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安寧と繁栄

安寧と繁栄



第1話:子どもって、どうやって作るの?

 

カールは、朝からずっと考え込んでいた。食堂のテーブルには冷めたスープ、積み上がった設計図、そして…一枚の紙切れ。「理想の家族計画」と大きく書かれている。

「アラゴー…そろそろ、子どもが欲しいと思ってるんだ」

カールは、老剣士アラゴーに向かって切り出した。アラゴーは、カップを片手に、ゆっくりとまばたきをした。

「…ほう。それは、また急じゃのう」

「やっぱり、家も建てたし…冒険も落ち着いてきたし…」

「で、何が問題なんじゃ?」

カールは小さく咳払いをして、目をそらした。

「どうやって子どもって、作るんだっけ?」

アラゴーはコーヒーを吹き出した。

「……お前、マジで言ってるのか?」

 

* * *

 

午後。アラゴーはなぜか木の枝と丸い実を持って戻ってきた。

「この木がな、実をつけるにはまず根を張って――」

「アラゴー、それ、植物の話じゃない?」

「…違うか。まあ、わしも昔のことすぎてのう。ソフィアに聞いたほうが…いや、それもややこしいか」

「ソフィアとは、もう何年も一緒に冒険してきたけど…ちゃんと、気持ちを伝えたことって、なかったな…」

「じゃあまずは、家じゃな。拠点があるってのは、大事なことじゃ」

カールはこくんと頷き、設計図の束を手にした。

「そうだね。まずは、未来のための家を作らなくちゃ」

 

* * *

 

ノエールの技術局。建築AI“アルチザン3.0”が、カールの依頼を前に起動していた。

『おかえりなさい、冒険者カール様。今回はどういった邸宅をご所望ですか?』

「普通の家でいいんだ。子どもがいて、静かに暮らせるような」

『了解。選択肢を提示します。①天空浮遊城、②可変型地下要塞、③全自動迷宮式スライドハウス』

「おい!」

『ノーマル仕様は高度な難題です。該当サンプルがありません』

「人類はどこに向かってるんだよ…」

アルチザンの目のようなランプが、静かにチカチカと明滅した。

 

* * *

 

カールは、魔術師ギルドに出向き、土地選定の助言を求めた。

「建てるなら、どこがいいと思いますか?」

ギルドの老魔導師は、ぱちぱちと水晶球を撫で回しながら答えた。

「“ミシェルスミス”じゃな。水脈も近く、霊的干渉も少ない。しかも地価が安い」

「なんでそんなに詳しいの…?」

「わし、不動産の副業しとるからのう」

 

* * *

 

数日後。カールは自宅建設の準備を進めていた。

「まずは浄化槽だな。設計図ではこのあたりに…」

と、そこにやってきたソフィアが、何気なく言った。

「バクテリア、入れておいたわよ」

「えっ?どこに!?」

「昨日の夜、あなたが寝てる間に」

「なにそれ怖い!!」

ソフィアは笑いながら、木陰に戻っていった。その背中を、カールは少し困ったように、それでも幸せそうに見つめていた。

「……この人と、家族になれるかな」

 

そう思ったその瞬間、隣の部屋からまた声が聞こえた。

アラゴー「おーい! バクテリアはワシの酒に入れとらんじゃろうな!?」

 

カールの“安寧と繁栄計画”は、まだまだ始まったばかりだった。

――続く。


第2話:プロポーズ大作戦 in ミシュトラン

 

カールの心は、すでに決まっていた。家は建った。浄化槽も無事に機能している(多分)。あとは、彼女の隣に立つ覚悟を決めるだけだ。

「指輪…これでいいかな……いや、ソフィアの指はもっと…」

ミシェルスミスの町は、冬の香りが漂っていた。商店街の宝飾店で、カールはガラス越しに小さな箱をじっと見つめていた。中には、金と緑の石が埋め込まれた、シンプルな婚約指輪。エルフの伝統と、人間の誓い――その両方を象徴する品だった。

「……あの子、戦闘用グローブのせいで指太くなってないよな……?」

 

* * *

 

「ソフィア。ちょっと、旅に出ようか」

「どこへ?」

「ミシュトラン。温泉街のある、あの…なんというか……ロマンチックなところだよ」

ソフィアは少し首を傾げた。「温泉?カールが?風邪でも引いた?」

「いや、そういうんじゃなくて! その……たまにはゆっくりしたいというか……」

「ふーん。じゃあ、ホンヨにいる子はアラゴーに預けて」

「えっ!? ……子? あ、ああ、あの近所の子ね! うんうん、あの子ね!」

「カール、動揺しすぎ」

 

