カール国王になる
第37話 カール国王になる
「戴冠 ― 生命樹の誓い」
空は、高かった。
雲ひとつない青が、王都エスオゴの上に広がっている。
石造りの大広場には、人が集まっていた。兵、商人、子ども、老人。この国に生きる、あらゆる人々。
ざわめきは、やがて静まる。
中央。
白い階段の上に、ひとりの男が立っていた。
カール。
その顔は、まだ若い。
だがその目には、すでに幾つもの夜を越えた重さがある。
階段の上段。
先王が立つ。
老いてはいるが、その姿は揺らがない。
風が、二人の間を通り抜ける。
「前へ」
低い声。
カールは一歩、進む。
石の音が響く。
先王は、しばらくカールを見つめる。
王としてではない。
父としてでもない。
ひとりの人間として。
「……よく、ここまで来た」
カールは何も言わない。
ただ、見返す。
先王は、ゆっくりと手を上げる。
従者が、王冠を差し出す。
古いものだ。
金ではない。だが、重い。
手に取るアリエル国王。
錫杖を掲げる。
アリエル国王は、
低い声で、
静かに、喋り始める。
国民の、皆の、知ってよう。
このエスオゴの土は、赤い。
小麦は植えられるが、
粗末なものしか、実らない。
カールが行ってくれた国。
国交が整った、大国ゴードー。
その
大国から、土を分けてもらい、
サナトリウム後地に、
自家菜園の、研究所を
作っている。
我がエスオゴは、
過去の、古代大戦の前、
古代装置の研究の末
できた国だが、
今は、過去のものとなっている。
工場インフラなどの
元、
小麦の、工場で、
国民は、生活を
しのいでいた。
カールは、ソフィアと
アラゴー侯爵と、
エスオゴに、
新興の、街、
ミシェルスミスを
作ってくれた。
今、若い世代が、
移り住んでいる。
これからは、
貿易。
国外取引、
通貨の時代だ。
先人は、
老兵は、去り行くが良い。
カールの呼吸が、わずかに深くなる。
先王は、王冠を掲げる。
先王の声が、広場に響く。
「エスオゴの名において」
我が子、カールを、
次代、
第47代、国王
カール=ザルツバーグ
改め
カール=エクサ=ザルツバーグ
とす。
王冠が、静かに下ろされる。
触れる。
その瞬間。
世界が、わずかに重くなる。
ざわめきが、一気に広がる。
歓声。拍手。叫び。
だが、カールの耳には、遠く聞こえるだけだった。
ただ一つ。
重さだけが、残る。
「……」
カールは、ゆっくりと顔を上げる。
王として。
初めて、民を見る。
その時だった。
群衆の中から、一歩、前に出る影。
ソフィア。
白い衣。風に揺れる髪。
その目は、まっすぐにカールを見ている。
カールの表情が、ほんの少しだけ緩む。
ソフィアは階段を上がる。
止める者はいない。
カールの前に立つ。
少しだけ、笑う。
「……似合ってる」
カールは、肩をすくめる。
「重いな」
「そうでしょうね」
一拍。
ソフィアは、手に持っていたものを見せる。
銀の輪。
細く、美しい。だが、その中心には、淡く光る宝石。
「これ、ネックレスだったんだけど」
カールは眉をひそめる。
「首につけるのは、なんか違うな」
ソフィアは、小さく笑う。
「でしょ」
「だから、バングルにしてもらったの」
カールは、それを見つめる。
「……なんだ、それ」
ソフィアの声が、少しだけ柔らかくなる。
「生命樹の宝石」
風が、静かに吹く。
「あなたを守るものよ」
一歩、近づく。
「絶対に離さないで」
カールは目を上げる。
ソフィアは、まっすぐに言う。
「……絶対に無くさないで」
沈黙。
カールは、少しだけ息を吐く。
「そんなに大事か?」
ソフィアは、迷わない。
「ええ」
一拍。
そして、静かに。
「それ、私だから」
空気が止まる。
カールの手が、わずかに動く。
ソフィアは、その腕を取り、バングルをはめる。
触れる。
その瞬間。
ほんのわずかに、フォースが揺れる。
だが、優しい。
カールは、その感覚を感じる。
「……あったかいな」
ソフィアは、何も言わない。
ただ、少しだけ微笑む。
アラゴー
「やれやれ、ここまで来る、道のりは、長かったな」
下では、歓声が続いている。
世界は、祝っている。
だが。
カールの中で、何かが静かに始まっていた。
責任。
愛。
そして――
まだ見ぬ世界。
遠く。
誰かが見ている気配がした。
カールは、ほんの一瞬だけ、空を見た。
だが、すぐに視線を戻す。
今は、まだ知らない。
このバングルが、何を意味するのかを。
その夜、寝室で、腕につけたバングルを見る、カール。
王衣は脱ぎ、簡素な服に戻っている。だが、腕にはまだ――
生命樹のバングル。
光が弱いせいか、宝石は淡く、内側から呼吸するように揺れている。
カールは、ゆっくりと指で触れる。
深層視野で、目まぐるしく、思考が回転する。
ソフィアの脳波。
代わりに、思考が走る。
速い。
異常なほどに速い。
「……なんだ、これ」
頭の奥で、いくつもの線が繋がる。
都市の構造。通貨の流れ。人の動き。農作物の収穫量。未来の分岐。
すべてが、同時に見える。
確かに、ソフィアがここにいる。
ノエールに旅立つことを、まだソフィアに告げてなかった。
キャスト
国王 アルフレド=エクサ=アリエル
人間 カール=ザルツバーグ(カール=エクサ=ザルツバーグ)
エルフ ソフィア=ゴールドバーグ
ドワーフ アラゴー=マブ=ライルデン(アラゴー=ルイス)




