第5章。50年目のハッピーエンド。第24話。神様の最高のいたずらと、生まれ変わりのカルテ(最終回)
50年目の恋文 〜神様の決めた許嫁と歩む、半世紀のカルテ
〜第5章。50年目のハッピーエンド~
第24話。神様の最高のいたずらと、生まれ変わりのカルテ(最終回)
大調印式のステージで黒幕たちの悪事を暴き、街の医療の未来を守り抜いてから、さらに数年の月日が流れた。
私は55歳から始めた猛勉強の実を結び、ついに立派な『街の助産師さん』の資格を取得していた。
千秋先生が開いた小さな地域診療所の隣で、新しく産まれてくるたくさんの赤ちゃんや不安なお母さんたちの手を握り、一緒に涙を流しながら笑顔にする、最高のセカンドライフを過ごしていた。
お互いに別の相手を最後まで愛し抜き、すべての人生の義務を全うした私と千秋先生。
私たちは、残された二人の時間を、まるで5歳の子供の頃に戻ったように寄り添い合い、穏やかに、そして深く愛し合って暮らした。
そして――現世での天命を、手を握り合ったまま穏やかに全うした、ある日のこと。
ふと目を覚ますと、そこはどこまでも真っ白で温かい、不思議な光に満ちた空間だった。
「お前たち、本当によく頑張ったな。神である私の見立てに、狂いはなかったぞ」
声のする方を見上げると、そこにはあの頃と全く変わらない姿の銀髪の神様が、大きな白い羽をパタパタと揺らしながら、本殿の屋根の上……ではなく、雲の上に腰掛けて微笑んでいた。
「でもな、お前たちが現世で一緒になれた時間は、50年の遠回りのせいで少し短すぎた。私はな、お前たちが最初からずーっと離れずに、1分1秒も残さず甘い時間を過ごす姿が見たいのだ。……だから、神の最後の特大のいたずら(おまけ)をくれてやる!」
神様がお茶目ににやりと笑って、パチンと綺麗に指を鳴らした。
その瞬間、私たちの魂が温かい渦に巻き込まれ、心地よい眠りの中へと落ちていく。
「美琴ちゃん、生まれ変わっても、僕の隣にいてね」
「はい、千秋先生……っ」
次に、パチリと目を覚ました時。
私の視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど巨大な、天井のメリーゴーランドのおもちゃだった。
自分の手を見ると、驚くほどちいさくて、もみじのようにぷくぷくとした、赤ちゃんの小さな手。
「オギャア……アブゥ?」
声を出そうとしたけれど、まだ上手く言葉が喋れない。
おっとり天然な私が慌てて横を向くと、隣のベビーベッドの中に、同じようにぷくぷくとした手足を持った、でも驚くほど知的な目をした男の子の赤ちゃんが寝ていた。
その男の子の赤ちゃんが、私を見て、ふにゃりと目元のシワを寄せるようにして優しく笑った。
(美琴ちゃん、大成功だね。本当に、双子として生まれ変わっちゃったよ)
言葉はなくても、魂で千秋先生の声がはっきりと聴こえた。
千秋先生がちいさな手を伸ばし、私のちいさな小指を、ぎゅっと強く握りしめてくれた。
5歳の夏の日、あの神社で神様が見せてくれた金色の光の糸が、今度こそ、生まれた瞬間からカチリと繋がったのだ。
「よしよし、陽太パパがミルクを持ってきたぞ〜! 二人とも、お腹空いたねぇ〜!」
バタンと部屋のドアを開けて、エプロン姿で哺乳瓶を二つ抱えて入ってきたのは……なんと、すっかり立派な大人の男の人になり、優しい父親の顔をした、私たちの息子の陽太だった。
陽太は素敵な奥さんと出会い、無事に双子の赤ちゃんを授かった。
その双子の正体こそが、新しく生まれ変わった私たち二人だったのだ。
「ほら、お兄ちゃん、ミルクだよ〜。あー、ちっちゃくて可愛いなぁ。お医者さんであるパパが、二人を世界一元気に育ててあげるからね〜」
陽太パパが赤ちゃん言葉で話しかけながら、千秋先生(男の子の赤ちゃん)の口に哺乳瓶をあてる。
千秋先生はミルクをゴクゴクと飲みながら、心の中でクスッと笑っていた。
(よくやったぞ、陽太先生。パパとしての手際も満点だ。でも、ちょっとミルクの温度が熱いな……)
「次は妹のみことちゃんね〜。よしよし、お目目がくりくりでお母さんにそっくりだなぁ」
陽太パパが私を優しく抱き上げてくれる。
その温かい腕。
生まれつき涙もろい私は、かつて自分が命がけで産んだ陽太が、今度は私をこうして抱きしめて育ててくれていることに、胸がいっぱいになって「あぅあぅ」と嬉し涙をぽろぽろと流してしまった。
「あれっ!? みことちゃん、どうして泣いちゃうの!? パパ、何か痛いことしちゃった!?」
陽太パパが慌ててうろたえる姿を見て、ベッドの中の千秋先生が(あはは、美琴ちゃんの涙もろい天然なところは、赤ちゃんになっても変わらないね)と本当に楽しそうに笑っていた。
ざあっと、部屋の窓から心地よい秋の風が吹き込んできた。
ふと見上げると、カーテンの隙間から、あの銀髪の神様がひょっこり顔を出して、
「お前たち、今世は最初からずーっと一緒だぞ。神の私の最高のおまけだ、たっぷり楽しめよ」
とウィンクをして、青い空の向こうへと消えていった。
5歳のあの夏の日、
古い神社で神様がくれた小さな処方箋。
それは、お互いに別の人生を全うするという気の遠くなるような遠回りを経て、今度は生まれた瞬間から1分1秒も離れない、最高の双子の兄妹としての新しい命のカルテへと繋がった。
私の小さな薬指には、目には見えなくても、あの時千秋先生がはめてくれた水晶の指輪が、いつも温かくきらきらと輝いている。
これから始まる新しい人生のすべてのページを、大好きな千秋先生と、そして優しい陽太パパと一緒に、私たちは世界一温かい愛の言葉で埋め尽くしていくのだった。
(第一部・本編 すべて完結)