* * *

 

ミシュトランの夜は、まるで星屑の絨毯だった。山の谷間にある街は、灯りが反射してまるで天の川のように見える。

老舗レストラン《ル・リュミエール》の個室で、カールは緊張していた。テーブルの下で、懐に忍ばせた小さな箱を何度も握ったり、離したり。スープの味も、デザートの甘さも、まったく記憶に残らなかった。

一方のソフィアは、料理を楽しんでいた。「このトリュフの香り…うん、いいね。エルフの森に似てる」

「そ、そうだね…!」

「どうしたの? 緊張してる?」

「いや…あの、ちょっと、話があってさ……」

 

カールは、震える手でそっと箱をテーブルに出した。そして、深呼吸ひとつ。覚悟を決めた。

「ソフィア、僕の――僕の夫になってください!」

ソフィアの手が止まった。

「……夫?」

「あっ!! ち、違う!! 妻! 僕の妻になってください!! 今のは間違いで――いや、間違いではないんだけど、その――」

ソフィアは思わず笑った。初めて見る、狼狽したカールの姿に、思わず胸が熱くなった。

そっと、カールは指輪の箱を開けた。中の輝きよりも、彼の真っすぐな瞳の方が、よほど強く光っていた。

 

「カール…ありがとう」

ソフィアは指輪を見つめて、しばらく黙っていた。

「でもね、まだ、私は……」

 

カールの表情が曇る。

「……定住する気はないの。まだ、冒険を続けるつもり」

その言葉は優しかったが、拒絶であることに変わりはなかった。

 

* * *

 

レストランの帰り道。カールは、イルミネーションが揺れる街を、ただ無言で歩いていた。

背後から、アラゴーの声が聞こえた。

「ありゃ、フラれちゃったな!」

「……聞いてたのかよ」

「そりゃな。あんな緊張してる姿、見逃せるかっての」

カールは笑った。情けなく、そして少しだけ誇らしく。

「でも、言えたよ。ちゃんと気持ちを」

「それだけで十分じゃよ。女心は風より複雑じゃからな」

アラゴーは空を見上げて言った。

 

「お前の家が完成したら、ソフィアもふらっと帰ってくるかもしれんぞ」

「帰ってくる……か」

「そんときゃ新聞を読んどけ。ゴードーの記事でもチェックしてな」

 

カールは、空を見上げる。

星の輝きは、まるで未来からの光のようだった。

 


第3話:建築ラッシュ!ミシェルスミス大改造計画

 

朝の光が、ミシェルスミスの街を優しく照らしていた。レンガの壁、窓に吊るされた花かご、通学中の子どもたちの笑い声――どこか懐かしい、けれど確かに「新しい暮らし」が根付いていく音がした。

 

カールの家は、その一角にあった。鉄骨構造の、シンプルながら頑丈な二階建て。白いパネルと青い屋根。庭には、エルフの森から取り寄せた草木が揺れている。

 

「おーい、カール! 配管図、逆さまだぞ!」

「えっ!? うわ、本当だ! アラゴー、なんでもっと早く言ってよ!」

「わしも老眼じゃて!」

庭で水道管の点検をしていたカールは、土だらけになりながらも笑っていた。彼の顔には、これまでの冒険では見せなかった、穏やかな表情が浮かんでいた。

 

そんな彼を、隣人たちは面白がっていた。

「おい見たか、あの冒険者王子。くわ持ってたぞ!」

「まさか地元の土で野菜育てる気か?」

「近所に住んでるってだけで、子どもが憧れちゃってさ…サインもらえないかな」

 

ミシェルスミスでは、数十年ぶりに「人が帰ってきた」と言われていた。かつて王都の裏町と呼ばれ、空き地と廃屋ばかりだったこの地区に、国王の帰還とともに、再開発と住宅助成が進み――今、ちょうど「建築ラッシュ」の真っ只中だった。

 

「この通りの角に公園を作るんですって」

「週末にはバザールもあるって話よ」

「パン屋がもう2軒もできたわ。競争ねぇ」

 

そんな中、カールの家もご多分に漏れず、近隣住民の注目の的となっていた。

「ねえ、あなた。カールって、王子なんでしょ?」

「うん。でも最近は“ただの青年建築士”って顔してるな」

「……かっこいいじゃない」

 

