0215・返却と銃
Side:イシス
スラム街となっている場所から、ゆっくりと表通りのある場所まで戻って行く。
特にどうこうという事も無く、スラムのチンピラに襲われるという事も無かった。
少し期待していたバステトは残念そうにしているが、俺達はスルーしている。
表通りへと戻ってきた俺達は、そのまま先程の爺さんが入って行った建物へ。
すると爺さんが一点を見つめてボンヤリとしていた。
俺達が入ってきた事に気付いていないらしい。
「すまない、爺さんに用があって来たんだが……聞いてるか? 爺さんに用があって来たんだが?」
「………何の用かは知らんが、この店はもう終わりじゃ。貸す金を奪われる金貸しなど、笑われるだけの者でしかないからな」
「客が全く来ない訳じゃないんだろ? それと、コレ」
俺は爺さんの前に袋を置き、その中から赤い物や青い物を出す。
それを見た瞬間、爺さんの目は憎しみに染まった。
どうやら爺さんは勘違いしているらしい。
「爺さん。あんた勘違いしているんだろうが、これはあんたの所から盗まれたっていうか奪われたもんだ。俺達が取り返してきたから返す。もちろん多少なりの謝礼は欲しいがな」
「い、いいのか!? 赤水晶と青水晶じゃぞ!? ワシが生涯において頑張って得てきた物じゃ! それを返してくれると!?」
「だからそう言っているだろ。それよりもその赤水晶や青水晶って何なんだ? 俺達はその情報の方が欲しいな」
「ふむ。ここまで高値の貨幣水晶は知らぬか。下の銅貨、銀貨、金貨は知っておろう? その上に黄水晶、緑水晶、青水晶、赤水晶とある。実はその上に白水晶と黒水晶があるが、ワシも見た事は無い」
「……これか?」
俺はアイテムバッグから白い水晶を取り出す。
これ一枚だけしかなかったんだが、そんなに上の貨幣だったとは思わなかったな。
「お、お主……いったいそれを何処で!?」
「それを奪っていった奴らのアジトで見つけたぞ? 奴らがコレを知っていたのかどうかは知らんがな。何故ならコレは壁の中に埋め込まれていた。それに、これは魔力を発してたから見つけられたんだ」
「ああ、これらは全て魔水晶を元に作られているからな。魔力を発しておって当然じゃ。ただしそれを見つけられる者は少ないのだが、お主はその能力があるようじゃの」
「魔力を感じられるヤツは少ないのか、知らなかった。俺にとっては普通の事だったんで気にもしていなかったよ」
「出来るヤツはそうなんじゃろうの。ちょっと待っておってくれ。すぐに裏から謝礼をとってくる」
そう言って爺さんは裏に行ったが逃げる事は無いだろう。
それにしても銅貨、銀貨、金貨以外に貨幣があるとは……。
そのままじゃ足りなかったんで、新たに水晶まで貨幣として定めたんだろう。
こういうところで貨幣制度の限界を感じるよなぁ。
それに見合う価値の物を貨幣に出来ないと、信用取引の紙幣にするしか無くなる。
この惑星はまだそこまで行っていないようだが、時間の問題じゃないかと思う。
【錬金術】というものがある以上、貴重な素材などは天井知らずの値段になるだろうし、それを考えると貨幣だけじゃ難しい。
この星は<大航海時代>辺りと考えるべきかもな。
「悪い悪い。時間が掛かってしもうたが、謝礼じゃ。色々と悩んだが、銅貨と銀貨は10枚ずつ、金貨は1枚ずつじゃ。これでも十分に奮発したからの」
「別にわざわざ言わなくてもいいって。相場より少ないと爺さんがケチだと言われるだけ、相場より高ければ太っ腹だと言われるだけだ。これは変わらんさ」
「そんな恐ろしい事を言うでない。金貸しにとってケチは致命的じゃ、なのでしっかりと入っておる。それに贋金など入れておらんからな。混じりっ気なしの本物じゃ」
「贋金を作るヤツが居るのかよ。また阿呆みたいなヤツが居るなぁ……。贋金なんて労力の割には儲からない事、よくやるよ」
