0211・決着
Side:イシス
呪いで真っ黒になったグレイと必死に戦っているが、形勢は徐々に不利になっていっている。
それ自体は予想通りなので仕方がないが、問題は逆転の手がまるで無い事だ。
黒くなる前とは全く違うし。
キィィン! ガッ! ドゴン!!
相手の呪われた剣が地面を叩いたので、俺はメイスで剣身をブン殴るものの意に介さない。
あれだけの音がしたにも関わらず、呪われた剣は刃毀れどころか傷一つ付いていないように見える。
もしかしたら俺がブッ叩いたからこそ危機感を持って、アンデッドにして吸収したのか?
自分が殺されると思った呪いの武具が、更なる呪いを欲してあんな事をした?
……重ね重ね、あの時に放っておいたのは悪手だったな。
盾で流すのにも慣れてきた御蔭で、体当たりなどは受けなくなった。
流石に何度もやられれば俺も学習するってもんよ。
言い換えれば何度か受けないと学習しないんだけどな。
ギン! ザッ!
先程の攻撃も体を入れやすい態勢だったから、俺はすぐに離れた。
とはいえ後退を繰り返している所為で、既に東の大通りの半ばまで下がって来てしまった。
ちなみにヤンマ王国軍は既に王都の外に出ている筈だ。
理由は、俺と呪いのグレイが戦っている最中に王城へと行こうとした者達が出たが、そいつらは即座に呪いのグレイに殺された。
何故かアンデッドにはせずに真っ二つにされたり輪切りにされていたが。
その結果を見て、王城に行くには呪いのグレイを倒すしかないと思ったようだ。
しかしコレが倒せるなら誰も苦労はしない。
こいつに対しては数の暴力が効かないし、数が居てもアンデッドにされるだけ。
現に一度された以上は、二度目が無いなどと誰も言えないのだし。
それもあってヤンマ王国軍は撤退……?
ザッ!! ダダダダダダダダ!
俺に背を向けて走り出したって事は、またヤンマ王国の奴らが何かしたかな?
俺はその隙に<時空の狭間>へと戻り、疲労をとって魔力を回復する。
それが終われば惑星に下り立ち、次の戦闘の準備を行う。
「「「ギャァァァァァァ!?!?」」」
「「「「グァァァァァァ!!?!」」」」
「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」
10人ぐらいが近づいていたが、全員殺されたようだ。
近付くなと言っていたのに、随分と愚かなものだな。
相変わらず、バカとは人の話を聞かないヤツで正しいらしい。
再びやってきた呪いのグレイと戦いながら、やはり攻撃は殆ど効かずに後退を余儀なくされる。
そうやって時間を掛けて下がり続けた結果、俺達は王都を出された。
その瞬間、王都の中心へと戻っていく呪いのグレイ。
「………あいつは俺達を王都から出そうとしていただけなのか?」
『あの行動を見るに間違い無さそうですね。しかしそうなると、いったいどうなるのでしょうか? 未だ終わっていませんし、いったいどうすればいいのやら?』
『そうね。あいつを倒さなきゃいけないのか、それとも何かしなきゃいけないのか……』
ドゴォォォン!! ドガァァァァン!!!
『王都で何やら壊しているようですが、いったい何を壊しているのでしょうか? なにやら悲鳴も聞こえてきますし、あの呪いのアンデッドが何かを襲っている?』
俺達は王都の外に出たままだったのだが。
悲鳴などが聞こえてくるので見守っていると、王都の住民らしき者達が町を出始めたのが分かった。
どうやら王都の住民まで殺し始めたようだが、いったい何の為にそんな事を始めたんだろう?