カールは、あくまで“普通の暮らし”にこだわっていた。

「全自動バリア? いらないいらない。鍵で開けるドアがいい」

「魔法冷蔵庫? ごめん、電気式のにして。停電の方がまだ現実的だから」

「風呂は、薪で沸かしたい」

 

そういう一つひとつの選択が、住民の共感を呼び、街に「暮らしの空気」を取り戻していった。

 

そして、ついに公園が完成する日がやって来た。

市民全員で芝を張り、ベンチを置き、花壇を作る――という、手作りの行事だ。

「カール、あんたリーダーやってよ!」

「えっ!? えっ!? オレ!?」

「王子なんでしょ? だったら、土の王子になりなさいな!」

「なんだその二つ名は!?」

 

アラゴーはその様子を、後ろでニヤニヤ見ていた。

「フラれたとは思えんほど、地域に溶け込んどるのう」

「聞こえてんぞアラゴー!!」

 

 

* * *

 

夕暮れ。

花壇の横に座るカールのもとに、1通の手紙が届いた。

差出人は――ソフィア。

《あなたの家、新聞で見たわ。とても素敵。今はまだ行けないけど、きっと、帰る場所があるって素晴らしいことね。冒険はまだ続くけど、いつか、笑って帰れる日を夢見て。》

手紙には、最後にそっとこう添えられていた。

「カールへ。おかえりなさい。」

 

カールは、夕焼けの空を見上げた。

「……ああ。おかえりって、言われたんだな」

胸の奥が、じんわりと温かくなる。

土にまみれた手を、そっとその胸に当てながら、カールは小さく呟いた。

「――ただいま」

 



第4話:若気のカール


自分の美しさを知らない、ソフィア。

無垢の美しさがある。

男性と話している、ソフィア。

身をこわばらせる。

カール「ダメだ、その人について行っちゃ」

ソフィア「?」

振り向くソフィア。

ソフィア「カール?」

ソフィア「それじゃ、今日は、これで」



ゴードーの、軍人研修会に参加できるカール。

カールにとっては、驚きの連続だった。

中でも、女性が助けろと言ったら助けるだぞと教えられる、カール。

カール「なるほど、助けろと言ったら、助けるんだな」



2)


再び、男性と話しているソフィア。

あまり、楽しそうではない。

話していると、身を強張らせる。

振り向くソフィア。

そこには、固唾を飲んでみているカールがいる。

カールと目が合う、ソフィア。

カール「…」

カールは真剣な表情で、身を震わせている。


ソフィア「?」

『今度は、何も言わないのね』


ソフィア「それじゃ‥」

「行きましょう」

カール心の声「ダメだ、その人について行っちゃ‥」

二人が去るのを、見送るカール。





イライラしながら、待っているカール。

「遅い、遅すぎるぞ」

ソフィアが帰ってくる。

カール「よかった、ソフィア」

無言で、通り過ぎるソフィア。

カール「?!」

「‥ソフィア‥」



バルトロメの上官。軍友でもある。

ゴードー軍人会。

「なに?。妃が連れて行かれただと?」

「いらんことを、言ってしまっただろうか‥」




第5話:嘘と別れ

 

春の風が吹いていた。ミシュトランの旧市街、夕暮れのカフェテラス。テーブル越しに並ぶグラスの影が、橙色の光に揺れていた。

 

カールは、最後の決意を込めたように、手の中の小さな箱を開いた。

「結婚してくれ、ソフィア!」

差し出したのは、慎ましくも彼のすべてを注いだ婚約指輪。だがその瞬間、ソフィアの表情がふと曇る。彼女はそっとその手を包みながら、静かに言った。

 

「カール、私……遺伝ベビーがいるの」

 

風が止まったように、世界が静かになった。カールは一瞬、言葉の意味を理解できず、まばたきを繰り返した。

「えっ? 遺伝ベビー……?」

「結婚してたのか?」「いいえ」

ソフィアの瞳には、涙も、笑顔もなかった。ただ、真実を告げる覚悟だけが宿っていた。

「詳しくは……まだ言えないの。でも、あなたにはきっとまだ、わからないわ」

 

「子どもがいても、俺はいい。ソフィア、結婚しよう」

絞り出すように告げるカール。しかし、ソフィアは首を振った。

「ごめんなさい。別れましょう」

「なぜ……?」

 

カールの声は震えていた。その問いには答えず、ソフィアはポツリと言葉を落とす。

「でも、嫌いじゃないのよ。あなたのこと……本当に」

「だったら、なぜ……」

 

