美少年のストリップ
田中氏が設定したゾーン手前10m位置に停車する。彼のラインは東京、田園調布をスタートし、多摩川を越えてお隣、川崎市へと引かれている。スタート地点が勤務先に近いのはそれだけ行動に余裕がなかった表れだろうし、ゴール地点が自分の住居に近い位置なのは、まさしく、端からゾーンアウト前提であったことを窺わせるものだった。
俺達二人は車の後部に移った。大人数人が雑魚寝できる広さがある。
出口に近い側、後部ドア側の椅子にドールを座らせる。銀色の髪の毛を一本、提供してもらう。銀糸である。金払ってもいいと思っちまうほどの芸術品だった。恭しく指でつまむ。
遠く対角位置に、パイプ椅子に座った。意識を広く、希薄にさせた。ワープ。その毛が指から消え失せる。ほどなく――
顔をあげた。
「行く先の俺が確認した。髪の毛に特異な変化は見られなかった。大丈夫そうだ」
行く先とはアレである。ラベル『かわいい女の子がいる世界。abc123xyz456』のことだ。つまり、そこの世界の俺が、送られて来た毛に、問題になる変化は認められなかった、と報告してきた、そう意識した、ということだ。
「大丈夫でなくても、強引に連れてくつもりだったくせに」
「お前だって、小さい子は助けたいと思ってるだろ?」
「読心術かよ」
「心をさらけて頼むよ。お前だけが頼りだ」
「フフン♪」
覚悟を決めたのか、思わせぶりにゆっくりと立ち上がった。
俺は資料のため、車内カメラを回し始める。その前で――
ドールは、頬を染めて、呼吸を速めて、恥ずかしげに衣装を脱ぎ始めたのだった。
デッキシューズを脱いで、裸足になる。すらりとした、美しいおみ足だった。
デニム・パンツを、じれったいほど時間をかけてずり下ろす。自然、前かがみになるので、ワイシャツの裾がへそ下を隠した。美少年は膝まで下ろしたところで手を止める。後ろを向く。股を若干広げ、パンツが落ちないようにしてから身を起こした。
ワイシャツのボタンを外すしぐさ。やがて、はらりと白い肩が現れ、するするときれいな柔らかな背中が現れ、ワイシャツが床に落ちた。
最後に、膝に残ったパンツを、いまや丸出しになった桃尻をふり、ふり、させながら、ゆっくりと脱ぎ捨てるのだった。
全裸の完成である。
ドールは右手で股間を、左手で胸を隠してこちらに向き直る。やがて、勇気を振り絞るかのように、ゆるゆると、腕を開くのだった。
女性ホルモンの仕業だろうか、桜の花びら色した乳首がほこっと、丸くなっていた。美少年の身体にはよくあることである。それ含め、何もかもが感動的なまでに美しかった。ドールの顔は今や真っ赤だった。息が荒かった。恥ずかしさをいなすには笑うしかない。そんな初々しい顔だった。まじめな記録のためとはいえ、俺は、正直、湧きあがる感情を押し隠すのに苦労したのである。
俺は集中し、ルーティンを開始する。サイドテーブルに置いていたドールのパムホを指し示す。
「――二人のパムホをリンケージした。今から組になる。チーム・ゴースト出動だ。第1メンバーネームは俺、第2がお前だ。我らのゾーンはいつもの通り。スタート地点をここにして、ゴール地点はブラジルだ」
自分のパムホのディスプレイをドールに向ける。
「パムホは車ともリンクされており、ゲームスタートボタンタッチで車がオート前進。10mで、すなわちワープイン、20m地点でオート停車となる。もちろん、その前にセンサが危険を感じたら即座にストップする」
床を指し示す。
「俺とお前、二人の足元。および床にさらに2ヶ所。ならびに壁に2ヶ所、天井に2ヶ所、スイッチを設けている。ワンセット、特大、大、中、小、極小、それぞれのサイズの物理スイッチ、計8セットだ。異常を感覚したら間近のボタンどれでも、相手に構わずプッシュすること。
さらに、瞬間的な巨大化など、間に合わない事態の場合は、各種センサが自動反応する。
さらに、二人とも自覚できない異常が発現した場合は、カメラを通した車載(スーパー)コンピュータが判断し対処する。これは車外からの重大干渉も含まれる。これらのことが起こった場合、ただちにゴールボタンの“長押し”が実行される。
以上だ。ま、いつも通りだ。心の準備、いいな?」
「今回は、外部の脅威は心配しなくてもよさそうだね」
「まぁな。田中氏の理想の世界だからな」
俺は言葉を続けた。「じゃ、ミッションスタートだ」
「ちょっと待って――」
「ん?」
素足のまま来て、ドールは俺の顔を見上げて、手を伸ばした。
ネクタイをキチッと締め直してくれる。
「――“ベースマン”。もしもの時があったら頼んだよ」
俺はすなおに謝辞をのべる。「ありがとう。任せとけ」
ドールは元の位置に帰ると、ゆっくりとこちらに向き直った。
右手で股間を、左手で胸を隠している。やがて、勇気を振り絞るかのように、ゆるゆると、腕を開くのだった。
女性ホルモンの仕業だろうか、桜の花びら色した乳首がほこっと、丸くなっていた。美少年の身体にはよくあることである。それ含め、何もかもが感動的なまでに美しかった。ドールの顔は今や真っ赤だった。息が荒かった。恥ずかしさをいなすには笑うしかない。そんな初々しい顔だった。
美少年は二度、恥ずかしがる。
なんとなくそんなことを思いつつ、俺はスタートボタンにタッチしたのだ。
「ミッションスタート! 頼んだぜ“アタッカー”……」