俺達は疑問を持ちながらも、王都には入らずに見守る事にした。
…
……
………
今、目の前には真っ黒なアンデッドが居る。
数は多くないものの、あの呪いのグレイが作り上げたものだ。
そいつらが王都の中を徘徊している。
中ではおそらく呪いのグレイが動き回って住人をアンデッドに変えているのだろう。
それを呪いで満たして、自分と同じ呪いのグレイを生み出しているらしい。
ただし呪いの武器を持っていない奴らは普通に倒せそうではある。
それをやると呪いのグレイが襲ってきそうなので、やっていない。
とはいえ呪いのグレイが新たな呪いのグレイを生み出し続けているので、俺達は王都に入る事を諦めて監視に切り替えた。
このまま放っておいても王都からは出てこないみたいだが、俺達の指令が終わっていない以上は、何かをする必要がある。
それが何なのかは分からないが、ゼンス王国の野望とやらの打倒は終わっていな……
『ゼンス王国の野望は打倒された。指令は完了した為、<時空の狭間>にて報酬を受け取り、次の惑星へと移動せよ』
「は?」
『イシス! ゼンス王国の野望は打倒されたって!』
『私も聞こえました! ゼンス王国の野望は打倒されたと!』
『終わったようですが、どういう事でしょうね?』
「…………ゼンス〝王国の野望〟なんだから、貴族を倒すとかそういう事か? つまり新たな王になりそうなヤツ、または成れそうなヤツを始末したら終わり?」
『その可能性はありそうですね。王都がメチャクチャになり、住民の多くが死んだからこその打倒かもしれませんし』
『王都がこの惨状だものね。国家としては崩壊してるでしょう、王城を壊したのは私達だけど……』
『アレは……忘れましょう。覚えていたって仕方がない事です』
『確かにそうね。覚えていても意味は無いわ。イシスは封印したし』
「あれより規模は小さく、自分でする分には封印しないけどな。皆で力を合わせるのは封印だ」
『そういう事。それより、これからどうするの? 指令が終わっちゃったんだけど』
『変な終わり方と言いますか、私達が何かをしなくても勝手に終わりましたが』
「言うなれば勝利条件を知らなかったんだから仕方ない。目標は設定されていたが、細かい勝利条件までは教えてくれないからな。今回のような事もあるさ」
『あの呪いのアンデッドはどうします? あのまま放置ですか?』
「それで良いんじゃないか? 無理に倒す必要があるとは思えないがな」
俺達が王都の東門前でそんな話をしていると、近くにウェロヌ達と第二王子がやってきた。
「呪いのアンデッドが増えている以上、もはや王都には立ち入りできぬな。入りたくもないが、ゼンス王国としては自業自得であろう。【死霊術】を悪用した罰だ」
「確かにそうでしょうね。呪いの武具まで使って滅茶苦茶な事をするから、こんな結果になるのよ。自分達が悪いんだから、どうにもならないわね」
「そうじゃの。まさかこんな結末になるとは思わなんだわ」
俺達が会話をしていると、右の方にいきなり高い声の少年が現れる。
っていうか、出てきていいのかよ。
「俺達の指令は終わったが、あんたは出てきていいのか?」
「構うまい。オムテス王国とは、そもそもワシを信奉しておる国じゃからの。だからこそ農業が盛んで、作物もよう実るじゃろう? 他の国には他の国が信奉している神が伝えに行っておる」
「伝えに?」
「そうじゃ。ゼンス王国が崩壊した故、これから下界の時で10日後。この土地にしてあった封印を解く。この王都から解くから、早く逃げるが良かろう。猛烈な魔力と瘴気が吹き上がるぞ」
「いやいやいやいや、間違いなく滅ぶだろ。そんな事をしたら」
「元々この封はすぐに解くつもりだったのだ。しかしワシらが封を解く前にゼンス王国を建国する者どもが入り込んでしまった。封を解く訳にもいかず、いつの間にやら国を興しおった。御蔭で我らですら手出し出来ぬようになってしまったのだ」
「ゼンス王国の王都が滅んだので、ここから封印を解いて解除する? つまり噴き出し口をここにするって事か?」
「そういう事だ。王都の近くにいたら噴き出す濃い魔力と瘴気に汚染されてしまうので、ワシは逃げろと言うておる。ちなみに信じるか信じぬかは好きに決めよ。阿呆を救うてやる義理など、我ら神には無い故にな」
そう言うと農業神は消えたが、言いたい事だけ言って帰って行ったな。
「ま、とりあえず俺達は逃げさせてもらう。農業神がああ言ってるって事は、ここに居たら死ぬって事だ。俺は死にたくないんで、とっとと逃げる。お前達も好きにしろ。じゃあ、撤退だ」
俺はそう言って、さっさと東へと走って行く。
このままゼンス王国の王都に居ても仕方ないし、あの呪いのグレイが居る限り、どうにもならないというのが正しい。
ならばここに留まる必要が無いんだよ。
モルドン王国とヤンマ王国がどうするかは知らないが、死んだとしても神の忠告を聞かなかったんだから自業自得だ。




