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異郷異形異常譚  作者: とりあたま
第二章 竜の母娘
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第二十八話 喪失

※※※※ ご注意 ※※※※

少々刺激の強いシーンがあります。

苦手な方はご注意ください。

「ふぎゃっ!?」


 光をモロに浴びて一瞬目が眩み、身体が泳いで前のめりに倒れ込む。


「何……今の…………」


 両手で顔を覆って俯いていたトリーシャの気を引いたのが光か俺の声かは分からないが、何処かぼんやりした声で呟くと顔を上げて辺りを見回している。そして未だ紫色の光を帯びたままそこに佇んでいる金属槍を視界に入れた途端、寝ぼけたような真紅の瞳が大きく見開き、茫洋としていた表情が一瞬で驚愕に強張った。


「敵よ、早く構えて!」


 立ち上がると同時に腰の険を抜き放つ身のこなしはさすがと言う他無い。でも、なんだろう……何かが足りない。

 俺も慌てて立ち上がる……が、なんか違和感が。なんか足元がチクチクするっていうか、肌が敏感っていうか。グラススタッフもこんなに重かったか?


「ぐずぐずしない! って……貴女、誰……?」

「は? 何言ってんだ?」

「もしかして、レン!? で、でもその姿……」

「姿?」

「と、とにかく自分で確認しなさい!」


 草むらから出てきた俺を見るや否や、トリーシャは目を丸くして訳の分からん事を聞いてくる。

 俺としても違和感が気にはなるので確認してみよう……なんで前傾姿勢じゃなくて直立しているのか。

 ていうか視界を遮る胸元の物体は何だ? 触ってみるとぷにぷに柔らかく、何かが詰まったように結構ずっしり重みがある。そして触られる感覚と、下から持ち上げた時に肩が何気に楽になる感覚……まさか、こいつは……ッ!?

 上着の襟元を広げて覗き込むと、そこには存在感のある真っ白な半球体がふたつ並んでいる。ソフトボール大の見事なサイズだ。

 そして見える範囲にこの一年弱で目に馴染んだ緋色の羽毛は見当たらない。襟元を広げる手もほっそりした指と小さな掌、甲にも腕にも羽毛は無く柔らかそうな真っ白な肌しかない。足元がチクチクするのはヒトよりも二回りほども大きくて硬い足の皮膚と羽毛がなくなってしまったからだ。

 脚と同様に硬さがなくなり一回りは小さくて短くなった手と指で顔を触る……あの大きな顎は無く、羽毛も無ければ髭も無い、つるつるすべすべの柔肌の感触。目、鼻、口、眉、髪と触れるものは間違いなくヒトのそれだが、耳の先が少々尖っているような気がする。

 髪をひと房掴んで見ると色はある意味目に馴染んだ、燃えるような緋色。それがなんと腰辺りまで伸びている、軽く頭を振ってみると中々の重量感を覚えた。

 ここまで確認すれば、こうなった理由は分からずとも自分の状態は把握できる。しかし、それでも確認しないわけにはいかない。ゴクリ、と生唾を飲み下し、視界を遮る胸部の更に下へと手を伸ばし、意を決して服の上からそこを押さえてみる。



 ……………………嗚呼、我が息子は初陣を飾ることなく逝ってしまったか。



 性別がメスと判明した時点で覚悟、というより半ば諦めてはいたけど、こうして現実を直視すると……うん、やっぱりショックだ。なんていうか、俺という存在を構成する中でも大きなものを失ったような喪失感というか、虚脱感が半端ない。

 がっくりと両手を地に突く勢いで相棒の逝去を悼むが、角やら獣耳といった奇抜な付属品は無いのは不幸中の幸いと言うべきだろう。耳が多少尖っているのは誤魔化しが利くレベルだろうし、日本では前衛的過ぎる真っ赤な髪も染めてしまえばいい。

