代わりに。
空間そのものが、喋っていた。
代わりに、無数の電子音声とアルゴリズムが、
空中に浮かぶ立体画面で応答を繰り返していた。
順路。ツリー構造。イエス/ノー分岐。フローチャート。
ランダム生成。ソート。サーチ。
リスト。データ。カウント。ロジック。ワードバブル。マップ。デジョン。
無数の思考パネルが、重なり、交差し、再構築される。
それはもはや「会議」ではない。思考そのものの可視化だった。
やがて。
ひとつのプロファイリングシートが、静かに浮かび上がる。
> 【経済指標・2055年版:地球総生産、前月比+0.02%】
> 【カール=ザルツバーグ:本日正午、ノエール着】
> 【同伴者:未登録の未成年一名、該当データ収集中】
フォース解析 プロトスタンダード8627
幼少期に、エサエルから、ダークコンフィ6662
パーソナリティー エディフィス2647
サンバウンド3340
人類の感情すら、数値で扱われる空間。
ここでは──人間は、人格ではなく、変数だった。
世界の、国庫の財政は、圧迫し、
各国の火種になる予想も出てきた。
「エスオゴの国王が、単身、ノエールの経済を探りに、潜入して来ている」
「……カール=ザルツバーグという“個体”を、どう処理する?」
初めて、人の声が響いた。
白銀のスーツ。黒のネクタイ。焦点の合わない瞳。
第3経済圏代表──Mr.クローム
「テレケタ、彼は軍事適性を持つ。政治的影響力も高い。
だが──我々の規格では“旧式”だ」
応答は、声ではなく同期される。
「旧式でも、民衆には“英雄”だ」
「処理を誤れば、市場の感情が暴発する」
「危険なのは暴動ではない──“感情の連鎖”だ、ラコスタ」
一瞬の沈黙。
そして。
「ならば、感情ごと最適化すればよい」
「あの方が、来られる前に」
空間中央に、フラグが立つ。
▶ Project:Force Reset(フォース初期化計画)
静寂が、わずかに歪む。
「だが問題がある」
別の声。
「カールは“外部因子”を保持している」
「……生命樹のバングル」
空間が、わずかにノイズを帯びる。
「あれは、フォース干渉体だ」
「除去しなければ、初期化は不可能」
「奪取が必要だ」
一拍。
「本日、彼はノエール市内の宿泊施設に滞在予定」
「……エージェントを投入」
「了解」
間髪入れず、次の解析。
「ソフィアの動向は?」
「リトルニアより高速移動中。到達まで約48時間」
「追跡は?」
「賢人会がすでに開始」
場面転換
移動中のソフィア
風を切る。
エアーバイクが空を滑る。
ソフィアの目が、わずかに鋭くなる。
「……また来た」
視界の奥で、何かが走る。
「アクセス……違う」
「“追跡”だ」
歯を食いしばる。
「ノエールの賢人会……」
一瞬、笑う。
「いいわ、来なさい」
視線を前へ。
「旧ノエール──電子塔」
「クロノス」
「……記憶の塔」
再びノエール
静寂通り
ノエール第7区。旧建築保存区。
音がない。
完全な静寂。
その中に、二人の足音だけが響く。
ソフィアと、エリアス。
古びた図書館跡地。
埃をかぶった書物が、静かに並ぶ。
「ママ……あの塔は?」
エリアスの指差す先。
空を貫く構造物。
ソフィアは、少しだけ目を細める。
「情報塔よ」
「知識と記録……そして」
一拍。
「心が眠る場所」
「……心が?」
ソフィアは頷く。
「人はね」
静かに言う。
「思い出すたびに、時間を取り戻すの」
同時進行
再び、第96階。
決定が下される。
「プロジェクト・イレーザーを起動せよ」
「対象:カール=ザルツバーグおよび血縁者」
電子音。
──ピポパ ピピピピ
塔の奥深く。
何かが起動する。
それは“装置”ではない。
概念だった。
記憶を書き換えるための。
感情を消去するための。
フォースそのものを初期化するための──
「システム、起動」
静かに。
世界が、書き換えられ始める。
キャスト
人間 カール=ザルツバーグ(カール=エクサ=ザルツバーグ)
エルフ ソフィア=ゴールドバーグ
子供 エリアス=ゴールドバーグ
ノエール 賢人会 デジタルピアトー
第三経済圏代表 Mr.クローム




