十一、シエラの使命(2)
シエラは、やさしい香りにかこまれた花畑で眠っていた。いったい、どれくらいこうしているのだろうと、ウトウトしている意識で考えもしたが、眠りから目覚められそうにもなかったので、そのまま眠り続けていた。
金色の長い髪が、眠っているシエラのほおにふれた。そのくすぐったい感触に、シエラはいやそうに顔をそらす。そして、そのままきげん悪そうに寝返りをうってしまった。
「あいかわらず、寝覚めが悪い娘だな。おい、ダンナが待ちくたびれているぞ。そろそろ、目をさましたらどうなんだ。シエラ。」
シエラは、ムッとした顔で薄目をあけた。明るい太陽の光が飛び込んできて、シエラは思わず目をとじてしまう。
「シエラ、でいいんだよな。今はシエラでな。昔の名前、呼んでも反応なかったから。」
「もう、うっさい! 眠いんだから、寝かせてくれたっていいじゃない! これだから、父さんはさ!」
そして、ハッとした。目の前にいるのは、父親のトナムとは別人だ。
「あんた、だれ?」
男は、金色の長い髪をかきわけつつ、笑った。びっくりするような美青年だ。年のころは、三十といったところだろうか。男は、
「だれかはないだろう。さっき父さんと呼んだじゃないか。ったく、あれだけ忘れないとかなんとか言っときながら、人間に生まれたとたん、忘れるんだもんな。」
シエラは、男の顔をうさんくさそうに見つめた。どこかで見たような気がする。けど、よくわからない。
「思い出せないよ。ほんとにだれなんだってば。」
男は、シエラの頭をくしゃくしゃとなでた。
「少しは、女らしい女に、生まれ変わるかと期待してたんだよ。もうちょっとこう、しとやかで、かわいげがあるような。お前の肉体上の母親のユリは、実に女らしい女だったのに。」
「母さん、知ってるの?」
男は、うなずいた。
「ああ、かわいそうな最後にしてしまった。あの二人は、お前達二人に、私への信仰を教えてくれる役割をしたんだ。だから、お前は、あの二人の親を選んで、あの夫婦の子供として生まれたんだ。」
「どういう事?」
「まだ、気づかないのか?」
シエラは、あっと思った。
「シオンの、神様?」
「違ってたら、私はここにいない。戦場は大変だったな。だが、あそこまでむちゃする必要はない。私が、お前を支えなければ、まちがいなくお前は、永遠にここの住人になっていたんだよ。」
「あのドラゴンは何?」
「ハクのかくされた力だ。二つ首のドラゴンだよ。ハクはな、この島の守護神であるドラゴンだ。そして、対となるもう一匹のドラゴンとともに、この島をずっと守ってきた。
今回のイーデンの二十年にわたる支配を、ドラゴン達はゆるしていない。だから、ああいうかたちで、帝国に一泡ふかせたんだよ。かなり、荒っぽいやり方だったけどな。私も、お前達がまきこまれるのではと、ひやひやしていたんだ。」
シエラは、うつむいた。
「五百人中、百人しか助けられなかった。」
「その四百人は、すでに死んでるか、助けても助からない状況にあったんだ。私は、助かる人数だけ助けたんだよ。それ以上は、お前の負担が重過ぎる。」
「どうして、もっと早く助けてくれなかったのよ。それよりも、どうして占領させたりしたのよ。神様なんでしょ!」
「それについては、私の責任だ。私は争いがきらいで、戦争に消極的だったばかりに、後手にまわり、こうなってしまった。」
「ねぇ、どうしてイーデンは、あんなひどい事、平気でできるの? イーデンの神様は、私達、あなたの信者を人間あつかいしないし。いつだったか、出会った僧侶なんか、邪神の子孫である罪をつぐなうために僧侶になったと言っていたわ。」
「イーデンの神は、本来は、他国の神を邪神あつかいなどしていない。実は、イーデンの教会は、占領される以前からも、このエイシアへとやってきてるんだ。当時の教えは心の教えが中心で、私の神殿ともうまくいってたんだよ。私も、エイシア人の教化につながるならと、寛容な思いで見ていた。」
「けど、甘かったって事?」
シオンは、うなずいた。
「それが、帝国の占領作戦の最初だった。帝国は、自国の教会が、私の信者達に迫害されていると言い、この島へと軍を派遣した。そして、占領してからは、教義の内容も変え、今にいたっている。
これは、エイシアだけでは無いんだ。大陸にある、イーデンの占領地すべてが、エイシアと同じになっているんだよ。イーデンの教会が、自分達の教えを広げたいと言う願いを、帝国の領土拡張欲が利用し、教会自体が乗っかったかたちになっているから、こういう結果になったんだ。
私を邪神と決め付けたのは、イーデンの神では無い。我のみ良しとする、人間の悪しき心だ。」
「人間の心?」
「悪しき心だ。欲望、執着、憎悪、嫉妬、怒り、その他もろもろ、悪しき思い。イーデンの場合は、行き過ぎた領土拡張欲だな。それに、悪魔と呼ばれる悪しき存在が取りつき、イーデンの他国への悪しき占領政策へとなっているんだ。このままでは、この島は、終わりになってしまう。だから、私は、お前を送り込んだ。
お前は、にくしみでもって、イーデンと戦ってはならない。イーデンが今までしてきた事への復讐も考えてはならない。寛容さでもって、戦わなければならないんだ。
でなければ、イーデンと同じになってしまい、そこにまた悪魔が取りつき、イーデンを追い払っても、エイシアに残ったイーデン人とエイシア人とのあいだで、血で血を争う内乱となってしまうだろう。」
シエラは、うつむいてしまった。