「もう会えないの」その言葉は、死刑宣告のように重く響いた。

 

沈黙のあと、ソフィアは最後に微笑みながら言った。

「カール。私の、肖像画を描いて」

「肖像画……?」

「今だけでいい。思い出にしたいの。これが、最後になるから」

 

 

* * *

 

カールはチョークを手に取り、白紙のボードの前に座った。ソフィアは静かに椅子に腰を下ろし、何も言わず彼を見つめた。

時間は、永遠にも思えるほど静かに流れた。

彼の指先が震えながら線を引き、目を描き、髪を塗っていく。彼女の横顔をなぞるように、想いを込めて描いた。

「このまま、時が止まってくれたら……」

 

やがて、絵が完成した。

カールは紙を掲げて、ソフィアに見せる。

そこにあったのは――

絵心のなさを如実に示す、まるで子どものような落書きだった。

ソフィアは吹き出しそうになりながらも、それを丁寧に折りたたみ、バッグにしまった。

「ありがとう。すごく大切にするわ」

 

そのとき、遠くから人影が歩いてくる。スーツを着た男――その隣に立つソフィア。

カールは一歩も動けず、ただ見送るしかなかった。

ソフィアは振り返らずに、彼の前を去っていった。

 

 

* * *

 

夜のカフェ。カールはただそこに座り続けていた。空になったグラス。冷めた空気。

やがて背後から、重たいブーツの足音が近づいた。

 

「振られたな」アラゴーだった。

カールは頷いた。

「……なぜ振られたか、わかるか、カール?」

「……わからない」カールは、唇を噛みしめながら言った。

「でも……心は、結びついていると思いたい」「そう考えたいんだ……」

 

アラゴーは静かに、彼の背に手を置いた。

「信じろ。今は、それでいい」

 

 

* * *

 

その頃、ソフィアはホンヨの小さな宿にいた。窓の外には、戦火を孕む雲が低く垂れ込めている。

膝の上には、小さな子ども。

まだ言葉も話せない、その幼い命は、どこかカールによく似ていた。

 

「あなたには、きっと安全な場所を……」

彼女は子どもを抱きしめながら、決意を込めて呟いた。



第6話:ソフィアの冒険日記

旅の始まりと、小さな秘密

 

風の吹く朝だった。ホンヨの町はまだ眠っており、石畳を洗う朝霧が白く煙っている。

ソフィアは、早朝の市場通りを抜け、荷馬車の陰に身を寄せていた。背中には小さなリュック、その中には魔導書と数枚の旅券、そして――

「しーっ、起こしちゃだめよ」

彼女は優しく布をめくる。そこには、小さな命。まだ乳飲み子の、その子が眠っていた。

「お父さんに……よく似てるのよ」

ソフィアは笑った。その笑顔には、誇りと、寂しさと、決意が入り混じっていた。

 

 

町を離れる前、彼女は最後の挨拶のために、レジナ=ザエスナー修道院を訪れた。

「あなた、本当に一人で行くの?」修道女が尋ねる。

「ええ」ソフィアは頷く。「子どもと一緒に」

「……あなたが誰と何をしたかは、訊かないわ。でもね、戦火が近い。ラサの方角から、きな臭い話が流れてる」

ソフィアは静かに目を閉じた。「だからこそ、行くの。情報を確かめるために。人々のために。……彼のためにも」

「彼って?」

「……ふふ、バカな人よ」

 

 

冒険者ギルドの掲示板には、今日も依頼が貼られていた。「砂漠の都市・リタルで疫病発生。調査員求む」「水道調査依頼。報酬300G」「西の森に出る『石化する蝶』の駆除」

 

ソフィアは少し悩んでから、一枚を選び取る。それは、「地下古代図書館の地図作成と記録」の依頼だった。

「子どもと行ける範囲にしましょうか」

 

その日のうちに、彼女は旅装を整え、小さなカゴの中に我が子を入れて、再び、冒険者としての旅に出た。

道中、ソフィアは日記をつけるようになった。


《ソフィア冒険日記・その1》ホンヨ → リタルの道中にて子どもは元気。今日はとうもろこし粥。リュックが重い。おむつが嵩張る。ギルドの依頼主が、何か裏があるような顔をしていた。要注意。カールには……いつか、この子を紹介したい。でも、まだその時じゃない。


旅の空は果てしなく続いていた。だが、彼女の背にある小さな命が、ソフィアを強くした。

ソフィアは、母であり、冒険者であり――

王女でもある。

 



 


 

 

 

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