「儲からんのか?」
「儲かる訳ないじゃん。そもそも贋金で儲けようと思ったら、ギリギリまで質を悪くしなくちゃいけない。が、そこまで質を落とせば簡単にバレる。バレないようなのは本物に近いんだ、つまり儲けは殆ど無い。しかもどこでも重罪だ、どう考えても割に合わないんだよ」
「ふむ……」
「仮にどんな者でも騙せる贋金を作ったとしよう。その代わりに一月で銅貨1枚の儲けしか出なかったら、果たしてやると思うか?」
「そりゃ、やらんわ。やる訳が無い。確かにそなたの言う通り、騙すために質を上げれば上げるほど儲からんようになるか」
「まあな。そもそも本物が限界まで儲けを抑えているのに、贋金がそれ以上に儲けを抑えられる訳がない。貨幣が無ければ経済が回らなくなるんだから、慈善事業じゃないが、それに近い形で行っている筈さ。貨幣作りをな」
そんな話をした後で、俺は爺さんの店を出た。
町をフラフラしつつ見て回っていると、店があったので買い物のフリをして値段を探る。
妙な果物が1個で銅貨1枚。
妙な野菜が一つ小銅貨2枚。
パンが小銅貨2枚で売っているが、思っているよりもデカい。
普通のフライパンぐらいの大きさの平たいパンだ。
これ発酵させてないヤツだな?
俺達からすれば何でもいいし、そもそも<時空の狭間>で食事をするので食べる事はないけどなー……。
この値段なのはおそらく、主食だから出来るだけ安く作ってるんだろう。
硬いもののスープに浸したら食えるしな。
他にも様々な物を見ていくが、そんな折に武器屋で見つけた。銃をだ。
俺は店主に断って、手に取り確認していく。
『俺の記憶には銃に関する物が多くない。あるのは映画とかで見たものだけだ。その中にはウエスタンのリボルバーとか、古い単発の小銃なんかもある。そしてこれはおそらく単発式の小銃だろう。いわゆるボルトアクションライフルだ』
俺はボルトを回して引いて調べたが、やはり間違いなく単発式だ。
底が浅いどころか、弾が一発入る隙間しかない。
そこに入れた弾を押し出してセットする。
映画とかで見た事があるヤツとそっくりだ。
これが売られているって事は、連発式の小銃はまだなんだろう。
とはいえ形状とバネでどうにでもなるので、連発式の小銃も遠くはない。
それでもボルトアクション式ならそこまで恐くはないので安心だ。
これは連発できたとしても、毎回手動で排莢しなければいけないので「バンバン」撃てるわけじゃない。
代わりに機構が単純で頑丈だという利点もある訳だが……。
俺はそれを一丁だけ購入する。
もちろん弾も10発購入し、小金貨1枚と銀貨1枚を払って外に出た。
すぐにアイテムバッグに入れて出たものの、町中では拳銃を持っている者も時折見る。
ただし、その形はリボルバーじゃない。
爺さんも持っていたが非常に古い形式の銃で、映画で海賊が使っていたのを見たような気がする。
『アレはイシスの居た星ではクイーン・アン・ピストル。またはターン・オフ・ピストルと呼ばれる、リボルバーが登場する前の拳銃ですね。ただし古臭いと盗賊が言っていたので、もしかしたらリボルバーも既にあるのかもしれません』
『今のところリボルバーを持っている奴らを見かけないから、もし在るとしても都会かな? ここが田舎だと仮定したらの話だが……』
『田舎なんじゃないの? 確かに盗賊とかは出てきたけど、あんまり豊かな感じはしないわよ?』
『そうですね。町中が賑わっている感じもしないですし、どこか閑散としている感じがします。スラムは人が居ましたが、あれは子供達だけでしたしね』
『そうね。子供達だけって事はないでしょうけど、大人の姿は全く見なかったわ。殆どが海に行っているのかもしれないけど』
漁をしているなら居ないのは分かるし、スラムの連中も漁をしているのかもしれないな。近場で。




