もげろ
喜びを爆発させる旦那一家を見送った後、俺はため息をついた。
後部ドアから中に戻る。
そこに、カメラが暴力的なまでに無遠慮に、四方八方から克明に記録を取り続ける中、哀れにも美しく、力なく、なすすべもなく白い肢体を晒し横たえる、全裸の美人助手君がいたのだった。
銀糸に青紫の瞳、薄い肌。まれなる美貌。赤皮の首輪。その鉄色の極細チェーンが、体に淫らにまとわりついている。体質変化し、ホームでの原型に戻った、ドール少年だった。彼は俺の目に気づくと、頬を染め、弱々しく、右手で股間を、左手で胸を隠したのだった。
「終わったぞ……」報告した。
「うん……」
俺の顔色を読んだのか、赤い顔のままドールは言葉を続けた。
「やっぱり、時々は、様子を見に行った方がいいんだろね」
さすがの相棒だった。裸だけど隙は見せない。俺も真面目に答えた。
「そうだな……。佐藤さん本人だけど他世界人。他世界人だけど御本人、だもんな」
今度こそ良い方へ転がれ、と願うしかない。これが現実だった。
「――」
頭を振る。
肯定的要素を付け加え、釣り合いを試みた。「――レミちゃんも張り切ってるし」
「ウフフ。そうだね、きっと……」とドール。
「きっと、な……」
仮初めかも知れない。けれどようやく、明るい空気がその場を包んだのだった。
裸のドールが悪戯っぽく口にした。
「ところで今回はスゲエ儲けたな? 1億エンだったっけ? ハハッ、なんてハンパない! よかったな、部屋から追い出されずにすむぞ。溜まってたボクのバイト代も、勿論ちゃんと払ってもらうからな!」
俺は、瞬間、首のすくむ思いがしたのだった。見逃さず、ドール、疑問顔になる。
「おい、どうした?」
観念した。
「実はな……。佐藤氏に、支度金として……」
「まさか――?!」
俺は重々しく首を縦に振る。
「全部くれてやったんだ」
このときこそドール、真剣な顔になったのだ!
「アホか!? マジどーすんだよ家賃! あの因業大家だぞ? 本当に叩き出される――!」
声が掠れている。
ところが――
俺は笑っていたのだった。だって、俺には最後の手があったんだもの。それも目の前に。
「ドールく~~ん……」にへら。(笑)
瞬間、悟って、裸の無力な美少年の顔が引きつったのだった。
「まさか、また、立て替えろってか、イヤだよバカ! いつも思い通りになると――」
俺は聞いちゃいない。両腕を広げると、両手の指をわさわさとする。ドール、血の気が引く。(笑)
「ばか、やるなよ、ほんとうにやるなよ! わかった! わかったから! 立て替えてやる! ああ、立て替えさせてください! だから――!」
隙を見せた。ゆるゆると、腕が開いている。
女性ホルモンの仕業だろうか、乳首がほこっと、丸くなっていた。何もかもが感動的なまでに美しい体だった。俺は無遠慮にドールの両足首を握る。ピクンッと反応する。
「なにすんだよバカっ、握るなって! 触られるだけでもう、くすぐったいんだよ! ボクが敏感だって知ってるだろ! しかも今、体質変化したばっかで、肌が生まれたてピチピチなんだよ! 知ってるくせになんで――わわわ体が動かせないんだよ! だから、ひゃん! バカ! くすぐったい! ばかヤメロって! くす、くすぐ、く、く、く――ああ抵抗できないのに! こんなところを襲うなんて卑怯者! あっ、わわわニギニギすんな――死ぬ! だからニギニギ、あっあっあっ、ああ引っ張るな! バカ開くんじゃない! 開くなってああんっ! あ、あ、あ、ダメ、だめだったら! 見ないで! あああダメ! わっ、だめ、広げないで! 広げないでおねがい! 丸出しになっちゃう。くふ、見るな、恥ずか、ハフッ、おふ、ふっふっふっ、だめ、だめ、あっあっあっあん、あんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあんあん――」
「こちょこちょこちょこちょ……」
「バカーーー! はあ~ん……!」
俺はたまらず覆いかぶさると、荒々しく柔茎を握り、耳元にささやくのだ。
「※※※」
ドールまっ赤な耳して――
「どっちのセリフだよ、変態!」とても綺麗な声、甘い息――
俺はいったん手を放すと、パムホをつかんだ。
タユウ本人の身体に戻れる世界はまだ見つかっていない。それはそうなのだが、実際は、オリジナル形ではない、というだけの話で、違う“人型”だったらすでにいくつか見つけていたのだ。
今や切ない顔になってるドールに、俺はパムホのディスプレイを見えるように掲げる。行き先だ。
ラベル『かわいい女の子がいる世界。※※※※※』
今回の依頼を受けたとき、俺がギョッとしたのも頷けるだろう。まんま、ネーム部が被っていたのだから! そしてそここそはエルフ。それも、巨乳ドール(&タユウ)に変じさせてくれる世界なのだった。
「エロフの間違いだろ!!!」
「さすが読心術」
「助平丸出し!」
「こう御期待」
俺はチェーンを引っ張り強引に、上気した顔を引き寄せる。くちびるをふさぎ、そのまま押し倒す。ボタン、タッチ、スタート。
「あん……♡」
嗚呼! 二人の車は、そりゃあもう、キャッキャウフフ、いそいそと、別の宇宙に消え去って行ったので、ありました!
(了)