 なんか知らんが達成困難と思われた大目標の一つがこんな所で達成されてしまったので、後は日本へ帰る方法を探すだけ、とか考えていると足元からがさがさと枯れ草を倒す音が聞こえる。ただ下を向いても胸部装甲が邪魔をして見えないので後ろの方へ振り向いて見てみると、朱い羽が生え揃う太く見慣れた尻尾が枯れ草を撫でるように揺れている…………おい。


「なんだこれは、ふざけんな! クーリングオフだ! やり直しを要求するッ!」

「何を訳の分からないことを言っているの?」


 ついカッとなって誰ともなしに捲くし立てた声は、なんだか今までにも増して高くか細くなった気がする。

 こうなった理由は分からんが、原因ははっきりしている。あの金属槍だ。何の術式かは分からないが、紫色のマナを帯びたままなのを見れば法術は継続しているのが分かる。

 何が起こったかはともかく、すぐさまここを離れるべきではないだろうか。

 そう提案しようとしてふと、自分の状態に意識が向く。何故だかヒトの姿になってしまったため、今まで持ち歩いていた荷物がその場に落ちてしまっているのだ。分担して持てない事は無いだろうが、トカゲの健脚と比べればワンピース状態になってしまった服に膝下まですっぽり覆われた細い足は見るからに頼りない。

 などと少々空回り気味の頭で思考を回転させつつも落ちた荷物に手を伸ばそうとしたその時、周囲から足音や金具がなる音が近付いてくるのを聞き取る。

 野盗か? とすればコレを放ってきたのもこいつらか。

 だが結界装置は作動している。取り囲んだとしても容易には近付けないし、装置には救援信号を発信する機能も備わっている。何よりそんじょそこらの野盗風情に、俺はともかくトリーシャが遅れを取る筈がない。

 警戒はしても余裕はあった。少なくとも危機感という意味では先程の恐竜には全く及ばないレベルだった。

 しかし姿を現した男たちが認識阻害がされている筈のこちらをはっきり見据えて歩いてくるのに違和感を覚える。

 過去に自分で試してみた時はそこに人が居ると知っていても、誰かが居るとは思えなくなってしまう不可思議な感覚を味わった。

 そして彼らが結界の範囲を悠々と踏み越えてしまったことで違和感は確信に、警戒感は危機感を急激に押し上げる。ハッとなって装置を見れば金色(マナ)の光が消えてしまい、いくら流し込んでもうんともすんとも言わなくなってしまっていた。

 まさか、と思い手に持った杖にマナを流し込むが、刻み込まれた呪紋の半ばまでが輝きそれ以上は行き渡らない。まるでマナの結合が分解されて拡散しているような、今まで見た事もない現象を目の当たりにして言葉を失う。

 トリーシャが握る剣を見ても常ならば爛々と湛えている筈の赤光が鍔辺りから火の粉のように拡散し、先程感じた違和感の正体に思い至る。

 この現象を齎している原因は、ここまで来れば考えるまでもない。


「トリーシャ、金属槍(アレ)を叩き折れ!」


 俺の言葉が早いか否か、踏み込み一つでそれの手前まで飛び込んだトリーシャは銀光を横薙ぎに閃かせて刃を叩き込む。金属同士が打ち合う激しい音が辺りに響き渡り、ただ土に刺さっただけの金属槍は傾いで倒れた。

 しかし紫色の光は未だ消えず、表面に傷らしい傷は見当たらない。

 代わりに剣を振るったトリーシャは手首を押さえるような仕草を見せ、綺麗に整った顔を苦々しく顰めている。

 どうやら常に展開していた強化の術式も働いていないようだ。

 戻ってきたトリーシャと背中を合わせ、じりじりと包囲を狭めてくる男たちを睨みつける。

 男たちの顔は様々だ。こちらの挙動を油断なく見据えて厳しい表情を崩さない者、対して顔や胸、腰や足を目で舐るように見回してニタニタ下卑た表情を浮かべる者、しかし一様に片手に握った大振りな山刀を向けて等間隔で詰め寄ってくるのは変わらない。


