第98話 斧はやっぱり・・・ねえ?
「ふっ!」
「シッ!」
事務所のビルの地下にある防音鍛錬室。そこで全集中状態で目の前の武人と打ち合う。ちなみに巴さんでもスカアハさんでもない。段蔵さんでもない彼は・・・っとぉ?!
「大将、油断はいけねえなあ!」
「そりゃ、どうも!」
黒の範囲から離れるとそこにとんでもない速さの横薙ぎが通過する。
「うへえ・・・金太郎の伝承は伊達じゃないなあ」
坂田金時、源頼光四天王の誉れ名高い怪力無双。そして、おとぎ話の金太郎の元になりし武将、坂田金時その人である。勿論だが2年の間に仲間となったテイムモンスターである。
「事前に攻撃場所が分かる大将の能力も相当なもんだと思うぜ。まさかフェイント範囲も含めて回避されるとはなあ」
そう、最近の訓練で分かったのだが、自分の能力は危険の範囲はフェイント等の行動も含めてと言う事が分かったのだ。良く見ると危険攻撃範囲の黒の部分に薄暗いグレーが重なる、これがフェイント範囲のようなのだ。
「しかし、やっぱり近接戦には向いてないね、この斧と言う武器」
「当たればでけえのは確かだがな。それ使うぐらいなら大太刀使う方がダメージと安全取れるんじゃね?」
今回の自分の装備は片手斧、所謂ハンドアックスと呼ばれるモノ。ダンジョンに定期的に入るようになった為か、体幹が良くなってきたので改めて検証してみたという訳である。ついでに回避の練習も行ったという訳だ。
「あれ?でも金太郎の歌でマサカリ担いだとかあるんでは?」
「大将、常識的に考えてくれ、己の体格に合うマサカリ担いで、鎧も着てとか重労働ってレベルじゃないぞ。鎧着ないとしても、体格に合うマサカリは重すぎるわ」
まあ、せやなである。ついでに言うと・・・
「とんでもなくバランス悪いしね、ハンドアックスでさえ意識しないとこけそうになるもん」
「それなあ。やっぱ太刀か剣。もしくは大将は愛用の槍が一番だと思うぜ」
ですよね。普通はそうなんだろうけど・・・だが、今問題がある。
「未成年探索者がねえ・・・」
「あぁ、打撲武器や槍とかより見栄えするもんな、男として分かる」
「実際、片手で斧が振り回せると格好いいのは認める」
頷き合う。まあね、確かに攻撃力と破壊力は高い、何より決まれば格好良いだろう、が、なあ?やっぱり・・・
「うん、リスクが高すぎる」
「だな」
まず、一撃が重い分、振り下ろしや薙ぎ払いした後の隙が大きすぎるし、何より重要なのが・・・
「まず欠点として近寄り過ぎる」
「それな」
射線を塞ぐ、味方の攻撃の追撃を躊躇させる、斧の重さの所為で攻撃後の素早いサイドステップは不可能。何より、その一撃で倒れてくれるとは限らないし、深く刺さるのが逆に仇になる事もある。じゃあ・・・
「斧槍、ハルバードとかなら大丈夫じゃないか?と思うんだろうけど・・・」
「アレなあ、振り回してみたけど、しっかり保持するには両手使うし、何より誤爆怖いだろ?」
そう、坂田さんの言う通り、誤爆が怖い。メッチャ怖い。遠心力プラス筋力プラス斧の刃で誤爆されたらたまったもんじゃない上に・・・
「重心が槍先に集中しすぎてるんだよなあ、アレ」
「ですねえ。扇風機みたいになりましたよね」
「俺でもうっかりしたらすっぽ抜けそうだったしな」
そう、重心が前に寄り過ぎており、ワンミスも許されない状況で扱うには難しすぎる武器なのである。まあ、そういう訳で。
「斧はやはり危険・・・と」
「だな」
後日、坂田金時のお墨付きが入った注意動画は未成年探索者の意識を大きく変えたのは言うまでない。マサカリ担いだ金太郎さんからの注意は強い。なお、報告後から探索者学園からちょいちょい、金時さんに臨時講師の依頼が入るようになったのは少し予想外だったわ。
モンスターとの戦いでは斧はやっぱり危険と言うお話




