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十一、シエラの使命(1)

 マクラムは、残った兵士をつれ、焼け野原となった戦場からカーランへと向けて山道を進み続けていた。食料も何もない状態で、その場その場で食料を調達しつつの厳(きび)しい道のりだった。


 この辺りには、村も集落もまったくと言ってよいほどない。沢水で空腹をいやした日もあり、生き残ったとはいえ、飢(う)えと疲(つか)れに苦しむ逃亡の日々は、地獄と言ってもよかった。


 一人、また一人、マクムラのもとを去り続ける兵士達。力尽(ちからつ)きてたおれて、まったく息をしてない者も出、マクラムは兵を連れ歩くのは限界だと感じた。マクラムは、残り少なくなった兵士に、好きにするよう言い、自分は疲れた足を引きずりつつ、カーランを目指した。


 だが、好きにしろと言われても、残った兵士達はどうすればいいのだろう。もはや、帰るべき場所はないのだから。兵士達のほとんどは、マクラムを追う事でしか、生きるすべは無いとわかりきっていた。


 ここまでついてきたのだから、最後までいっしょするしかない。


 そのかん、シエラはハクの背で、ずっと眠り続けていた。シルも空腹と疲労でたおれそうだったが、決してハクに乗ろうとはしなかった。そして、水も食料も手に入れば、眠り続けている妻に口移しで真っ先に与える。


 そして、シエラが、ギリギリ体力をたもてるだろうと思われる量を与えたあと、少ない分で、自分の空腹を満たしていた。その姿は、マクラムに従っていた兵士達の、かわききった心をいやしてもいた。


 そして、待ちに待ったカノンとジンがやっと合流した。二人は、荷馬車に大量の食料を用意していた。大急ぎで粥(かゆ)をつくり、弱りきった体に補給する。そして、マクラムは、眠っているシエラのそばでシルとともに、二人から話をきいた。


 カノンは、


「やっぱり、そうだったのか。こうなるんじゃないかと思って、できるかぎり急いだんだがな。」


 マクラムは、


「接触できたと判断していいんだよな。」


 カノンは、うなずいた。


「まさか、カーラン領主だったとはな。イーデン帝国のイヌが、あんたの協力者だったなんて、びっくりしたよ。」


 マクラムは、笑った。


「セリムは、幼いころ、領主の息子としてカーランに帝国から渡ってきたんだ。だから、帝国にいた事は、ほとんどおぼえていない。そして、やつの乳母はこの島の女だ。乳母は、かくれシオン信者だったから、いろいろと話をきいて育ったんだよ。だから、帝国人でありながら、帝国のやり方に疑問をもっているというわけだ。」


「ほんとに信用できるのか? かなり若かったぞ。」


「セリムは、ゼノンのバカ領主とほとんど年が変わらないが、何が帝国とエイシアにとり賢明(けんめい)か、よく考えている男だ。このまま、占領した国を搾取(さくしゅ)し続けていては、帝国は反感をもたれこそすれ、必要とされる事はなくなり、いずれ、ほろびてしまうとな。事実、帝国の占領政策は、どこでも同じだ。


 実際、セリムは帝国に以前に一度、自分の考えをまとめ、占領政策をもう少し柔軟(じゅうなん)にするよう訴(うった)えたんだよ。すべては受け入れられなくても、せめて、シオン信者の迫害(はくがい)だけはやめてほしいとね。返事は、まったくなかったと言っていた。たぶん、どっかで握(にぎ)りつぶされたんだろう。


 セリムは本心では、帝国と縁(えん)を切りたがっているんだ。あまりにも、占領地民を奴隷あつかいしてる。」


 ジンは、


「セリムからきいた情報によると、イーデンの西のある帝国の領土をめぐって、隣国(りんごく)のイリア王国と戦争が起き、そのかんに、他の占領国がイリアの助けをかり独立し、今、イリアと組んで帝国と戦争してるらしい。イリアは大国だからな。戦争するかたわらで、他国の手助けまでしてくれている。いっそ、イリアにでも泣きつくか。」


 マクラムは、首をふった。


「イリアの助けをかりて独立できたとしても、主人が帝国からイリアにかわるだけだ。どのみち、イリアのエイシアへの介入はさけられない。」


 カノンは、


「おれもそう思う。ところで、お姫様は寝っぱなしだな。ずいぶん、へばってるみたいだな。」


 シルは、


「敗戦してから、ずっとこうだ。もう何日も眠っているんだよ。」


 カノンは、


「実際、何が起きたんだ。こっちがわの山で、山が爆発したという話もきいている。」


 シルとマクラムは、顔を見合わせた。マクラムは、


「話しても信じてくれるかどうか。そう、実際、そのような事が起きたんだよ。最初は、何がどうなったのかすら、わからなかった。」


 ジンは、


「何が、あったんだ? お姫様がこうなってるのは、それに関係してるんだろう?」


 マクラムは、


「あの日、夜襲(やしゅう)をかけられて、もはや、ここまでと覚悟をしていたんだ。そしたら、空に大きな、そう、とても大きな二つの首がある、バケモノが出現したんだよ。」


 シルは、


「バケモノじゃない。あれは、ドラゴンだって何度も言ってるだろ。シエラのハクが、そのドラゴンなんだよ。けど、あんなに大きくはない。あれは、なんだったのか、おれもよくわからないんだ。


 けど、そのドラゴンをあやつっていたのは、シエラなのは確かだ。シエラが、助けてくれたんだよ。シエラが、天かける乙女の再来だって、バーサンからきいてんだろ?」


 ジンは、


「それで力を使いはたしたってとこか。」


 マクラムは、


「あの場所に行くとわかるのだが、あれは人間技ではない。ドラゴンだかなんだか知らないが、山も敵兵もそして、味方をも巻き込んで、すべてを消してしまったんだよ。あのような惨事(さんじ)に巻き込まれて、なぜ、私達だけが助かったのか、それもよくわからない。」


 シルは、


「だから、それもシエラだって。」


 カノンは、


「ところで、バーサンどうしたんだ? いっしょにこっちこなかったのか? それとも、死んでしまったのか?」


 マクラムは、


「年寄りの足は、足手まといだから、お前達の仲間にあずけたんだよ。たぶん、島にいるはずだ。」


 カノンは、そうかと言った。そして、眠っているシエラを見る。


「すべては、眠り姫様のお目覚め次第と言うところか。セリムは、シエラを保護してくれると言っていた。とりあえず、セリムが指定した場所まで行こう。ワナかもしれないが、それしか道はなさそうだしな。」

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