「武器を捨てろ。大人しくしていれば命は奪わん」


 男の一人が恫喝するように低く重い声を発する。


「お断りよ。命以外は全て奪うのでしょう?」


 両手でグラススタッフをしっかり握り、腰を落として土を踏み締める。足の裏に小石の角が当たってチクチク痛いのが地味に集中力を削いでくれやがる……。


「荷物は諦めて逃げるしかないな、一画を突き崩してそこから押し通る」

「一点突破ね。遅れずについて来なさいよ」


 小さな声で囁き合うと、いつも通りの強気な台詞で勝気に微笑む。つい先程まで顔を青褪めさせていたというのに。

 幸い、竜人郷まではあと一日の距離だ。ここを切り抜ければまだ展望は描ける。

 取り囲んでいる男たちは十人程度だが、その方向へ通じる道に立ち塞がる男は三人。強引に抉じ開けれない壁じゃない


「命あっての物種ともいうぞ……少々痛い目を見てもらおう」

「それはどちらかしら――ねっ!」


 距離を詰めた男たちの一人を目掛けてトリーシャが踏み込む。

 ほんの一瞬、瞬きをする程度の間に間合いを詰めた彼女の姿に対峙した男は驚愕の表情を浮かべる(いとま)さえない。それでも前に突き出していた山刀を咄嗟に振り下ろしたのは身体に染み付いた鍛錬の賜物だろうか。

 しかしそれすらも身体を僅かに引いたトリーシャを捉えられない。次の瞬間には銀光が閃きその頸を切り裂かれていた。

 鉄をも切り裂く剛剣は強化術式によるものだが、速さや身のこなしはあいつ自身の身体能力だ。

 男の絶叫と共に首から鮮血が噴水のように噴き上がった。

 それでも男は血が噴出す頸を手で抑え尚も立ち塞がる。そして彼と対峙した瞬間、既に動きはじめていた男たちが剣を振り抜いたトリーシャを取り囲むように殺到しているが、そうはいかん。


「おりゃあーーっ!」


 身体を思い切り捻り、トリーシャの背後を取ろうと位置どった男の後頭部へ勢いをつけたグラススタッフを叩き込む!

 全く警戒していなかったわけではないだろうが、遥かに危険度が高いトリーシャを取り押さえる方が先決と割り切ったのだろう。無防備なそこへ綺麗に入った一撃はまさに会心、のはずだったが手応えはイマイチ。


「あれ?」

「ぐ、おぉぉぉぉぉ……ッ!」


 おかしいな。アレだけ力を篭めてぶん殴ったら、普通は意識もぶっ飛ぶのに。

 それに手に返ってきた反動もなんか軽い、なんでだ? 力が落ちたって感じはしないんだが。


「レン、早く!」

「あ、おう!」


 考えるのは後、今はここを切り抜けるのに集中するべきだ。

 蹲った男の頭を文字通り踏み越え跳び上がり、最上段に振りかぶったグラススタッフをトリーシャに群がる男の頭へ思いっきり叩き下ろす! すぱーん、と良い音を響かせたが相変わらず手応えが軽い。


「のあッ――――っつぅぅぅぅ……」


 そして打撃を加えた男も倒れず、しかも今度は蹲りもしない。

 やっぱり威力が足らない。くそっ、ならもう一発!


「やらせるかよ!」

「あっ!?」


 再び振り上げたグラススタッフだったが、後ろから伸びた手に掴まれ振り下ろせない。それどころか強引に奪い取られてしまい、遠くへ放り捨てられ斜面を転がり落ちていく。

 なんてことすんだ!? あれ、一丁ものなのに!


「うわっ、痛ッ! 離せッ」

 

 愛用の武器を失って呆然とする間もなく横合いから襲い掛かってきた男に腕を掴まれ、捻り上げられ地面に押さえつけられた。

 逃れようとじたばた足掻くが、がっちり極められた上に男に圧し掛かられて抜け出せない。やっぱり力が弱くなっている、トカゲだった時は人一人くらい持ち上げるなんて造作もなかったのに!


