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ソフィアの冒険日記02

第38話 ソフィアの冒険日記02


『ソフィアの冒険編』



灼熱の太陽を越えて


エスオゴ新都の空港は、

朝の柔らかな陽光に包まれていた。ターミナルビルのガラス窓越しに、

白銀の機体がゆっくりと滑走路を移動していく。


ソフィアは、手荷物を抱えながら出発ロビーのベンチに腰掛け、

広がる空の向こうをじっと見つめていた。


「ノエールか……」

その言葉を口にすると、胸の奥で何かが静かに震えた。かつて、ハインリヒ大陸の中枢でありながら、

急速なデジタル進化の波に呑まれつつある都市。

かつての人々の叡智が、セントラルコンピュータに集約され、

いまやフォースの流れすら制御しようとする街。


彼女は小さく息をつき、立ち上がった。搭乗口から流れる電子アナウンスが、次の便を告げる。


──「ノエール行き、セクター21、搭乗を開始します」


搭乗ゲートをくぐるとき、ソフィアは一瞬だけ振り返った。空港の彼方、エスオゴの首都ビル群の先に、

緑に包まれた家があった。

かつてカールと共に夢を語った、

あの丘の上の小さな家。


飛行機は、ゆるやかに空へと浮かび上がる。機内から見下ろす大地には、

デジタル都市と自然がせめぎ合いながら共存する景色が広がっていた。

だが、ノエールは違う。

そこには経済の重圧、政治の分断、

そして機械たちの支配が待っている。

「行くわよ、カール」ソフィアは窓の外に囁いた。「私は、真実を見に行く」


やがて機体は雲を抜け、

どこまでも澄んだ青に包まれていった。




「生きる努力、戦う努力」


ノエール郊外、リヒタール研究都市の静かな朝。

空には監視ドローンが浮かび、

都市では朝から軍事教育放送が流れていた。

その喧騒の中で、ソフィアはカフェのテラスに座り、

片手に電子新聞をめくっていた。

隣には、まだ小さな女の子が、

算術と哲学の端末学習に取り組んでいる。

ふと、女の子が問いかけた。

「ねえ、ソフィア。どうして“100歳教育”って言うの?

100歳で終わりなのに。」


ソフィアは静かに、微笑んだ。そして、自分の内に燃える炎を噛みしめるように答えた。

「100歳で学びを終えるだなんて、誰が決めたの?」

少女が首をかしげる。

「人間はもっと生きられるわ。生きる努力、そして、戦う努力があれば。」


「永遠の命は、夢じゃない。でもそれは、与えられるものじゃないの。

奪い取るものでもない。選び取る覚悟が、必要なのよ。」



「命のリミット」


白銀の空に、星が一つ、また一つ、消えていく。

ソフィアは、ノエールの、リヒタールから、

1000数百キロ進んだ、リトルニアに来ていた。

北の、片隅に建つ、古びた観測所でひとり佇んでいた。

横には、従者型アンドロイド《ユイ》が、静かに立っている。


ユイはふと、ぽつりとつぶやいた。

「人間の体って、可哀想ですね。下手をすれば、

100年くらいしか、生きられないでしょう……」

ソフィアはその言葉に、少しだけ目を細めた。

炎のような、静かな憂いが、その瞳に宿る。


「……でも、儚いからこそ、美しいのよ」

「花も、朝露も、夕焼けも。すぐに消えるから、胸を打つ。」

「人間の命も同じ。100年の中で、何を選び、何を愛し、

何を守るか。それが、その人そのものを作るの」

ユイは静かに頷いた。

「……でも、私はアンドロイドです。命の終わりがない分、

あなたのように“決断する理由”もない。だけど――」

そして、ユイは少し微笑んだ。

「……それでも、私の主人は、人間ですから」


ソフィアの表情が、やわらかくほどけた。

「そう。だから、あなたは一番美しい“人工物”よ、ユイ」

夜が、ゆっくりと更けていく。

ユイは言う。

首都ノエール本国に着いたら、

もっと多くの、アンドロイドやロボットに会うでしょう。

ソフィア、あなたの目には、

それが、異質に映るかもしれない。

ソフィアは頷く。

大丈夫よ。

長命と短命、機械と血肉が、同じ空を見上げていた。


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