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階段の司書室  作者: いす
60/84

60話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

「なぁ、ちょっと聞きたいんだが」

「はい、なんでしょうか?」

特にこれといって変わらない帰り道。

昨日あった出来事で気になったことを彼女に質問してみる。

「昨日、放課後に本を借りに行ったんだが」

「はい」

「そこでな、お前のところの制服を着た人がいたんだ。見た目からして多分…俺たちと同い年ぐらいの。…で、何か心当たりはないかと」

言うと、彼女は人差し指を顎に当て、次に自分の制服を見る。

「うーん…ワタシの制服…男の子でしたか?女の子でしたか?」

「男…だったけど。何かお前と同じぐらいの身長だったかもしれん」

司書室の扉が閉まる一瞬で目が合っただけで、もしかしたら見間違いだったかも知れないが、それでも聞いてみれば何か知っているかもしれない。

そんな気持ちで色々彼女に情報を与えると、あーあー、と思い出したように声を上げる。

「それって多分なんですけど…とーくんじゃないですかね」

「とーくん?」

パン…く…

「はい。ワタシと同じクラスのとーくんです」

愛称を言われても、いまいち誰だか伝わってこない。

でも、愛称をつけられているということは不良とか、そういう問題児の可能性は低そうである。

「とーくん…」

「はい。まぁ、正しくは(えん)くんなんですけど」

「えんくん…?」

「遠距離とかの遠で、えんくんです。でもユキと同じように読み方を変えて呼ばれて、そのままの遠いの遠でとーくんって呼ばれえますね」

「ほー、親近感湧くな…」

漢字の読み方の魔の手がその遠くんにも伸びていたのか。

…でも、名前を知ったところでどうしてそこにいたのかは分からない。

図書室…というか、司書室といえば、問題児が一人いるぐらいなだけで、それ以外は特に…。

「…とーくんって、ユキの高校の司書室にいる子と仲良しみたいですよ?」

考え込んでいる俺を見て、察してくれたのか彼女がそう教えてくれる。

…その人の目的はその問題児だったのか…。

「あの子だったのか…」

「ユキ、お知り合いなんですか?」

「いや…知り合いじゃないけど…本を借りるときに手続きしてくれてるだけだから…まぁ、顔見知りだな」

「…その子と変な関係になってたりしませんよね?」

疑うような声音で彼女が言ってくる。

それに「あぁ」と、返したが一言だけだったのが不服なのか、眉を潜めて見てくる。

「本当だよ。本借りて返してそれで終わり」

「本当ですかぁ?…むぅ」

「ほんと、信じたくないならそれでいい」

「い、いや信じてますけど…でも…なんか…この帰ってるとき以外のユキってあんまり知りませんし…色々、心配なんですもん…」

「それはこっちも同じだ…。…え?なにその顔赤いのは」

彼女の頬が、赤みを徐々に帯びていく。

そんな、見ているだけで何処か恥ずかしささえ感じられる

彼女の目が、こちらをしっかりと見据えてきた。

「…あ、あの…あのそれって、もしかしてユキもワタシのこと心配して、思ってくれているってことですか…?」

…………。

「…い、いやそーいう事じゃなくて、本当に。ただ、なんかほらお前の噂とかは聞きたくなくても色々入ってくるし…中にはほら、ちょっと変なのもあったりするから…どうしても…気になったりするだろ…。し、知り合いなんだし…」

「…し、知り合い…ですか…」

俺があれこれ言った後にボソッと彼女からそう聞こえて、また彼女に目を向けてみれば、はずんでいた声と笑顔はどこへやら、その瞳は少しだけ潤んでいるように見える。

「…え」

「ワタシたち…ここまで一年も一緒に帰ってたのに……知り合いなんですね…そうですかそうですか…」

「いや…えぇ…」

墓穴を掘ってしまったらしく、彼女のテンションと周りの空気が、ドンドンと暗くなっていく。

なんというか…こういうしおらしい彼女は珍しいから…どうしても何とかしなければという気になってしまう。

無言が辛い、きつい。

「ふふ…ふふっ…ワタシ、ユキと仲良くしようって色々頑張ったんですけどね…知り合いですか…ユキの…知り合い…ふふっ」

「…いや違うから。ほら、あれだ、俺とお前お友だちだから。仲良しだから」

「……………本当ですか?」

「…」

「嘘ですよね…。ワタシとユキは所詮知り合い…嘘なんてついても心は傷つきませんよね…」

「本当だから、ちょっと反応が遅れただけだから。仲良し、超仲良し」

しばらくこれが続いた。




何とか慰めて話を戻し、その遠くんについてあれこれまた聞かせてもらう。

「…でも、とーくんも色々大変ですよ」

「ほー、なんで」

「とーくんのしてることって他校に毎日行ってるって事ですから。先生たちから変な目で見られることが多いんですよ」

「まぁ、そりゃね」

「それでいっつも先生達から罰だー、いい加減にしろーって、たくさん雑用を任されたりしてますもん」

「それは…大変そうだな」

そんなことになってまであの子の会いに行きたいのは、彼女の問題具合がヤバイのか、はたまた単に好きなのか…。

もし、この二つの理由でなかったとしても、必ずなにか理由はあると思う。

…でも、それ知ったところで俺なにも出来ないんだよなぁ。

「そんな感じで色々と任されているせいで、とーくんをそっとしてあげようという空気がワタシ達のクラスにありまして」

「ほー」

「ワタシ達から変に雑用を任せたり、日直の時にはなるべくもう片方が頑張る、とかですね」

「優しいな、お前のクラス」

「えぇ、仲良く仲良くです!…でもユキとワタシは…」

「もういいよそれは」

横目で彼女に視線を向けると、ため息が出てしまう。

…と、拗ねている感じからコロッと彼女の表情は変わって、次にうっとりした表情になる。

「いやぁ、羨ましいですね…例え会いに行くのを阻む障害があったとしても、それでも会いに行く!愛を感じますよ!」

「…まぁ、流石になんとなくではそこまではないだろうしな」

「いやー、ワタシも周りから変な目で見られようともそれでも迎えに来てくれる白馬の王子さまが欲しいですよ…チラッ」

言った言葉の通り、チラッとこちらを彼女は見てくる。

それを無視していると、「チラチラ」とわざとらしく耳に届くぐらいの声で何度も言ってきて、とても関わりたくない。

…そんな俺を見かねてか、階段の終わり、終点が迫ってきた。

「……」

「チラッ、チラチラ」

「…………ついたぞ」

最後の一段を上り終えた事を彼女に伝える。

すると、彼女はチラチラ言うのをやめ、その代わりにため息を吐いた。

「無視をされて悲しいです…」

「残念ながら俺にはお前を迎えに行く度胸はないんだよ。悪いな」

「あっ、なら!ワタシがユキを迎えに行くのはどうでしょうか!」

「…絶対来るなよ」

「そーですよね…ワタシ、知り合い…」

「もうそれはいいから…」

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