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聖女、メスを執る~転生した外科医が挑むのは、治癒魔法が効かない病でした~   作者: 西園寺沙夜


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送別会、そして……不穏

「それでは、セイン先生、ユーリさん、レンジ先生、ジークさん、フィーさんの旅立ちを祝ってーーー乾杯!」


「「「乾杯!」」」


ポールさんの音頭で、その場にいた全員がジョッキを頭上に高々と掲げた。


ここは『憩いの木馬亭』。


嬉しいことに村の人達全員が私達の出発を見送るために集まってくれたのだった。


ただ、店内だけだと村人全員が入ることはできないため、店長のご厚意で店の外にも椅子やテーブルを置いてくれたのだった。


外の明かりについては、光属性魔法を封じ込めた封魔石、光の封魔石(要するにただ光るだけの封魔石なんだけど)をいくつも紐に括り付けて光源としたのだ。


まさに、即席のビアガーデンである。


上を見上げれば満天の星空で、明日もきっといい天気だろう。


旅立ちが雨じゃなくて本当に良かった。


「こんなに盛大に送別会をしてもらえるとは、随分慕われているのだな。セイン殿達は」


「カーラさん!」


ルーベルト辺境伯令嬢カーラさんだ。


明日からの王都への旅路の付き添いのため前日入りしてくれていたのだ。


彼女の護衛団も一緒だというので、こんなに心強いことはない。


「今回の王都への移住、何から何までお世話になってしまって、本当にありがとうございます」


セインが丁寧にお辞儀し、私もそれに倣って頭を下げた。


カーラさんには王都に到着した後の生活の面倒も見てくれることになっていて、本当に感謝しかない。


「気にしなくていい。世話になったのはむしろ我々の方なのだから」


カーラさんはそこで声を顰めた。


「兄上はまるで黒死病に苦しめられていたのが嘘のように政務も騎士団長としての務めも精力的に果たすことができ、しかも奥方様にも全く露見されることなく、全て対処することができた。少し前の私達にとっては奇跡と言ってもいいくらいだ。セイン殿とユーリさんにその恩に報いるためなら、このくらいどうということはない」


そこまで言われてしまうと、もちろん嬉しいのだけど何となくこそばゆく感じる。


ともかく、私達がお屋敷を去った後もルシアン様の経過が問題ないようで安心した。


「兄上も見送りに行きたいと言っていたのだが、そこまで大袈裟にしてしまうとこの村の住人が萎縮してしまい、碌に別れを伝えることもできないだろうと思って、私からご遠慮願ったのだ」


カーラさんが周囲を見渡した。


レンジ君と仲良く果実水を飲むティム君。


楽しそうに話しているけど、ふとした瞬間浮かべる表情はどこか寂しそうだ。


マリーさん達『憩いの木馬亭』の女性陣やダンカンさん達と賑やかに酒を酌み交わすジークとフィーちゃん。


その側には、『風車の家』のブルームさん一家もいる。


ジークが大嵐の中、川を泳ぎ回って助け出したブルームさんの娘、リタちゃんもジークに何かを懸命に話しかけ、それに気がついたジークは、目元を緩ませて答えている。


「確かに。みんな緊張しちゃって和やかに別れを惜しむのは難しいでしょうね。あ、もちろんルシアン様が邪魔だって訳ではないですよ!」


言い訳がましくなってしまったが、カーラさんは分かっていると言わんばかりに頷く。


ちなみに、カーラさんのことを辺境伯令嬢だということを知っているのは護衛団以外は私達と村長のポールさんだけだから、この送別会で遠慮なくジョッキを空けることができるという訳だ。


そこへ、


「カーラ殿、この度は誠にありがとうございます」


挨拶に赴いてきたのはレンジ君だ。


カーラさんは自分のジョッキをレンジ君のに軽く当て、


「むしろ感謝しなければならないのは私達の方だ、レンジ殿。封魔剣をあれほど大量に製作して下さったのだから。貴殿のお陰で、国境地帯の防衛をさらに万全なものにできた」


剣に属性魔法を込めた封魔石を埋め込み、刀身に魔法を纏わせて武器の威力を上げる。


それが封魔剣だ。


ルーベルト騎士団の兵士や騎士達は全員魔力操作で身体能力を底上げすることはできるが、ルシアン様やグラハム様のような雷魔法を使える者はいない。


しかも、現在混迷中のガルナン首長国からまた凶悪な魔物達が国境地帯に侵攻する可能性もゼロではない。


そこで、レンジ君は辺境伯邸での滞在中、封魔石を剣の柄の部分に埋め込んだ特製武器、その名も封魔剣を、何と騎士団全員にオーダーメイドで作ったのだ。


ガルナン首長国では一介の兵士であっても普通に持っているらしいが、他国では非常に貴重な物らしく、我が人間の国エヴァミュエル王国では騎士団長クラスしか帯刀できないらしい。


だがしかし!


