完全犯罪
「事情は、ベースマンさんから聞いています。すべて納得のうえです。ここで、“私”のあとを引き継ぐ所存です。なんなら、“ここの住人”になったっていい。現世では、子供を授かる前に妻に死別されてしまった。もはや天涯孤独の身です。だから誰にも迷惑はかかりません。逆に、この申し出を受ければ、“血のつながった娘”を持てるのです。かけがえのない運命なのだと事実を受け止めています――」
「その前に。どうやって車のガードを破ったのですか?」
「ホームの“貴方”から、一回限定の解除キーをいただきました。レミイさん説得用の、貴方のメッセージ画像も用意していただきました」
「――」
俺は見下ろすように目線を落とし、意識を広く、希薄にさせた。――確認した。
「どうだった?」外からドールが問いかける。
「いつの間にか“分離していた”ことに気付かなかったよ。今、自分と意識融合した。この方、佐藤さんの言ってることは真実だ」
「おお!」佐藤氏の顔が明るくなる。
「どうぞサチちゃんを抱いて、ひとまず外に出てください。私は、ここをなんとかしなきゃならない……」
「はい、お願いします――」
佐藤氏は頷き、その通りの行動をとる。
外に出て行ったところで、目覚めたのだろう、サチちゃんの声が聞こえた。
「あれ……パパ? ごめんなさいごめんな――」「サチ……」
穏やかな男の声だった。
「さ、おなかが空いたろう。チョコレートをお食べなさい」
レミちゃんの弾んだ声が聞こえた。「おともだちになりましょう!」
そして、待ちわびた主人公の、その言葉、その声音だった。
「サチちゃん、うれしい。しあわせ……」
これからもっとハッピーになれ! マジにそう祈った俺がここにいたのだった。
さぁ後片付けだ。
俺は、ここに死んでいる佐藤氏(夫)のみを、都合のいい他世界にワープさせた。死人はもはや物だから可能な事だった。当然と言うか、佐藤氏の肉体に住み着いていた、生きている菌やら微生物はここに取り残されるので、見れば吐き気を催す塊が後に残ったのだった。
俺は外に出てドアを閉じた。作戦を説明する。
「佐藤さんが留守の間に、田中氏が殺意を秘めて押し入ったことにします。実際そうなのですから、心配ありません。そのうえ田中氏は、昨夜幻覚を見たことを自覚しているでしょうから、さらに都合よく物事が運ぶでしょう。
さぁ、今から皆して、過去にターンです。ここの佐藤氏のアリバイを作ってから戻ってきて、それから警察に連絡、の手順です。佐藤さん――」
「これからが、踏ん張りどころなのですね」即答だった。
「――辛いでしょうが頼みましたよ。マジ、貴方だけが頼みの綱なのです。絶対、親子の幸せを手繰り寄せてください」
「はい!」
そういうわけで。
すべて工作を終えて。
俺らとレミちゃんは現世地球に戻り。
待ち構えていた旦那夫妻にお嬢様を渡し。無事――
ミッション・コンプリートとあいなったのでありました!