「レン!」

「逃げろ!」


 何故そう叫んだのかは分からないが、口を吐いたのはその言葉だった。

 そうだ、彼女は俺の事情に付き合ってここまで来てしまったのだ。こんな窮地にまで付き合う必要はない。

 生きていれば、いつか逃げるチャンスは来る。テレーゼだって生き延びたのだ、俺にだってやってやれないことはない。

「黙れ」とドスの利いた声と共に顔の前に山刀を突き付けられ、その鈍い輝きに細い喉がきゅう、と絞められるような息苦しさを覚える。

 こちらへ視線を向けたトリーシャが息を呑んだのが分かったが、こんな様の俺にはもうどうしようもない。きっとあいつ一人なら逃げ切れる、そもそも法術が使えれば一人で逆ヒャッハー状態なのだ。



「何を馬鹿なことをッ!?」

「い、いいから早く……っ」


 引き攣ったような声も山刀の腹で軽く顔を叩かれただけで詰まって出なくなってしまった。

 肉厚で見るからに丈夫そうな刃を振り下ろされれば、痛いどころの話では済まされない。女で尻尾つきとはいえ折角ヒトの姿を取り戻したのだ、こんな所で死にたくない!

 頸から血を噴出していた男は血を流しすぎたのだろう、トリーシャの足元で倒れて痙攣している。

 しかし男たちは誰一人彼の事を気にした様子がなく、彼女を囲んで間合いを狭めていく。仲間が一人、血溜りに沈んだというのに……なんか不気味だ。この感覚、前にもあったよな。さっきの連携した動きといい、こいつら本当に野盗なのか? それとも練度のある連中でも野盗に身を窶すくらいにこの辺の情勢は悪いのか?

