恥ずかしい格好の美人助手
その後、簡単な打ち合わせをして、旦那方にはいったんお引き取りを願った。
さぁ――パチンと手を打ち合わす。始めよう真剣に。成功すれば良し、失敗したら倍返しである。2億エンだ。うふッ! 心地よい緊張感だった。
東京・港区。風薫る五月初旬の、その青霞みの空のもと、コンクリート張りの、すでに暑いくらいの駐車場。
隅に、小型バスほどの大きさの黒いボックスカーがあった。みてくれはボロだけど、防弾機能を有している。いざとなったら籠城もできる、俺にとっては大事な商売道具だった。
サイドの多連物理ミラーに俺の姿が映る。白ワイシャツに赤の安ネクタイ。紺のスラックスに茶皮シューズ。商売人としては合格点すれすれの装いだろう。
運転席のサイドウィンドウに指先タッチした。スクリーンが表示される。俺の顔。
黒髪黒目、典型的な日本人。その窓がしゃべった。「認証完了」そして名前が一行。
『九尾ワープ』
オーナーたる俺の名だ。ドアがスライドする。乗り込んだ――
いまから10年ほど昔。
いきなり、世界中のパムホに、ゲームアプリが強制配信された。
それが、『リングドラゴン ~はるかな旅~』というタイトルの、一種の旅ゲーだったのだ。
説明文書によると、どこかでいつの間にか、群間戦争というものが起こったらしく、そして知らぬ間に終わったらしく、その後始末のために貴方の協力を求めている、とある。
もちろん、それはゲームの世界観、ただの設定というもので、(配信に尋常でない違法性があったとはいえ、)本気にする人類は皆無だった。ただ一人を除いて。そう、この俺だ。
アシストモードにて行先を口頭指示した。6輪それぞれのホイールモータが駆動する。車が動き出す――
そう、その瞬間から、俺は一種の多重人格者になっていたのだから。
無限にある並行世界、そこの自分一人ひとりと、意識が融合してしまったのである。俺はいながらにして、他世界の景色を見れるようになってしまったのだった。
物品を、世界を越えて、融通しあうことが、なぜかできるようになってしまったのだった。
他世界の情報を、自由に引き出すことが、できるようになってしまったのだった。
まるで、テキストにその存在が記されてある“高次元人”とやらの、サービスシステムに、リンクされてしまったかのように。
群間戦争に自分が巻き込まれていたのだと認識するに、時間はかからなかった。
そして、地球人類もまた、月日の経過とともに、これはマジモンだと悟るに至ったのである。
車は国道に乗り、風を切り、一路南を目指す。田園調布だ。当たり前だろう、旦那は金持ちなのだ。て、いうか、容疑者・田中氏の、ライン設定がそこだからだ。ならそこからのインの方が、不測の事態が少ない分、いいに決まってる――
俺は授かったこの能力を活用して、荒稼ぎした。『人探し』の看板を掲げたんだ。なんたって、どこへ行こうが俺には見通せるのだから仕方ないっちゃ仕方ない。
当時は、政府にはまだ、管理統括する当局もなかったし、アプリにも拡張機能がなかった。今では常識の、ゾーンを設定しゲームを開始したら自動的に当局にそのプランが登録されるってシステムがまだなかった。それが出来上がるまで数年かかり、つまりその間は俺の天下だったと言っていい。
“永遠のアウト”――ゾーンアウトした連中を救う(現世地球に連れ戻す)ことはできなかったものの、家族とインゾーンで合わせてやることができた。ひどく感謝されたし、ついでに儲けることもできた。
あまりの手並みの良さに、ゴースト、というあだ名が付けられたのもこのころだ。
そのうちに当局のシステムが立ち上がり、運用が開始される。俺への依頼は激減。ほとんどゼロになった。だけど、そのころにはもう、俺には一種のやり遂げた感があったし。また本業である学生生活の方が楽しくもなっていた。そゆわけで、あっさり引退。看板を下ろした。そう、まさにゴーストのように、消え失せたってわけなのだ。
「……」
一年くらい前だったか。一つの事実が明らかになる。一定の条件が満たされると、その世界は閉ざされる。二度と訪問できなくなる、てことが分かったのだ。
つまり、ふれ合うどころか、会見もできなくなるってことだ。
やはり何とか救出できないものか、て話が復活したし、再度研究もされたんだが、無理なものは無理だった。いくぶん覚めた目で、その騒動を眺めていたよ。実際、俺にも(訪問は)無理だったしね。
でも。
そんな時に現れたのが、コイツ。助手席に座る、コイツだったというわけだ。
羽生ドール。
以来、俺達は『人探し&救出』の看板を掲げることになったというわけだった。回想終わり。
「――て、ちょっと待て。ボクの紹介は名前だけかよ!?」
「お前は読心術師か」
「アンタなんて考えてることバカ丸出しだしぃ」
「……いま、バカっつったろ?」
「そら見ろ読心術!」
「ぐぬぬ!」
というわけで。(笑) この綺麗な声の持ち主こそは――
羽生ドール、貴族の出。お人形さんのように美しいヒトだった。
肩までのサラサラな銀髪、青紫の瞳。色素の薄い、柔らかな肌――
ダブな白ワイシャツ(←俺の)を、肩やら胸元がはだけるようラフに着て、おへそもチラ見させている。ボトムは今にも脱げ落ちそうなデニムのローライズショートパンツ。丸いお尻なんて半分も隠れているかどうかってくらいの危ない一品だ。靴は白のデッキシューズ。着衣はこれだけ。なんとも凄い格好だが、こんな姿するのも俺といるときだけだ。普段は違う。
この春、入学したての新一年生なのである。そして即、生徒会に所属を果たした、向上心あふれる、品行方正、真面目な模範生だったのである。そんな――
これから人生でもっとも輝く時代、青春時代をスタートさせたばかりの人間と。
終わったばかりのこの俺と。
コンビを組めたのは、やはりゲームがらみでコイツのピンチを救ってやったという、いささか都合のよすぎる出会いがあったからだった。
その時に俺は、コイツが、特別に貴重な存在。無限の並行世界の中でも現世にしかいない存在。自分同様、群間戦争によって特殊能力が付与されてしまったパーソンなのだと知るに至り。
コイツもまた、(俺の能力を知った上で、)自分一人ではゲームは事実上ムリだということを悟って。
息が合い、コンビを組むことになったのだった。
看板を掲げ、活動を再開してほどなく、だ。
ドールにあだ名が付けられた。
Devi。幽霊ごときと格が違うぞ。ヒンドゥー教における女神様の名だ。
どうぞググってくれたらいいと思う。
“彼”は、それほどまでの働きを見せてくれたのだから。
さて。(笑) 現場に到着だ――




