映画
61話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
「ユキ、ここに映画のチケットが二枚あります」
そう言って、最近話題の海外映画のチケットを鞄から取り出して見せてくる。
確か…二人の働く男女の恋模様…だっけ。
テレビやらでチラッと見た情報だけで映画の大まかな設定を思い出す。
でも、その時には純粋に見たいという気持ちは湧かなくて、よくある映画のひとつと思っていたような気もする。
…それに
「これ、翻訳とか字幕なしの本当のそのままの映画だろ」
「えっ、あ…ほんとですね」
言われて、彼女は自分の持つ二枚のチケットを見て、声を漏らす。
一応、彼女に英語を学んでいるとは言え、そんなプロの英語を一、二時間そのまま聞き続けるのは身に堪える。
彼女の易しくしてくれている英語ですら一時間ぐらいでかなり疲れるというのに。
教えている本人だからこそ彼女もこの事の重大さに気づいたらしく、肩を落としてガックシ、といった様子を見せる。
「ま、そういうことで」
「いや!ちょっと待ってください!」
彼女は何か閃いたようで、下げていた頭を勢いよく上げた。
「…なに」
「ワタシが翻訳すればいいんですよ!ワタシが!ユキに!」
「…?」
「他のお客さんに聞こえないように、よいしょ…こんな感じでユキの耳元で小さな声で翻訳するんです!」
「うおっ」
首をひねる俺に身体を起こして近づけこしょこしょと囁いてくる。
背筋がビクッと反応してしまう。
「あら、可愛らしい反応ですねユキ」
「…急にだからだ。…それと、その案は無し」
「えー…ワタシ的には凄く良い案だと思いますけど…」
彼女は少し悔しそうにして、俺の耳元から離れる。
「…それだとお前が映画を楽しめないだろ」
映画を観に行ったのに、結局映画を見れずに終わってしまっては意味がない。
「いや、ワタシはユキに身を寄せられますから、全然オッケーです!」
「そしたら何のために映画館に行くんだ…」
「でも、ユキったら全然抱きつかせてくれないじゃないですか…」
「そら人の目があるし」
「…人の目が無かったらいいんですか?」
「…いや違う。言い方を間違えた。大体どこでも嫌だ」
「むぅ…そういう冷たいことを言うからワタシがこんな作戦思い付いてしまうんですよ…」
「こんな…なぁ」
「はい、こんな、です」
変な事を言っていたという自覚はあったのね…。
でも、彼女の言っていた通り、そんな変な事を言わせる原因も俺にある…らしい。
だが、それで許してしまうのはなんか色々おかしいし、なにより彼女の策にハマるような気がする。
彼女は思っているよりも策士なところがあるから気を付けなければいけない。
「…まあ、ともかく、映画の件は…最悪我慢するから」
「なんか…そんなことを言わせてしまって申し訳ないです…」
「いや、結局の問題は俺の英語の問題だから、おまえは関係ない」
言って、納得させようと思ったのだが、彼女はまた、ひらめいたように手にポンッと拳を乗せた。
「…!あ、そうですよ!ならユキにワタシが英語をもっと教えて、上達させればいいんですよ!チケットの期間もまだありますし!」
「えっ」
「そうすればワタシも映画をちゃんと見れますし!ユキだって変な不安も取り除けます!一石二鳥ってやつですよ!」
「いや…えっ、でもほら、俺の英語はかなり…悲惨だし…」
娯楽の話だったのに途端に勉強の話に変わって戸惑ってしまう。
だが、そんなことに彼女が気づく様子はなく、一人納得した様子で話を進める。
「そうと決まれば早速図書館でお勉強の時間です!だいじょーぶです!ユキは伸びしろがありますから!すぐに英語だけの映画も楽しめるようになります!」
反論の予知もなく、腕をとられて、今まで上ってきた階段から下りていく。
ありがとう…俺のためにそこまでしてくれて…。
ありがとう…二人で楽しむために時間を削ってくれて…。
でも…せめて話は聞いてください…。