 それはトリーシャも肌で感じているようで容易に手が出せず、取り囲んだ男たちを忙しなく目で牽制していた。

 このままでは逃げる事も出来なくなってしまう。目の前で光る刃に言葉が詰まって出せないので、早く行けと目で訴える。

 視線が合った彼女は一瞬泣きそうな顔をしたが、じっと見詰めると意を決したように頷き、腰を落としてクルリと踵を返した。が――。


「あぐッ!?」


 ――その首筋に棒状の黒い物体がぶつかり、トリーシャは前のめりに倒れてしまった。

 黒い物体が何なのかは分からないが、取り囲んでいた男の誰かが投げつけたのは確実だ。


「トリーシャ!」


 突き付けられた刃も忘れて叫ぶと、彼女は立ち上がろうと身を起こすが殺到した男たちに呆気なく取り押さえられてしまう。

 なんて事だ……どうしてこうなった。

 剣を奪われ、両手を後出に縛り上げられたトリーシャを地に這い蹲ったまま見ているしかない無力感に頭が真っ白になっていく。


「損害1か、思ったより少なかったな」

「仲間を先に抑えたのが功を奏しましたな」

「この娘の指示通り、さっさと逃げてしまったら捕らえられたかどうか」

「ガンバンティンの効果は期待以上だったが、範囲から出てしまえばそれまでだからな」


 周りで男たちが何か会話しているが、頭にさっぱり入ってこない。

 俺のせいだ。

 俺が簡単に捕まってしまったからこんな事になったんだ。

 いや、そもそもあの槍が作動した時にすぐ気付いていればこんなことにはならなかった……。


「それにしてもこの娘、いったい何者でしょうか」

「トカゲが竜人になるなど、聞いたことがありません」

「擬態術式だと思うが……それにしては身体の大きさまで変わってしまっていたように見えたな」

「あの偏屈者どもは何かと隠し事が多いですからな」

「この娘はどうします?」

「竜人の扱いは厄介だ。下手をすればレムリアや八雲の介入を招きかねん」

「ここに捨てて行きましょう。地竜や亜人に襲われたなら、それは仕方がないことです」


 何が悪かった。

 どうしてこんなことになった。

 俺がヒトの姿を取り戻したい、と思わなければこんな所には来なかった。

 いや、竜人郷を目指すにしてももっと安全な方法があったのではないか。


「捨てるんですか?」

「どうした」

「いや、捨てるのはいいんですが、ただ捨てるのは勿体無い、と。なあ?」

「あ、そう、ですね……」

「ふん、好き者が……我々は彼女を連れて先に引き上げる。貴様らは好きにしろ」

「へへっ、ありがとうございます」


 どうしてもっと良く考えなかったのか。

 トリーシャの戦闘能力を過信し過ぎた。それを減殺する方法がある事を考えなかった。

 どうして想定しなかった。知らなかったじゃ言い訳にならない。

 複数の足音が遠ざかっていく。

 それに混じって俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、今更考えてもどうしようもない思考がぐるぐるぐるぐる回る真っ白な頭ではそれを受け止められない。

 ふと腕の拘束が緩んで痛みが和らいだ、と思ったら伏せていた身体をひっくり返されて仰向けにされた。

 取り囲み、上から覗き込むように見下ろしてくる男が四人。何れもニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべ、嘗め回すような視線を無遠慮に浴びせていた。


「へぇ、結構カワイイ顔してるじゃないか」

「仰向けでもこれだけ盛り上がってるって相当だな」

「亜人にくれてやるなんて、勿体なさ過ぎるだろ」

「でもついさっきまでトカゲだったんだぜ?」

「じゃあお前は黙ってマスでも掻いてろ」

「冗談だろ! 誰が嫌なんて言ったかよ」


 何だ? こいつら、いったい何を言っている?

 ウヒヒヒヒ、と気色の悪い声で笑う男たちの顔を見回し、状況が理解出来ずに混乱しているとそれを見てまた笑った。


「大人しくしてな。もし暴れたらコレだからな?」


 胴に馬乗りになった男が手にした山刀を見せつけ、その腹で頬を軽く叩いてくる。

 混乱と恐怖心に煽られてコクコクと頷き返したら男は気味の悪い笑みを更に深め、山刀を手前の方に移動させていく。何をするのかと思っていたら俺の襟元に手を掛け、そこに当てた刃で服を切り裂き始めた。

 こいつら、まさか俺を……?

 俺の顔に浮かんだ引き攣った表情が彼らの嗜虐心をいたく刺激したらしい。

 男たちの下品な笑い声が耳の、頭の中で反響する。

 山刀で裂かれた服の下、俺もまだはっきりと見ていない身体を品評しているが、頭の中で反響する鼓動の音があまりに煩すぎて何を言っているのか分からない。

 やがて男の手がまだ誰も触った事のない柔肌を弄り始める。

 かつて無いほどの絶望感に打ち拉がれ、悲鳴のひとつも上げられず、なされるがまま冬山の時は過ぎていく――――。







「おい、そろそろ撤収しないとヤバそうだ」

「もうそんな時間か、早いな」

「亜人にくれてやるのが本当に勿体ないぜ」

「竜人じゃなけりゃ、連れて帰って使い倒すんだがなぁ」

「諦めろよ。それに、あの姫さんも上物っぽいしな」

「ありゃあ俺たちには回って来ないだろ」

「子爵閣下の好色は有名だからな……」


 ……おとこたちのこえがとおざかっていく。

 あれからどれだけじかんがたったのか、わからない。

 ぜんしんがいたい。

 かはんしんのかんかくがない。

 どうしよう。かえらなきゃいけないのに、からだがうごかない。

 じぶんのからだがどうなってるのか、わからない。

 こきゅうをしているから、いきているのだろう。だけどのどがひゅーひゅーいっていきぐるしい。

 だいじなものをうしなった。

 とてもだいじなものをこわされた。

 もどるのかな。

 なおるのかな。

 かえらなきゃいけないのに。

 かえりたい……。

 あのこがまってるばしょに、かえりたい…………。

 しにたくない…………。



 だれか…………たすけて。

ケモナーの方、ごめんなさい!

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