レンジ君という錬成魔法のエキスパートであれば、あっという間に剣を鍛錬することも、火の封魔石を作成することもできるのだ。


しかも今回は、ジークという風属性魔法のエキスパートの協力も仰ぐことで、刀身に風を纏わせることで斬撃を飛ばすという中距離攻撃まで繰り出すことができる封魔剣の開発まで行い、騎士団員全員の魔力や体格、火属性と風属性、どちらが使いやすいかまで確認した上で、レンジ君は一つ一つ丁寧に作り上げたのだ。


それにしても、ゴブリンの死体の後始末をこなしながら100本以上の剣を鍛錬するなんて、レンジ君、シゴデキである。


「祖国の不始末を貴殿達に押し付けたような真似をしたのですから、あれくらいは当然です。僕としてはできるだけ後顧の憂いがないように王都に向かいたいと思ったまでです」


淡々と答えるが、心の底ではきっと祖国のことを今でも気にしているんだろう。


それでも私達と一緒に来てくれるのだから本当にありがたい。


カーラさんは微笑み、


「兄上も言っていたようにあなたも私達の恩人だが、それ以上にこの国の一員だ。あなた一人がそこまで責任を負う必要はない」


と答えると、


「……ありがとうございます」


ポツリとそっぽを向いた。


ぶっきらぼうだけど、頬がほんのり赤くなっていたところを私は見逃さなかった。


「よう、久しぶりじゃねえか!明日からよろしくな!」


ジークがフィーちゃんを連れて私達の方に近づいてきた。


「こちらこそ。貴方方と一緒であれば、王都までの旅路もこれほど心強いことはないな」


お互いにジョッキを当てていた。


「フィーちゃん……大丈夫?」


ジークの顔色は全然変わっていない。


だけど、フィーちゃんの頬や長い耳はほんのりとピンク色に色づき、桜色の瞳も輪郭が少し溶けている。


「大丈夫ですわ!ちょっと、ふわふわしていますけど……全然、酔ってませんわ!」


(酔っ払いが『酔ってない』って言うの、鉄板だよね)


そんなにフラフラ覚束ない様子じゃ説得力がない。


「お水もらってきますね」


アルコールを1滴も摂取していないセインがカウンターの方に向かった。


「フィーがここまで酔った姿を見たのは初めてだな」


ちなみにレンジ君のジョッキの中身は果実水だ。


明日出発するからという理由もあるのだろうけど、一番はティム君のためだろう。


なにせ、レンジ君がこの村に移住したその夜の歓迎会で、レンジ君と同じものを飲みたいと駄々をこねたくらいなのだ。


それがあってから、レンジ君は『憩いの木馬亭』ではソフトドリンクオンリーと決めている。


「女共から酒を勧められまくってよ。これ以上飲ませないようにこっちに連れてきた」


なるほど、要はフィーちゃんと一緒に避難してきたわけだ。


「どうした、フィー?」


レンジ君をジッと見つめるフィーちゃん。


いや、もっとよく見るとレンジ君の右手、果実水が入ったジョッキだ。


レンジ君もそれに気づいたようで、


「果実水だ。飲むか?おかわりをもらったばかりで、ほとんど口をつけてないぞ?」


と差し出すと、色づいた頬がさらに上気し、


「い、頂きます……!」


慌てて両手を伸ばし、緊張したようにジョッキに口をつける。


ーーーコクッ


慎ましやかな白い喉がゆっくり上下した。


ジョッキを両手で大事に抱えたかと思うと、


「かっ……」


「気分悪いのか、フィー?!」


「吐きそう?トイレ行こうか?!」


ジークと一緒に心配そうに覗こむ……が、


「レンジさんとっ……間接キスしてしまいましたわ!」


すぐに杞憂だと分かり、しかもジークは一瞬で固まってしまった。


「な……なっ?!」


すっかり有頂天になっているフィーちゃんと、予想外の発言に動揺して言葉を失くすレンジ君。


「レンジ……てめえ……!」


復活したシスコンエルフはギロリと鋭く睨みつけてくる。


そのお相手は……言うまでもない。


「おい、誤解だジーク!別に僕は疾しい気持ちがあったわけではなく、ただ酔い冷ましにと思ってッ


「うるせえッこのムッツリ野郎が!あわよくば今度はてめえがフィーと間接……ダアァッ!」


「ちょッ落ち着いて、ジーク!」


「……私が水を貰いに行っている間、何が起こったんですか?」


セインが呆気に取られているけど、ジークがレンジ君に掴み掛かろうとするのを止めるのに必死だ。


フィーちゃんはフィーちゃんでウットリ夢見心地だし!


そんな私達をカーラさんを始め、村の人たちみんなで驚きながらも楽しそうにジークを宥めていた。




ーーーこの村で過ごす最後の夜は、とても賑やかで、一抹の寂しさがありつつも、みんな笑顔を浮かべていた。


ーーー私は一生この光景を忘れないだろう。


これが……村が平和だった時の最後の光景となったのだから。

読んで下さり、ありがとうございます!

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