完治
53話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
もしかしたらという可能性は的中して、翌日になると襲ってきたのは風邪による咳と熱、そして変わらぬ頭痛。
気だるさも伴って、昨日は高校を休み、しっかりと家で休ませてもらった。
そしと今日の朝になれば、すっかりと体調は治り、咳も頭痛も嘘のように引いていた。
看病してくれた彼女にお礼の一言でも、と、考えながら階段前へボチボチ歩いて進んでいく。
…で、着いたのはいいんだが彼女がいない。
ちょっと早く着いてしまっただろうか。
そう思い、近くに置かれている時計に目をやろうとすると、遠くから声が聞こえてくる。
「…~…~……!」
「ん?」
街に響くような大声が、道を抜けて耳まで届いてくる。
…これは。
「ユ~キ~ッ!」
夏のあの時を思い出させる彼女の勢いある突撃。
回避行動なんて間に合わない。
始めの行動が遅れた時点でこちらの負け。
「ッ…!」
覚悟を決めようと、息を吐いた瞬間に腹にかかる強い力。
目に突如として写る金髪。
次に後頭部に激痛。
違う形の頭痛が金髪と共に襲ってきた。
「んふふ~♪ユキだぁ~♪えへへぇ~♪」
「…痛ってぇ…ぅぉぉぉ…」
頭に手を当てると、顔を上げた彼女が首をかしげた。
「あれ?ユキ、どうしてまた頭を抑えて…!まさか!まだ頭痛が治ってないんですか!?」
「今発症したんですけど」
「だ、だいじょーぶですかっ!?」
「大丈夫だから…とりあえず離れてくれ…」
「あっ……すみません…昨日は一人で帰っててずっと心配で…不安だったから…」
えへへ、と、軽く笑いながら
彼女の身体が離れていく。
生ぬるいコンクリートから、身体を起こして立ち上がり、彼女を見つめる。
目があった彼女はにっこりと笑顔を見せる。
「…まぁ…なに、とりあえずありがとう。…色々と」
「いえいえ、ワタシが無理矢理にしたことですから」
「それでもだ。…本当にありがとう」
お礼を言うと、彼女は照れくさそうにまた笑う。
「えへへ…ユキからお礼を言われるなんて、とっても嬉しいですねっ」
「そうか。まぁ、じゃあ…帰ろうか」
「はいっ」
いつも通り、彼女は隣に来て楽しそうに返事をしてくれた。
「あっ、そういやお前。昨日も来てただろ」
階段途中、思い出したことを聞くと彼女の顔に動揺が表れる。
「えっ、い、行ってませんよ?」
「…本当に?」
「…………」
流れる水の如く視線が動いていく。
彼女の身体に汗が1滴流れていった。
「どうなの」
「はい…学校帰りに…少しだけ…。でも、どうして気付いたんですか?ユキ、あの時眠ってましたよね?可愛かったですよ…」
「…そんな報告いらん。…タオルだよ」
「タオルですか?」
「そ、お前が頭に乗せてくれたタオル。うちの両親はあんなに綺麗に畳んで頭に乗せてくれるなんて事してくれないからな」
「えっ」
「うちの両親だったら不謹慎にも顔全面にタオルかけてくるから」
「ユ、ユーモアがありますね。ユキの両親は…」
無理矢理捻り出すように、俺の両親をフォローしてくれる。
ごめんね、ユーモアのある両親で。
「まぁ、だから頭のタオルを見て一瞬でお前って分かった」
「そうだったんですか…ひっそりと行動してたつもりなんですけど…肝心のところがダメだったんですね」
「別になにも言わずに来なくても良かったのに。電話やらで言ってくれたらちゃんと起きてたぞ」
「いえ、それではダメなんです!絶対に!」
力強く、彼女はそう言う。
なにか他に目的でもあったのだろうか。
…少し嫌な予感もするが、この不安をそのままにしておくのはもっと嫌な予感がする。
意を決して、聞いてみる。
「何を…しでかしたんだ…」
「じゃーん!これです!」
制服のポケットからスマホを取り出して、画面を見せてくる。
そこに写し出されているのは…
「寝顔…」
「はいっ!ユキの寝顔です!」
布団の中で死んでいるように眠る俺の寝顔。
それが…この街の人気者の携帯の待ち受け…。
「消して」
「これをですか?」
「頼む…」
「別にこれだけならだいじょーぶですよ?他に60枚ぐらい撮ってありますし」
衝撃の告白だった。
「…全部消して」
「嫌です。あ、そうだ。パソコンのデスクトップにもしておきましょうか」
「やめてくれ…」
「んふふ~♪ユキが風邪を引いてくれたお陰で、ワタシとっても得しちゃいました!」
「うぉぉぉ……」
「はぁ…ユキの寝顔…いつ見ても可愛らしいですねぇ…ふふっ…」
うっとりする彼女を見ると、また頭がズキズキと痛み始める。
…明日も休みたくなった。




