春・階段
二十話目です
誤字・脱字があったら申し訳ありません
春。
それは出会いの季節である。
どこもかしこもこの暖かな風に吹かれながら、その出会いを祝福する。
そしてその風は、いつもの階段前にも吹いていて、彼女の制服の大きなリボンを揺らしていた。
「悪い、遅れた」
「いえ、全然。さ、それじゃあ行きましょうか」
風で靡く髪を押さえながら、彼女は優しく言う。
それにあぁと返して、彼女の横に並んで歩く。
この階段には桜が咲くことは無いが、振り返れば満開の桜が街を包む光景を見られる。
…去年の春。
彼女がその光景を見た時の笑顔は今でも簡単に思い出せる。
それぐらいに、彼女のあの笑顔は可愛らしく、とても嬉しそうだった。
…そして、今年もまた、彼女は街の桜を嬉しそうに眺めた。
「やっぱりこの桜は凄いですねユキ!」
階段の上の街道から舞い落ちる桜の花びらを受けながら感動の声を漏らす。
自分が育てた物でもないのに、何故か嬉しくなってくる。
「だよな。桜を見るならここだ」
「はいっ!」
満開の笑みを見せた彼女を見てみると、金色の髪の中にピンク色の花びらが。
「…お前、頭に桜の花びら付いてるぞ」
「えっ、ほんとですか?」
「あぁ、ほんと」
「ど、どこですか、ここら辺?」
彼女は自分の頭を両手で触るが、ピンポイントで花びらに当たらない。
そうこうしている間に、もう一枚頭に追加された。
「あーあー、そこじゃない。もっと真ん中」
「えっえっ?ど、どこですか、真ん中?」
「通りすぎたぞー」
「もう…見てないで手伝ってください!」
「えぇ…」
「ほら、どこら辺ですか?」
彼女は頭を少しこちらに突き出してきて、手伝うどころか全任せである。
良い香りのするサラサラの髪から二枚の桜の花びらを素直に取って、またそれを風に流す。
「よし、取れたぞ」
「ありがとうございますね!ユキッ!」
今度は頭が上がり、彼女の顔が近くに迫ってきた。
整った目鼻とぷるんとした柔らかそうな唇が映る。
…危ない。
春の陽気にあてられるところだった。
「じゃ、まあ行くぞ」
「はい…あれ?ユキ?」
「なに」
「頭、桜の花びら付いてますよ」
「え、俺も?」
頭を片手ではらうが彼女は頭を横に振る。
「なんなら今度はワタシが取ってあげましょうか?」
「…別に大丈夫。どこなんだ…」
「もっと真ん中ですよ。あー、通りすぎましたね」
「本当にあるんだよな?」
「えぇ、四枚も付いてます。ちょっとしたオシャレですね」
「ま、オシャレならこのままでも良いかもな」
諦めて、階段を上ろうとすると、彼女が腕を掴んできた。
「ダメです。ワタシが取ってあげますから止まってください」
「…へーい…」
一段上ってぺちぺちと優しく叩いて、頭を向けてと言ってくる彼女に、頭を下げて取ってもらう。
…これ周りから見たら俺が謝ってるように見られない?
自分の姿勢を気にしながら待っていると、つんつんと四ヶ所に指が触れた。
「取れたか?」
頭を上げると、彼女は本当に四枚の花びらを手のひらに持っていた。
「はい、終わりましたよ」
「ん、あんがと」
「いえいえ~♪」
また、二人で足を進めた。
上っていると彼女の手がなにも言わずに絡んできた。
…まぁ、春だし、それに今日はちょっと気分が良い。
だから俺も、彼女の柔らかな手を優しく握った。




